[No.165-1]望郷の影
No.165-1
「ねぇ、あっち行ってみない?」
敦子(あつこ)が、口にすると同時に走り出した。
「ちょ、ちょっと・・・」
敦子の気持も分かる。
私だって、走り出したい気分だった。
急いで敦子の後を追った。
ほどなくして、明らかに周辺とは違う風景が広がった。
「なんか、懐かしいね・・・」
街中を東西に分断するかのように緑が続いている。
「本当・・・よく似てる」
「この辺りは、どちらかと言えば・・・」
やや、草木がうっそうとしている。
(この雰囲気は・・・)
『赤レンガ・・・道庁ぉー!』
ふたりの声が重なった。
「これって楽屋ネタみたいだね」
言葉の意味は違えど、確かにそんな感じだ。
それを知らない者には何のことか分からない。
同郷の者同士だからできる、ローカルな話だ。
「あれ、見て!」
「わぁ、懐かしい!・・・と言うのも変ね」
夕暮れ時、視線の先に見慣れた塔が立っていた。
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