[No.163-1]未来が見えたなら
No.163-1
「もしも未来が見えたなら・・・」
飲み会の席で、亜美がボソッとつぶやいた。
冗談とも本気とも言える表情に時が止まる。
「・・・なぁ~んてね!」
場の空気をいち早く察知したのは、口にした本人だった。
その一言で、ようやく時が動き出した。
「もぉー!びっくりするじゃない」
周りも口を揃えたが、ほどなくそれぞれの会話に戻った。
気遣ってのことか、単に興味がないのか、それは分からない。
けど、少なくとも私は興味がある。
「ねぇ、さっきのことだけど」
飲み会の帰り、その話を切り出した。
亜美とは帰る方向が同じだ。
「やり直したいことでもあるわけ?」
「ううん、そんなたいしたことじゃないの」
未来が見えたなら・・・随分と、たいしたことだと思う。
それに、この手の話は何らかの後悔から来る。
なぜなら、自分がそうだからだ。
「聞いてもいい?」
「そのつもりで、さっき言ったんだけどね」
あえて、飲み会の席を選んだようだった。
そんな軽い乗りの方が、逆に気が楽な時もある。
「1年待てるのに、1日は待てない」
唐突とも思える亜美の言葉だった。
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