[No.110-2]雨の匂い
No.110-2
「これ何だか分かる?」
「紙の切れ端だろ?何かの」
手渡されたそれにはインクがにじんだような跡がある。
「雨に濡れた?」
話の流れからすると、夕立の時だろう。
「うん。その時は、もっと大きな紙だったけどね」
そう言うと、ハガキサイズほどの四角い枠を指でジェスチャーした。
「触れない方がいい?その話題に」
楽しい話ではなさそうだ。
「もう終ったことよ」
その表情は穏やかだった。
「全部捨てたはずなのに、カバンの中に残ってたの」
・・・だから、思い出したんだ。
雨の匂いに気付きながらも、そこを動けなかった。
想いを綴った手紙を握り締めながら・・・。
(No.110完)
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