[No.161-1]生命の足音
No.161-1
「ねぇ、虫の知らせって信じる?」
「・・・」
神妙な顔つきに、即答を避けようとする意識が働いた。
この手の話題は夏が相場だ。
「・・・け・い・け・ん、したとか・・・?」
恐る恐る聞き返してみる。
単にテレビや雑誌の話題かもしれない。
けど、由布子(ゆうこ)の雰囲気から、そう聞き返してしまった。
「うん、音が聞こえたの・・・」
「音・・・?」
確かに、家の中で何か物音がしたとか良く聞く。
「あっ!実際の音じゃなくて」
慌てて、由布子が否定した。
何か具体的なものはないけど、その瞬間が分かったと言う。
「それを音に例えてみたの」
「なるほど」・・・本来はこう答えてあげたい。
ただ、それ以前に“経験した”と言う事実・・・。
それを、どう受け止めたら良いのだろうか。
それにもう一つ、亡くなった相手が誰かと言うことだ。
「告別と言うか・・・」
「生命の途切れた音って、言えばいいのかな?」
由布子が話を続ける。
もはや、それが存在することを前提で話をしているのが分かる。
「俺は信じないな」
短い言葉だったが、会話を終らせるには充分だった。
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