[No.161-2]生命の足音
No.161-2
「信じてほしくて話したんじゃない」
由布子(ゆうこ)が、搾り出すような声でしゃべった。
「聞いてほしかっただけ」
そう言えば、虫の知らせは親しい間柄に起きるとも言われる。
だからこそ、聞いてほしかったのかもしれない。
「ごめん・・・そんなつもりじゃ・・・」
「分かってるの、自分でも」
俺も全く信じないわけじゃない。
逆に、本当はそうあってほしいと願っている。
「もし、もしだよ・・・」
万一、自分に何かあったら・・・そんなことを由布子に話した。
「縁起でもない!・・・でも、ありがとう」
「知らせに来るよ、必ず」
それこそ縁起でもないが、自分で実行してみれば分かる。
冗談ような話だが、案外、本気だ。
「でも、どうやって知らせてくれるの?」
「そうだな・・・やっぱり、音かな」
「そうね・・・」
ふたりで、悩む姿が笑える。
「あなたドジだから、何かにつまずた音がするんじゃない?」
「そうだな・・・由布子の部屋、散らかってるしな」
今度は、ふたりして本当に笑った。
生命の途切れた音・・・そうじゃないかもしれない。
新たな絆が繋がる、その瞬間の音が聞こえるんだ。
(No.161完)
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