No.126-2
(もう、いいよ!)
最後はこんなセリフだった。
彼女はケータイを乱暴にバッグに投げ込んだ。
その瞬間、着信音がなった。
言うまでもなく、相手が誰だか分かる。
彼女もそれを知ってか、電話には出なかった。
この日のために、オシャレしたのだろう。
服も靴も、輝いている。
唯一、彼女の表情のみが曇ったままだ。
着信音が徐々に遠くなり、それと共に彼女の姿も見えなくなった。
「あなたの想像力には感心するわ」
あの電話の女性が目の前に居る。
「ロビーの隅じゃなくて、真ん中だったけどね」
「後はだいたい当たってるわね」
あの日、急な予定が入り、彼女の元へ行けなかった。
最近の冷めかけた関係もあって、ある意味覚悟もしていた。
「どうして、そのまま別れなかったのかって、今でも思う」
「それは僕も同じだよ」
時間の経過と共に、修羅場は笑い話に変わった。
「ロビーは私達にとって、別れの場所じゃない」
「出逢いの場所・・・だったね」
あの日、それを思い出すことに、お互い時間は掛からなかった。
(No.126完)
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No.126-1
空港でひとりの女性を見かけた。
彼女に目が行ったのには理由がある。
メールが来る度に、彼女の表情が曇って行くのが分かる。
相手は彼氏だ。
それから、彼女は電話を掛け始めた。
相手はもちろんメールの主だ。
(電話していい?)
その返事を確認してから、電話したようだった。
「なんでよ!」
ざわついていたロビーが一瞬、静寂に包まれた。
さすがの彼女も、それを察知したようだ。
すぐに小声になり、その場所から立ち去った。
彼女はロビーの隅に向かおうとしているらしい。
「どうして・・・来れない・・・約束・・・」
ロビーのざわめきが、彼女の声をかき消す。
途切れ途切れにしか、会話が耳に入らなかった。
ロビーの隅では、何らかのやり取りが白熱しているのが分かる。
彼女のボディランゲージが徐々に大きくなっているからだ。
(No.126-2へ続く)
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No.125-2
「・・・普通よね?」
季節を先取りした記事とは言えない。
それに、わざと遅らせた気配もない。
「なんだろうね・・・」
他のページをパラパラとめくってみた。
「あれ?」
「なに?・・・あ!」
先に気付いたのは友人の方だった。
「これ、4月号じゃない!」
どうやら、入れ替えされないまま放置されていたようだ。
よく見れば、多少色褪せている。
「失礼しちゃうわね、もう!」
「いいじゃん、ちょっと暇つぶしできたしね」
「まあ・・・そうだけど」
確かに友人の“天然”のお陰で、少し暇を潰せた。
でも、季節外れの記事に、“なにか”を期待したのも事実だ。
それだけに少し残念な気もする。
「急に春が待ち遠しくなったよ」
結果的に、気持ちの上で季節を先取りしたようになった。
「もう、その辺りに生えてるかもよ!」
「ほら、足元」
「まさか!真冬だよ・・あっ!」
足元を見ると、本当にタンポポを踏ん付けていた。
特集“蒲公英”と書かれたタンポポだった。
(No.125完)
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No.125-1
多分・・・聞かれると思う。
それに加えて“例え”も予想できる。
「ねぇ、ねぇ、これなんて読むの?」
(ほら、きた!)
街角に置いてある無料の情報誌を読んでいた。
「どれ?」
「この・・・」
「蒲焼のような字のこと?」
「なんで分かったの!?」
特集のタイトルに大きく“蒲公英”と書かれている。
それに、でかでかと写真も掲載されている。
・・・とは言え、読めない人にとっては意味を成さない。
「タンポポよ」
「タンポポって、あの・・・」
「ラーメン屋のことじゃないからね」
これ以上、天然には付き合ってられない。
それにしても・・・春にはまだまだ遠い。
時期が早すぎるのか、それとも遅すぎるのか・・・。
とにかく、季節外れの記事だ。
「とにかく、先、読ませて」
タイトルから先に進めていない。
先を読めば、記事の意図も分かるはずだ。
「それで・・・」
「今度はナニ!」
チョット、イラっとして答えた。
「どうして、今頃タンポポなの?」
「だから、今からそれおぅ、ゴホッ、ゴホッ・・・」
勢い余って、思わず咳き込んでしまった。
(No.125-2へ続く)
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No.124-2
「声を失くしたカナリア・・・か・・・」
忘れるつもりが、逆に頭から離れない。
たまに、例のブログを覗いて見る。
更新は相変わらず、半年前のままだ。
カナリアはカナリアではなく、本人の可能性が高い。
何かに絶望した・・・そうともとれる内容だ。
「どこに行くの?ねぇ、カナリアさん・・・」
名も知らぬカナリアに語りかけてみる。
どうしても、最後の一行が気になるからだ。
~自由になれるから~
未来(ミク)じゃないけど、最悪の結末も考えられる。
だって、一番大切なものを失っている。
それなのに、自由だなんて有り得ない。
「・・・あれ?」
よく見ると、コメントを受け付けている。
(気付かなかっただけ・・・?)
そう想う先から、キ-ボードを叩く私が居た。
「もし・・・そうなら・・・確かめてみよう」
数日後、あの詩は消されていた。
ただそこには“カラ”の鳥かごのイラストが掲載されていた。
声を失ったカナリアは、その役目が終る。
でも、それと引き換えに、自由を手に入れたようだ。
(No.124完)
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No.124-1
声を失くしたカナリア
目を閉じても、もう何も聞こえない
声を失くしたカナリア
もう、誰も振り向いてくれない
それでもね
声を失くしたカナリアは悲しくない
だって、自由になれるから
「悲しい詩(うた)ね」
ネットで、一遍の詩を見つけた。
本来は、“カナリア”という洋食店を探すつもりだった。
「・・・なんか、テンション下がるわね」
ネットカフェで友人と一緒に調べていた最中だった。
突然、交通事故に遭ったような・・・そんな気分になる。
作者の性別や年齢は不明だ。
それに・・・。
この一編を掲載しただけで一度もブログは更新されていない。
「よっぽど飽きっぽいか、それとも・・・」
「未来(ミク)!」
友人の言葉を遮った。
「滅多なこと、言うもんじゃないよ」
「・・・ごめん」
内容が内容だけに、嫌な予感もする。
だからこそ、未来の言いたいことは分かっている。
「・・・それより、探そうよ、お店」
「そうね」
ネットでは時折、こんな思いがけない出逢いがある。
(No.124-2へ続く)
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No.123-2
「知り合いにチャーミングな人がいるの?」
「そうね・・・目の前の人とか?」
「こら!もうノラないわよ」
どうやら、人そのものがきっかけではないらしい。
表現しにくいものを、時に言葉は的確に表現する。
「小学生の頃、近くに工場があったよね?」
友人とは幼稚園以来の付き合いだ。
確かに、家の近くには町工場が点在していた。
「それが、チャーミングと、どう繋がるわけ?」
「覚えてる?」
「何を?」
「ほら、その工場の独特なにおい・・・」
においの記憶をたどる。
(うぅ・・・ん、何となく覚えてる)
「何だっけなぁ・・・ほら、あれよ・・・何かの焼けたにおい・・・」
「ヒント言う?」
「お願い!」
このままだと気持ちが悪い。
友人に助けを求めた。
「プラスティックに・・・・?」
(プラスティックに・・・プラスティック・・・あっ!)
「・・・ソースを掛けてぇ!」
「そうそう!」
「焼いたにおい!」
「正解!」
誰も試したことがないのに、そう思ってしまうにおいだっだ。
(No.123完)
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No.123-1
「ねぇ、チャーミングの意味、知ってる?」
「あ・・・うん、知ってるけど」
友人が前触れもなく、質問してきた。
英語が堪能じゃなくても、意味は知っている。
「そうね・・・私みたいな人のことかな?」
多少、笑いを期待して答えた。
「へぇ~、気の強い人のことなんだ」
「そうよ・・・こら!」
ノリツッコミするはめになった。
友人も直訳は分かっているらしい。
その上で・・・何か理由がありそうだ。
「ほら、可愛らしい人をそう言わない?」
友人の言いたいことは何となく分かる。
直訳すれば“魅力的”だ
ただ、都会の洗礼された女性を、チャーミングと呼ぶだろうか?
魅力的ではあるけれども・・・。
「どちらかと言えば、お茶目なイメージがあるよね」
ちょっと間の抜けた感じ位が、イメージに近い。
逆に、そんな人を言い表すことができる言葉だ。
「話を戻すけど、“私みたいな人“ってどんな人?」
「戻さなくていいよ!」
タイミングを逃したユーモアは恥ずかしくもある。
(No.123-2へ続く)
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No.122-2
桃子に結果を見せた。
「0.00・・・3%?」
「ほとんど意味を成さないんじゃない?」
「どうして?」
「ほら、果汁0.003%のオレンジジュースって意味ある?」
言う通り、それなら限りなく無果汁だ。
ゼロに等しいと言われても当然だと思う。
「話がそれちゃったけど、結局ナニの%なの?」
「彼と過ごした時間よ」
「どう言うこと?」
「こう言うことよ」
桃子に計算式を見せた。
一緒に居た時間が、1回あたり2時間。
それが12回で、合計24時間・・・だから1日。
それを人生80年として、割合を計算した。
「ふーん・・・」
意味がない、そう言いたげな表情だった。
確かに、彼と過ごした時間は無果汁のジュースと同じだ。
「でもね・・・」
この割合が結論ではない。
結論は他にある。
「たった・・・たった、0.003%の人が・・・」
少し言葉に詰まる。
言い表せない感情が込み上げてきた。
「私の人生を変えてくれたんだ」
(No.122完)
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No.122-1
“12回×2時間=24時間”
「1日かぁ・・・」
(で、人生80年として・・・)
“80年×365日=29200日”
「わぁ!すごい日数」
(えっと、割合は・・・)
“1日÷29200日=0.0000342・・・”
「だいたい、0.003%か・・・」
「ねぇ・・・さっきから何、計算してるの?」
桃子が私のメモ帳を覗き込む。
「何で分かったの!?」
「さっきから、ブツブツつぶやいてるし・・・それに」
「それに?」
「ケータイ、電卓モード!」
思いっきり計算中だ。
「それにしても・・・私を無視してよく集中できるわね」
約束の時間にまだ間があった。
その時間を使って、あることを計算していた。
つい集中し過ぎて彼女の到着に気付かなかった。
「ごめん、もう計算終ったから」
答えが出た所で、桃子に声を掛けられた。
「話を戻すけど、何の計算?」
(No.122-2へ続く)
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No.121-2
お互い独身だけど、恋人同士でもなんでもない。
仲の良い異性の同僚・・・と、僕は思っていた。
「えっ!違うの?」
周りに誰も居ないこともあり、つい声に出てしまった。
メールの内容は、明らかに誤解を招く。
仮に僕が既婚者なら、ただじゃ済まないだろう。
(ど、どうしよう・・・)
彼女の好意に、気付いていなかったのかもしれない。
同郷でもあり、確かに仲は良い。
『ありがとう・・・気付いてなかった』
『鈍感ね、やっぱり』
返す返事・・・返すメールに困る。
思いがけない展開に、驚きを隠せない。
(さっき、言ってくれれば・・・)
でも、社内だし、どこで誰が聞いてるかもしれない。
それを気遣ってのことだろう。
『今日はもう帰るよ』
手短なメールを返した。
『そうね、そうしたら?』
ちょっと、他人行儀な返事だった。
照れくさいのかもしれない。
『じゃ早くしてね。あなたの自転車寒そうよ』
(No.121完)
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No.121-1
『ご主人さまの帰りを待っているよ・・・ひとりで』
会社の同僚から、こんなメールをもらったことがあった。
送り主は、女性だ。
「おい、おい・・・このぉ、色男が!」
話の前後を上手く説明しないと、必ずこうなる。
「お疲れ様、今日も遅いの?」
廊下で彼女から声を掛けられた。
「見ての通りだよ」
時間はもう21時を過ぎている。
僕もそうだけど、彼女も十分遅い。
「そっちこそ、今、終わりだろ?」
「そうよ、じゃお先にぃ!」
(ちょ、ちょっと・・・!)
何らかの話の展開を期待したけど、意外なほどあっさりだ。
(大変でしょ?とか・・・体、大丈夫?・・・とか)
心の中の叫びとは裏腹に、彼女の背中が遠のく。
「ハァ・・・」
期待は、タメ息に変わった。
「とにかく、もう少し頑張ろう!」
机に向かい、一気に書類を仕上げようとした時だった。
『ご主人さまの帰りを待っているよ・・・ひとりで』
彼女からメールが来た。
(No.121-2へ続く)
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No.120-2
食は何となく想像できる。
お酒が飲めるようになり、年齢と共に体質も変わった。
音楽はその時の心境が大きく影響する。
泣いたり笑ったり・・・今の自分に相応しい音楽に巡り合う。
「異性も簡単じゃない」
「経験でしょ、人・生・経・験!」
言う通りだと思う。
出逢いと別れ、傷付いたり、傷付けられたり・・・。
心の成長と共に、好みも変わる。
「でもね・・・」
「でも?」
「なにか足りないような気がするの」
「経済力とか将来性とか・・・リアルな話は無しよね?」
二人で笑った。
「それも、人生経験でいいんじゃない?」
年齢を重ねれば、夢から現実へ、物の見方が変わる。
「今度の彼とは上手く行くことを願っているわ」
「えっ!新しくできたの?」
「まぁね、今度こそ本物よ」
「あっ・・・」
そう言えば、私にも“本物”を見分ける力が少しずつ付いている。
好みが変わるんじゃなくて、目利きが鋭くなってるんだ。
(No.120完)
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No.120-1
食の好みは年齢によって変わる。
苦手なものが好きになったり、逆に嫌いになったり・・・。
「そう考えると異性も同じね」
「そっ、そうね・・・」
急に言われると一瞬考え込んでしまう。
年齢によって男性の好みも変わることに異論はない。
「それに、食(しょく)するって言葉・・・」
「それがなに?」
「男性を食べちゃう・・・なんてまさしく、食(しょく)よね」
「ハァ・・・あ?」
今度は意味がよく分からない。
「料理も男性も同じってことよ!」
「じゃ、音楽もよね?」
「音楽、食べるの!?」
「そこじゃない!」
同じなのは音楽の好みも変わることだ。
今はもう聴かなくなったCDが山積みになっている。
私の部屋はそんな状態だ。
「いきなり話題を変えるわね」
(あなたもよー!)
「まぁ、食も男も音楽も同じってことよ」
「でも、何でだろうね?」
私の一言は長い沈黙を生んだ。
(No.120-2へ続く)
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No.119-2
「一時はどうなるかと思ったよ」
友人に、当時のことを話した。
「現代版、お岩さん・・・ってとこね?」
「それ以上かも・・・まぁ、冗談だけどね」
ただ、ちょっとしたことで腫れてしまうのは事実だ。
思っていた以上に、デリケートな部分でもある。
「どうしたの?」
友人が何か言いたげだ。
「どうして腫れた・・・」
「・・・あ、ごめん。その前に聞いてもいいのかな?」
そう言えば話してなかった。
隠すつもりはなかったけど、言いそびれた面もある。
「失恋したの」
「失恋・・・?」
「思いっきり泣いたの、私」
自分でも予想しなかっただけに、朝の絶叫となった。
「目の腫れと失恋の大きさは比例する・・・か」
友人が何とも奇妙な結論を付けた。
(No.119完)
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No.119-1
「わ、わぁぁぁー!」
鏡の中の自分を見て、朝から絶叫した。
寝起きの顔は、人に見せられたものじゃない。
けど、今回はそれが可愛く見えるほどだ。
「腫れてる・・・」
よく見れば・・・いや、正しくは目が腫れているのでよくも見えない。
左目のまぶたが視野を遮っている。
(昨日の?)
昨夜、まぶたと言うか、目というか・・・手でこすっていた。
それと共に眠りについた所までは記憶にある。
「寝たあとも?」
多分、無意識に触っていたのかもしれない。
それにしても・・・。
「これじゃ、会社に行けないよぉ」
とは言え、休む訳にもいかない。
(あっ!まだ残ってたかも!)
急いで薬箱を調べた。
数年前にも同じようなことがあり、眼帯を買った記憶があった。
「やったぁー!発見、発見」
(さてと・・・)
「わぁぁぁー!」
もう一度、鏡を見て驚いた。
眼帯の発見に気を良くし、“こんな顔”の自分を忘れていた。
(No.119-2へ続く)
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No.118-2
「先週の話しやけど・・・」
「あ、あぁ・・・」
気のない返事を返したが、実は心待ちにしていた。
「会議・・・のこと?」
「そうやで」
菜緒が会議の内容を話してくれた。
(誕生日のイベントか・・・)
「そうだったんだ」
「仕事関係の人?」
“誰の”とはまだ聞いていない。
「仕事?ちゃうよ、目の前の人」
(目の前って・・・)
「えっ!俺?」
「そうやで」
「そうやでって・・・わざわざ会議までして」
「ご隠居も参加してたんよ」
(そうなんだ、ご隠居まで・・・ご隠居?)
いつもの予感がよぎる。
「確認するけど、会議の参加者はご隠居と菜緒を含めて・・・」
「5人に決まってるやん!」
そう言うと会議のメンバーをカバンから取り出した。
「ご隠居は、家で寝てますけど」
(No.118完)
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No.118-1 [No.07-1]せいじゅうろう
「さっきまで、会議してたんよ」
(そうなんだ・・・そうだよな)
モデルと言えども、会議はあるだろう。
「でも意外だな」
「なにがぁ?」
「菜緒と会議が全然イコールにならないよ」
「あー!それ似合ってへん・・・ってこと?」
そう、確かに似合っていない。
菜緒も戦略とか売り上げとかを口にするのだろうか。
(いや・・・)
会議と言っても打合せ程度かもしれない。
打ち上げの話・・・の可能性だってある。
「どんな会議だったの?」
多少、興味がある。
内容ではなく、菜緒が参加したことに・・・だ。
「ごめん、それは言われへんなぁー」
当然と言えば当然だろう。
「こっちこそ、変なこと聞いて・・・」
「ええよ、来週教えたるわ」
(今は言えない・・・か)
仕事場での菜緒を知らない。
だからこそ、余計に気になった。
「あと、同じ会議が2回あるねん」
計3回の会議か・・・何を話し合ってるのだろうか。
とにかく、来週を待とう。
(No.118-2へ続く)
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No.117-2
「へぇー、おもしろい話ね」
佳代子に“予言の書”の話をした。
「全部同じなら、ひょっとして、ひょっとすると・・・」
「予言が当たってる・・・ってこと?」
私の気掛かりをよそに、なんとも楽しそうだ。
「冗談よ、子供の頃の想いが、そうさせたんじゃない?」
潜在意識がそうさせたのかもしれない。
偶然と言うか、必然と言うか・・・。
「それにしても浮かない顔ね?」
「ちょっと気になることがあって・・・」
「作文になんか書いて有ったの?」
佳代子の目が輝いている。
明らかに“知りたいモード”に入っている。
「逆よ・・・」
「逆?」
「無いの・・・」
「無い?」
何とも短い会話が続いた。
「一体、何が無いって言うのよ?」
「書いてなかったの」
「お嫁さんになりたい・・・って」
でも、1年後、予言の書は単なる作文だと分かった。
(No.117完)
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No.117-1
『おおきくなったら、パンやさんとはなやさんと・・・』
子供の頃の作文に、そう書いてあった。
『しょうらいなりたいもの』
タイトルにそうも書いてある。
「2年4組・・・か」
先日、実家から荷物が届いた。
その中に、子供の頃の思い出が入っていた。
改めて、その中身を手に取っていた。
「パン屋、花屋・・・あれ?」
「・・・レストラン?」
「あぁ・・・ウェイトレスのことね」
自分が書いたとは言え、随分昔のことだ。
把握するのに一瞬、間があった。
「経営者でもなりたかったのかと思ったわ」
近所のファミレスの制服が可愛かったことを思い出した。
ただ、それだけの理由だった。
子供なんて、所詮そんなものだ。
けど、それだけの理由でも、夢を叶えている人もいる。
(それにしても・・・)
作文に書かれている3つの仕事を全て経験している。
順番は違えどもレストランから始まり、今は花屋だ。
夢を叶えたと言うか、転々としていると言うか・・・。
もし、これが“予言の書”なら、大したものだろう。
ただ、単なる偶然だとしても気掛かりなことがひとつある。
(No.117-2へ続く)
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No.116-2
雪那がこのような料理を作る理由に、心当たりがある。
「早くから、一人暮らし、しててん」
「いつから?」
「高一の時からやけど」
「正確には、中退してもうたから高一とちゃうけどな」
家庭のゴタゴタもあって、そうなったらしい。
ただ、それだけでもなかった。
「まぁ、うち裕福ちゃうかったし」
自然に身に付いた、生き抜く知恵だった。
もちろん、僕に対しては健康のことも考えてくれている。
でも、雪那にとってはそんな甘いものじゃなかっただろう。
「それでも美味しいよ・・・」
以前の会話を思い出し、涙腺が緩んだ。
それに、本当に感激するほど美味しい。
「泣くほど、美味しくもないやろ」
多少の勘違いがありつつも、全部平らげた。
「これなら、男の人も喜ぶよ」
「何を使ったか、言わんかったらやろ?」
雪那が、少しおどけてみせた。
「良い奥さんになれるよ、きっと」
「そう?」
「旦那さんは、目の前の人でもええか」
僕だけが食べれる最高の料理・・・。
それと、それを作ってくれる最高の人。
(No.116完)
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No.116-1
(ん?・・・美味しい!)
雪那の手料理を初めて口にした。
料理は“そんなに得意じゃない”と聞いていた。
「どうやろ?」
「予想以上に美味・・・」
「予想以上って、どういう意味やねん!」
「いや・・・そ、そうじゃなくてー!」
前置きが心の中だったのが敗因だ。
「ほら、“得意じゃない”って聞いてたから」
「得意じゃないと美味しくないは別やろ?」
「あ、うん・・・」
そろそろ話がややこしくなってきた。
「とにかく、美味しい!すごぉぉーく、美味しいぃ!」
魂の叫びにも似た、渾身の一言だ。
「そぉーかな・・・」
(あれ?)
急にリアクションが薄くなった。
「これ、野菜の切れ端とか皮も使ってんねん、体にええし」
切れ端や皮も、無駄なく使っている・・・らしい。
皮の方が栄養がある、と聞いたこともある。
「ちがう、ちがう!全部それ」
「それ?」
(そうなんだ・・・)
限りなく、栄養が付きそうだ。
(No.116-2へ続く)
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No.115-2
「ごめん、ごめん」
謝ってはいるものの、どこか楽しそうだ。
「私をからかって、そんなに楽しい?」
強めの口調で、もう一度彼を睨んだ。
「そんなんじゃなくて、これさ!」
そう言うと、足をバタバタさせ始めた。
「ぷっ!それ流行の踊りなの?」
さっきのお返しだ。
「・・・じゃなくて、音だよ!お・と」
今度は足元を指差した。
カサカサ・・・バザバサ・・・枯れた音がする。
当たり前だ。
落ち葉を踏んでいるからだ。
「それがなによ?」
意図が分からず、すこしイラついた。
「僕は音で季節を知るんだ、この場所で」
それは落ち葉であったり、セミの鳴き声であったりする・・・。
そう言いたげな表情だった。
(No.115完)
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