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2010年5月

[No.170-1]窓に映る私

No.170-1

「ちょっと心理テストしてみない?」
「いきなり何よ」
「ほら、今度、パーティがあるじゃない」

麻貴(まき)曰く、異業種交流パーティの作戦会議らしい。
会場のどこの席に座るかで、様々な心境が分かるという。

「ちなみに、そのテストは公式なもの?」
「ううん、麻貴プレゼンツだよ」

(話半分・・に聞いておこう)

麻貴がいくつか場所を挙げた。
カウンター、窓際、中央、そして小上がり。

「私はカウンターかな」

麻貴のカウンセリングを待たずとも、だいたい予想できる。
カウンターに座るのは、ズバリ社交的な人のはずだ。

「えー意外!」
(違う・・・の?)
「瑤子(ようこ)は男性を寄せ付けないタイプね」
「なんでよ?」

カウンター越しには店の人など、第三者が居る。
だとすれば、男性も口説きにくいはずだ。
そのことを言っているらしい。

「まぁ・・・そうね」

意外に納得できる答えだ。

「窓際も好きよ」

カウンターも好きだけど、窓際も捨てがたい。
それに、これも予想が付く。
以前、似たような心理テストを経験したことがあった。
自分に対する興味が分かる・・・そんな場所だ。

「へぇー、これまた意外!」

何が意外だと言うのか・・・答えが怖い。

(No.170-2へ続く)

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ホタル通信 No.024

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.38 純愛
実話度:☆☆☆☆☆(00%)
語り手:女性

変り種の話の第3弾です。このタイプは他にもあります。詩が出てきたり歌詞が出てきたり・・・もはや小説ではありません(笑)

実話度は0%ですが、話を作るきっかけとなるものは、どの小説にもあります。
この話は後半に登場する「純愛-卒業-」の一部のフレーズがフッ、と頭の中をよぎったことがきっかけです。
純愛をそのままの路線で行くと、ちょっと重くなりそうだったのであえて真逆のヘヴィメタルで話を作りました。

時系列が適当なので、流れは相変わらず分かりにくいと思います。要約すると智史は憧れの先輩で、歌詞の通り、私は恋に破れました。同級生でもあり事情を知るレベッカは時を越えふたりのキューピットとなるべく、歌詞を依頼し、智史を会場に呼んだのです。
それがきっかけとなり、ついにゴールインすることになりました。
最後のシーンでは、そのゴールインから少なくとも1年は経過したことになります。

最後に「純愛-卒業-」の歌詞について。

昔が手紙で、今はメールだとしても、女の子の気持ちは時代を通じて変わることはありません。
サブタイトルを“卒業”としたのは、最後のフレーズに引っ掛けたからです。
まさしく卒業式当日、私の目の前をその先輩が通り過ぎて行く。
振返りたい衝動をこらえ、もう、振返らないと決めました。それは行動だけではなく、気持ちの面でもそうでした

おこがましいですが、奥華子さんに歌っていただければ似合いそうな感じです
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[No.169-2]重いな・・・

No.169-2

「相変わらず、重いな」

一瞬惑うほど、数日前と全く同じセリフを言われた。
痛めた足首がまだ完治していない。
そこにきて、目の前に急な階段が立ち塞がった。
そのために、また貴志の背中を借りることになってしまった。

「またぁ!失礼な・・・」

途中まで言いかけたけど、なぜだがその先が言えなかった。
彼がいつになく穏やかな表情だったからじゃない。
その言葉の意味に、今、ようやく気付いたからだ。

「ごめん・・・」
「何のこと?」

始めはとぼけていた貴志も、すぐに私の想いに同調してくれた。

「体はきゃしゃなんだけどな」

貴志の表情はさっきにも増して穏やかだった。
他人からすれば、チグハグな会話をしているように見える。

「支えられそう?」
「どうかな・・・結構、重いしな」

私の過去までも背負ってくれる、彼の足取りは力強い。

「そのうち軽くなるよ、ダイエットと同じ」

私は返事をせず、黙って背中に顔を埋めた。

(No.169完)

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[No.169-1]重いな・・・

No.169-1

「相変わらず、重いな」

貴志の何気ない一言だった。
私は反論する前に、自問自答した。

(相変わらずって・・・今が初めてだよね?)

階段を踏み外し、足首を痛めた。
その時、彼が背中を貸してくれた。

「ねぇ、今までおんぶしてもらったことあった?」
「いいや」
「じゃあ、なんで“相変わらず”なのよ?」

それに女性に向かって“重い”の一言は、それこそ重い。
彼の反論を待たず、話を続けた。

「ちょっとぉー!失礼じゃない?」
「そうかな」

貴志が涼しい顔する。
お世辞にもスタイルが良いとは言わない。
けど、体重はダイエットの効果で健康的に今も減っている。

「モデルのようにもっと痩せろってこと?」
「モデルとは言わないけど・・・」
「じゃあ、女優?それともアイドル歌手?」

適当な答えがあれば是非、聞いてみたい。

「そう怒るなって・・・ほら、行くぞ」
「もう!この続きは後でだよ」

貴志が私をおぶって歩き出した。

(No.169-2へ続く)

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[No.168-2]鉄道員

No.168-2

「鉄道員だよ」
「えー意外、ポッポやだなんて・・・」
「俺、歳いくつだっけ?」

それは今から数えれば、かなり昔のイタリアの映画になる。
当時なら、それほど昔ではなかったはずだろうが・・・。

「全然知らないけど」
「俺もどんな映画かは知らなかった」

当時、映画どころか何の曲かも知らなかった。
いくつか曲を選択できた中で、これを選んだ。

「どうしてこれを選んだの?」

佐江(さえ)が当然とも思える質問をしてきた。

「他の曲は全部、カタカナで書いてあったので・・・」
「カタカナ・・・?元は英語ってことね」

さすが佐江だ、理解が早い。

「唯一、何となく意味が通じるから」

けど、実際聞いてみると思いのほか、寂しげな曲だった。
曲を聴くまでは、友人達と替え歌を作ってふざけていた。
そのギャップに何か後ろめたいものまで感じた。

「プレゼントしたオルゴール開けてみて」
「・・・嘘だろ?この話、初めてしたと思うけど」

包みから取り出しオルゴールのフタを開けた。

「・・・音がしない・・・けど・・・」
「曲は今から探しに行くわよ」

随分、久しぶりに聴くことになった。
大人になって聴くこの曲を、ようやく理解できる歳にもなった。

(No.168完)

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[No.168-1]鉄道員

No.168-1

小学生の時、図工の時間にオルゴールを作った。
作ったと言っても、箱自体は完成品だった。

「じゃあ・・・何を作ったのよ?」

佐江(さえ)が、もっとものことを言った。
僕の誕生日のプレゼントにオルゴールを貰った。
それが話のきっかけになった。

「フタの部分に彫刻したんだ」
「彫刻・・・彫るってことよね?」

皆、思い思いのデザインを施した。

「あなたは?」
「俺?あぁ・・・カブトムシ」
「・・・」
「聞いといて何だよ」

別の答えを期待していたようだが、小学生ならこんな程度だ。
自分の好きな物を彫っただけだ。

「結構、大変だったんだぞ」
「ふ~ん・・・で、曲は?」

カブトムシのくだりはもう終ったらしい。
あっけなく、本題へ移った。

「曲・・・?」
「オルゴールなら、カブトムシよりそっちでしょ!」

確かにそうだ。

「実は・・・」
「どうせ覚えてないでしょうけどね」

佐江の言葉とは裏腹に、今でも記憶に残っている。

(No.168-2へ続く)

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ホタル通信 No.023

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.06 四つのシリウス
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:天の声

変り種の話の第2弾です。現時点で167話を紹介して来た、冬のホタルですが唯一の三人称視点の小説です。

前半は実話に近いと思います。思います・・・との表現の理由は綾から雅宏との出逢いを聞いて、それを小説にしたからです。
だから、三人称にしたわけではありません。ブログを始めた頃は特にテーマも人称も決めていなかったという単純な理由です。
その内、心をテーマにしようと決めたために、三人称では都合が悪くなりました

綾は星が好きで、特にシリウスはお気に入りのようでした。
その影響もあり、当ブログ内ではシリウスの名前が随所で登場します。同様に、月を表す“ルナ”もそうです。

後半はほぼ創作です。
どちらかと言えば悪い意味で、彼女は涙を見せません。そんな彼女でも壮大なプラネタリウムを見上げ、涙するのです。この事実をもとに創作しています。
当時は気持ちだけで書いており、完成度としては恥ずかしい限りですが、ラストを盛り上げようとする、そんな片鱗を垣間見ることができます。

さて、冬のホタルでは裏でコッソリ、各小説がリンクしています。
今回の話も実は「No.08 銀河鉄道の夜」「No.18 無難なお土産」とリンク関係があります。
一見すると何の係わりもないように見えますが、プラネタリウムをキーワードにすれば、何らかの繋がりが見えると思います。
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[No.167-2]らせん

No.167-2

「びっ、びっくりしたでしょ!全くもぉ・・・」

一瞬でも麻由(まゆ)の世界に引き込まれた感じだ。

「私を別世界に連れて行ってどうするのよ!」
「ホント?」

どうにも楽しそうな雰囲気がシャクに障る。
(心配して損した・・・)
ちょっと前のアンニュイな麻由の面影はない。
それこそ、別世界から来ていたようだ。

「もー、何なのよ!」

真面目な話なのか、不真面目な話なのか混乱している。

「でも、らせん状は本当」
「・・・じゃなくて、そんなイメージだよ」

麻由が今度は寂しげな顔をした。

「・・・もう、その手には引っか・・・から・・・な・・・」

さっきのように威勢良く反論出来なかった。
そんな雰囲気を感じたからだ。

「ふたつの世界がらせん状になっててね」
「だから、時々交わり、出逢うのね」

けど、らせんはすぐに離れて行くのも確かだ。

「まぁ、またいつか出逢えるよ」
「らせん状・・・だもんね」

そう思える出逢いや別れが、誰でもあるはずだ。

(No.167完)

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[No.167-1]らせん

No.167-1

時より世界は交じり合う。
そう思える時が一度や二度、必ず訪れる。

「結局、住む世界が違ったのよね」

麻由(まゆ)がなんともアンニュイな顔をする。
住む世界が違う・・・。
自分自身を見下げて言うことがある。
逆に相手を蔑(さげす)んで言う場合もあるだろう。

「そんな相手に出逢ったわけ?」
「お互い手の届く範囲にいなきゃだめってこと」

異なる世界の住人が出逢う・・・。
決して大袈裟な表現ではないことは私も分かっている。

「流れからすると・・・」
「そうよ、元の世界に帰った・・・と言えばいい?」
「宇宙人みたいね」
「それ、最高!」

重々しい空気を一変させる一言になった。
それは半分冗談でもあり、核心をつくものでもある。

「ただね・・・それぞれの世界を行き来するんじゃないの」

一旦、終ったような話を続けた。

「時より、別の世界と交わる」
「それは何となく聞いたよ」
「そう・・・世界はらせん状になってるの」

更に空気が重くなった気がした。

「・・・どう?キマったでしょ?」

麻由が勝ち誇った表情を浮かべた。

(No.167-2へ続く)

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[No.166-2]退屈な時間

No.166-2

「あれ・・・?」
「どうした?」

菜緒がせいじゅうろうをひとつ、手に取った。

「これ・・・買った覚えがないんやけど」

パッと見では、緑の丸い塊を背負ったような感じだ。

「何だろう・・・草もち?」
(いや、そっち・・・の方向じゃなくて)
「何かのボールかな?」
(・・・微妙だけど、その方向で・・・)
「その前に、なんでこれがあるんやねん?」

話を振り出しに戻ってしまった。
そのストラップは菜緒の目を盗んでさっき俺が混ぜたものだ。

「その・・・あれだ・・・ま・・・と言うか・・・」

その緑の正体をつい口にしそうになった。
できれば菜緒に当ててもらいたい。

「沢山あるから思い出せないだけじゃない?」
「そうなんやろか・・・」
「そう!絶対そうだって!」

こうなるなら、素直に渡した方が良かったかもしれない。

「実は・・・」
「あぁー!もうちょっと考えるから待ってや」

俺を遮るかのように菜緒が割り込む。
もしかしたら、菜緒は知らない振りをしているだけかもしれない。
俺がこのストラップを混ぜたこと、そして緑の正体も。
だから、ふたりには退屈な時間は流れない。

(No.166完)

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[No.166-1]退屈な時間

No.166-1 [No.07-1]せいじゅうろう

「へぇー、沢山集めたな」

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色々な着ぐるみのリラックマが並んでいる。
いわゆるご当地物のストラップだ。

「むっちゃ、集めてん」

数えるのに、少しためらいを覚え始める量だ。
物を集めることに関しては、男女関係ないようだ。

「これは長崎で買ってもろたやつ」

今更「誰に?」とは聞かない。
菜緒を取り巻く複雑な人間関係は承知している。

「これ、一番のお気に入りやねん」
「これなぁ・・・」

菜緒が買った時の話を始めた。
この手の話は聞く方に、苦痛にも似た退屈な時間が流れる。
その場に居なければうなづけない話が多いからだ。
でも、菜緒と居る場合は違う。

「今度、俺も札幌に戻ったら探してみる」
「ほんまに?」
「仲間が増えるんよ!良かったですなぁ」

その言葉は俺ではなく、並んだせいじゅうろう達に向けられた。
こうやって純粋に喜び、そして話してくれる。

「良かったですなぁ」

ひとつひとつ手に取り、話しかけている。
他人には理解し難い時間が過ぎて行く。
けど、俺にとってはこの上なく大切な時間なんだ。

(No.166-2へ続く)

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ホタル通信 No.022

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.17 出逢いの歯車
実話度:★★☆☆☆(40%)
語り手:女性

今回のホタル通信を含めて数回に亘り、変り種の話を紹介していきます。

まずは、この話の背骨になるものは、“出逢いは奇跡である”ということです。様々な偶然を積み重ね、それは成し遂げられる。
沙紀はそれをジグソーパズルに例え私は歯車に例える。どちらもひとつでも欠けると、不完全のままです
ただ、歯車の場合はパズルよりもシビアで、ひとつでも欠けると出逢いと言う最後の歯車を回すことはできません。

この話のきっかけになったのは、ある人との出逢いです。

それこそ色々な偶然が積み重ねられたことを歯車に置き換えて話を作ってみました。
ラストの部分は小説の視点が一人称であることが災いしちょっと分かり難いと思います。「もしもし・・・」と電話を掛けた相手なんですが、私の彼であり、最近ギクシャクしていた・・・との設定です。
その伏線は「油を差さないと」のくだりになります。

さて、この小説のどこが“変り種”だが分かりますか?

実は話の中身そのものでなく「No.66 奇跡の星」で「出逢いの歯車は間違っている」と、突っ込まれます。
自分で作った小説を、自分で“間違っている”と言っているのですから前代未聞ですよね
ただ、これは最初から狙っていたわけではなく「こんな考え方もありますよ」と言いたいため、あえて自分で突っ込んだわけです。

更に「No.66 奇跡の星」は「No.86 始まりはただの人」に繋がっていきます。
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[No.165-2]望郷の影

No.165-2

「なんか変な感じね」
「グレー・・・かな」

一見すると無塗装にも見える。
それでも、見た目はそっくりだ。
それから、しばらく会話が止まった。

「ねぇ、お盆休みどうする?」
「帰らないつもりだったけど・・・」
「私も、同じ」

再び会話が止まる。
敦子(あつこ)も同じ考えのようだった。
思いのほか住み慣れた町の光景と重なったはずだ。

「風が・・・気持ちいいね」

体には感じない。
木々の葉がささやく程度に揺れた。
敦子はそれを、そう表現した。
 
「見えてないでしょ?」
「何よ、その質問?」

敦子のリラックスモードを見ていると、つい聞いてしまった。

「目の前の光景のことよ」
「なんだ・・・そうね、見えてないね」

敦子も私も見えていない。
見えているのは望郷の影だ。

夕日にテレビ塔が赤く染まる。
そこには見慣れた赤いテレビ塔が立っていた。

(No.165完)

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[No.165-1]望郷の影

No.165-1

「ねぇ、あっち行ってみない?」

敦子(あつこ)が、口にすると同時に走り出した。

「ちょ、ちょっと・・・」

敦子の気持も分かる。
私だって、走り出したい気分だった。
急いで敦子の後を追った。
ほどなくして、明らかに周辺とは違う風景が広がった。

「なんか、懐かしいね・・・」

街中を東西に分断するかのように緑が続いている。

「本当・・・よく似てる」
「この辺りは、どちらかと言えば・・・」

やや、草木がうっそうとしている。
(この雰囲気は・・・)

『赤レンガ・・・道庁ぉー!』

ふたりの声が重なった。

「これって楽屋ネタみたいだね」

言葉の意味は違えど、確かにそんな感じだ。
それを知らない者には何のことか分からない。
同郷の者同士だからできる、ローカルな話だ。

「あれ、見て!」
「わぁ、懐かしい!・・・と言うのも変ね」

夕暮れ時、視線の先に見慣れた塔が立っていた。

(No.165-2へ続く)

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[No.164-2]追い越す私

No.164-2

「ねぇ、どうするの・・・これから?」

修羅場こそないが、ドラマのワンシーンのようでもある。
すれ違いの原因は分からない。
ドラマなら、回想シーンのひとつでもあれば事足りる。
改めて、今が現実だと知った。

「俺、もう帰るな」
「待ってよ・・・」

自分の言葉に力がないことは分かっている。
その証拠に、もう彼は目の前には居ない。
(・・・追いかけなきゃ・・・)
まさしく、ドラマと同じシーンが展開された。
去って行く彼・・・そして追いかける私・・・。

「遅かった・・・」

いつもの駅に彼の姿はなかった。

「バーカ!早いんだよ」

背中越しに彼の声がした。
いつの間にか彼を追い越していたようだ。

「いつも先に行くよな」
「じゃ、歩調を合わせてよ」
「まぁ・・・仕方ないか」

ドラマなら最終回でも、私達にとっては始まりとなった。

(No.164完)

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[No.164-1]追い越す私

No.164-1

稀にドラマと同じようなシーンに遭遇する。
有りそうで無さそうな、そんなシーンに・・・。

『お客様の中にお医者様は・・・・』

もはや定番とも言えるシーンがテレビの中で展開されている。
そして、必ず医者が居る。

「そりゃ、ドラマだからだろ?」

一也(かずや)が、当然だと言うような口調で答えた。

「本当にそんなことあるのかな?」
「意外にあるらしいぞ」

数百名の乗客からすれば、居てもおかしくはない。

「まぁ、一人ぐらいなら・・・ね」
「ほとんど医者だっだこともあったみたいだな」

一也が言うには、何らかの医者の集まりがあったらしい。

「その人、ラッキーだよね!」
「逆だよ!機内で調子悪くなるんだから、アンラッキーだよ」

この頃からだった。

一也との関係がギクシャクし始めた。
そして、お互い意識して距離を保つようになった。

(No.164-2へ続く)

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ホタル通信 No.021

小説の舞台裏やエピソード、作者の想いを紹介します。

小説名:No.37 ラジャー!
実話度:★★★☆☆(60%)
語り手:男性

話の中心である“ラジャー”と言う言葉、そして話のラストを飾る“ラジャりました”は実話です。

冬のホタルでは小説の舞台が、「メールでのやり取り」の場合が度々ありますが、その内容・・・特にある単語を切り取ったものはこれ以外ありません。
“ラジャー”だけで話を構成したのであれば、実話度はそんなに高くはないのですが、登場する綾乃の人物像は、実際と非常に近く書いているため、この程度にしています。

皆さんは相手への同意を表す言葉に何を使いますか?

“ラジャー”と言う言葉は、アメリカの古い映画やドラマで使われているイメージを持っています。綾乃の言う通り、軍隊的な表現だとも思いましたが、何か別の言葉が使われていたような気もしていました。
でも、とても不思議なことがひとつ。綾乃の口からその言葉を聞いたことはありません。なぜか、メール・・・文字だけにそれを使っているようでした。

そんなラジャーですが、小説に書いたように、笑顔になれる言葉なんですよね。彼女の純粋で元気な・・・それらが全て詰まっているような気がしています。
ラストを飾る“ラジャりました”は確かに大笑いし、彼女らしい一言は、今でも心に残っています

またいつの日か、この言葉に出逢うために、ブログを書き続けているのかもしれません。
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[No.163-2]未来が見えたなら

No.163-2

(1年待てるのに?・・・どんな意味だろう・・・)

1年待てるなら、1日待つことは簡単なことだ。
そのままの意味なら、矛盾している。
多分、あのエキスを加える必要があるのだろう。

「もしも未来が・・・これが鍵なのね?」
「そう・・・分かる?」

その答えは見えないものの、何となくそんな気がする。
何かを感じているからかもしれない。

「昔、付き合っていた彼が居てね・・・」

振返るように話始めた。

「1日だって待てなかったの」

彼から来る返信メールを1日も待てなかったらしい。

「彼だって色々と事情があるわけでしょ?」

返事が遅いから、待ちきれず催促のメールを送る。
急ぎの約束なら、まだ催促のしようもあるだろうが・・・。
案の定、彼とは連絡が途切れてしまったようだ。

「結果的に1年待ってることと同じになった」
「別れて1年ってことか・・・」

もしも未来が見えたなら・・・。
今日の1日を待つようになる、そうならないためにも。

「あなたなら1日待てる?」
「簡単なことよ」

だって、もう2年も待っているのだから。

(No.163完)

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[No.163-1]未来が見えたなら

No.163-1

「もしも未来が見えたなら・・・」

飲み会の席で、亜美がボソッとつぶやいた。
冗談とも本気とも言える表情に時が止まる。

「・・・なぁ~んてね!」

場の空気をいち早く察知したのは、口にした本人だった。
その一言で、ようやく時が動き出した。

「もぉー!びっくりするじゃない」

周りも口を揃えたが、ほどなくそれぞれの会話に戻った。
気遣ってのことか、単に興味がないのか、それは分からない。
けど、少なくとも私は興味がある。

「ねぇ、さっきのことだけど」

飲み会の帰り、その話を切り出した。
亜美とは帰る方向が同じだ。

「やり直したいことでもあるわけ?」
「ううん、そんなたいしたことじゃないの」

未来が見えたなら・・・随分と、たいしたことだと思う。
それに、この手の話は何らかの後悔から来る。
なぜなら、自分がそうだからだ。

「聞いてもいい?」
「そのつもりで、さっき言ったんだけどね」

あえて、飲み会の席を選んだようだった。
そんな軽い乗りの方が、逆に気が楽な時もある。

「1年待てるのに、1日は待てない」

唐突とも思える亜美の言葉だった。

(No.163-2へ続く)

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[No.162-2]ある場所の奇跡

No.162-2

「それ、どこか分かるよ」

璃子(りこ)が、何のためらいもなく答えた。
映画、ゲーム、SFを繋ぐキーワードは未だ見つからない。
けど、それらの要素を全て含む人なら、目の前に居る。

「・・・うそ・・・どこよ?」

冗談とも思える即答ぶりに、多少の疑問を抱いた。

「疑ってる・・・聞いといて?」
「だって・・・」

後に続く言葉が見つからない。
期待通りに答えを出してくれたのに、なんだが釈然としない。
余りにも、あっさり答えられたせいかもしれない。

「その人が地元の人だとすれば・・・」
「すれば・・・?」

ピンポイントでその場所を当てられると言う。

「多分、あの場所ね・・・で、さぁ・・・」
「分かってる!車でしょ?」

もうひとつのキーワード・・・車で走りながら見る。
その条件も満たしているようだ。

「じゃ、同じく・・・日曜日に」

日曜日、友人とふたりでその場所へ向かった。
あえて、どこに行くのか聞いていない。
「もうすぐよ」
「えっ!まだ、高速道路降りてないよ」

その場所へ向かうために、高速に乗った気でいた。
「ほら、ここよ」
右へカーブしている道を走りながら、左手にそれが現れた。
なるほど・・・見れば納得できる。

「あぁー!もっとゆっくり走ってよぉ!」

気付けば大声と共に、コンビナートが視界から消えていった。
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(No.162完)

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[No.162-1]ある場所の奇跡

No.162-1

『・・・うん、そうね、あの景色はきれいだったよね』

店内のBGMが途切れた瞬間に、フッと耳に飛び込んできた。
隣の席の女性が、携帯電話で小声で話している。

『映画やゲームのワンシーンを思い出さない?』

(映画・・・夕暮れの海とか、かな?)

気付けば、会話に聞き耳を立てていた。

『・・・そう、そう!SFっぽいしね』

(SFっぽい?)

さすがに夕暮れの海は違うと分かる。
映画、ゲーム、SF・・・何か繋がりがあるようには感じる。
それぞれを繋ぐキーワードは何だろうか・・・。

(あっ!何、人の話に夢中になってるのよ!)

自分で自分に言い聞かせた。
良く言えば人間観察だし、悪く言えば盗み聞きだ。

『断然、遠くから見た方がもえるよ』

(もえる・・・萌える・・・ってこと?)

遠くと言うことは、かなり広大な景色だと言うことだろう。
あるいは大きな建造物とか・・・。

『ねぇ、ねぇ、今度いつ行く?』
『・・・日曜日?・・・分かった・・・』
『今度は、もうちょっと、ゆっくり走ってよ』

会話はそこで終った。
私の心に、大きなモヤモヤ感が残った。

(ゆっくり走る・・・車だろうか?)

車で見なければならないほど広大な景色・・・。
確かに映画やゲームの壮大感にも繋がる。
ただ、残念なことにその答えを知ることが出来ない。

(No.162-2へ続く)

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