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2009年11月

[No.115-1]季節の足音

No.115-1

前日は風が強かった・・・らしい。
落ち葉が至る所に散らばっている。

(雨も降ってたんだ)

紅葉の名残がある落ち葉が、水たまりを泳いでいる。
辺りを見回すと、すっきりとした木々が寒そうだ。
それを見ると、こちらまで、そう感じてしまう。

「お待たせ!」
「・・・ぷっ!それ流行のオシャレなの?」
「えっ!なに・・・?」

髪に落ち葉が数枚絡みついていた。
その一枚は、頭の真上だった。
それを彼が笑いながら取ってくれた。

「タヌキって、そうやって化けなかったっけ?」

今度は自分の頭に乗せて、ふざける。

「もぉー!」

それにしても・・・もう、こんな季節だったんだ。
落ち葉が季節を教えてくれた。

季節は毎日、少しずつ変化する。
だから、気付きにくい。
だから・・・それぞれの季節で、それを知らせる便りが届く。
それは春一番であったり、落ち葉であったりする。

「そろそろ、タヌキは止めにしない?」

さっきから、ひとりでふざけている彼をにらんだ。

(No.115-2へ続く)

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[No.114-2]友達以上恋人未満

No.114-2

それにしても、美代はなぜ言葉を調べたんだろう。
微妙な関係を、自分なりに納得しようとでも・・・。

友達以上恋人未満。

現実は言葉のイメージ以上に複雑だ。

「具体的にはどんな関係なの?」

美代なりの答えが聞きたい。

「1対1で逢うようになった・・・でも・・・」
「あ・・・!いいわよ、全部言わなくても」

そのような関係にはなってないらしい。
それが恋人へ発展するチケットでもない。

「恋人以上に発展しそう?」
「分からない・・・な」

美代の正直な気持ちだろう。
だからこそ、未満と言う言葉に、何らかの拘りを持ったのだ。
今は彼女を応援しよう。

それから数ヶ月経った時だった。

「ねぇ、未満って、それを含まないよね?」
(前にも、聞かれたよね、それ・・・)
「もしかして・・・進展なし?」
「えっ・・・あ・・・うん」

煮え切らない返事が気に入らない。

「はっきり、しなさいよ!」
「友達未満になっちゃったかなぁ・・・って・・・ね」

聞くんじゃなかった。

(No.114完)

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[No.114-1]友達以上恋人未満

No.114-1

「ねぇ、“未満”って、それを含むんだっけ?」
「はい・・・辞書」

美代の質問にいちいち答えるのも疲れる。

「おっ!電子辞書じゃん!」

私から、かもし出している空気を読んでいない。
だから疲れる・・・憎めないけど。

「なんて書いてあった?」
「すごいよ!」
(すごい・・・?)
「最近の電子辞書は写真も出るんだね・・・ほら!」

ミカンの写真だ。

「ふざけてるなら・・・」
「ごめん、ごめん、打ち間違い」

そう言って、再び調べ始めた。
辞書に頼らずとも、未満はそれを含まない。

「で、未満がどうしたって?」
「ほら、よく言うじゃない?友達以上・・・」
「・・・恋愛未満ってことね?」

(・・・と言うことは・・・)

「居るの?そんな人?」
「あっ・・・う、うぅん・・・」

(いっ、いつの間に!)

「それって・・・まさか、あの人のこと?」

美代の真っ赤な顔がその答えだ。

(No.114-2へ続く)

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[No.113-2]かわいい勘違い

No.113-2

書類に必要事項を記載し、手続きを進めた。
ひとりではなく、ふたりが頼もしい。

入院について、詳しく説明を聴く。

藍は、僕以上に身を入れて聴いているように見える。
時より、質問を投げ掛けてもいる。

「・・・以上が概要ですが、最後に・・・」
「ダメな食べ物はありますか?」

病院も患者の確保をするためだろうか?
食の好き嫌いを聞いてくるなんて。
いずれにせよ、何とも有り難いサービスだ。

「乳製品がダメです」

僕が答える前に、藍が先に答えた。
僕の好き嫌いは知っている。

「例えば牛乳とかチーズとか・・・シチューとかもダメです」

(そうそう!ピザとかバターもダメだよ)

「そうじゃなくて、アレルギーを聞いてるんです!」

不機嫌な顔が1名、恥ずかしい顔が2名・・・。

(No.113完)

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[No.113-1]かわいい勘違い

No.113-1

体調不良が続き、数日入院することになった。

「最近、忙しかったせいよ」

ここ数ヶ月、激務が続き一段落したこともある。
ちょっと、気が抜けて、ついでにダウン・・・。

「心配かけてゴメンな」

疲労から来てるものらしい。

「入院の手続き付き添う?」
「あぁ、お願いするよ」
藍の気遣いが嬉しい。

仕事なら強気の姿勢が自分のスタイルだ。
無理や無茶も大歓迎だ。
それが、いざ入院となると・・・急に弱々しくなる。

(なんで、男はこうなんだろうか・・・)

子供に戻ったような感覚だ。
藍が恋人と言うより、母親にさえ感じる。

「明日、病院で」

生まれて初めて入院する。
立場は違えど、それは藍も同じらしい。

(No.113-2へ続く)

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[No.112-2]願い事~鈴虫寺から

No.112-2

「叶ったわよ、マジで!」
(何をお願いしたのよ!)
内容が真っ先に気になった。

「で、何、お願いしてたのよ?」
「じゃーん!これよ、このバッグ!」

有名なブランドのバッグだ。

「買ってもらった・・・と言うか、これが願い事?」
「そうよ、なにか?」

お地蔵様は慈悲深い。
こんなバカ相手に・・・。

「ところで、あんたはどうなのよ?」
「わたし?・・・まだだけど」

結局、“まだ”はいつまでたっても“まだ”のままだった。
けど、そうなることは分かっていた。

「ねぇ、ねぇ、知ってる?あんたの隣の部屋・・・」

隣に住む子が、最近彼氏とヨリを戻した。
学生寮だ・・・うわさはすぐ伝わる。

「良かったよね・・・ん?まさか・・・」

私の願いは、奇跡が起きようが叶わない。

「住所と言うか部屋番号、間違っちゃったみたいね・・・私」

わざとなのか、天然なのか私にも分からない。

(No.112完)

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[No.112-1]願い事~鈴虫寺から

No.112-1

何やら世間では、歴史がブームらしい。
“歴女”なる言葉も生まれた。

「・・・らしい、じゃなくて、実際そうなの!」

歴女のひとりがうるさい。
その流れとは言えないが、あるお寺の話が持ち上がった。

「願い事を叶えてくれる、お地蔵様が居るらしいよ」
「あっ!聞いたことある、確か・・・トンボじゃなくて・・・」
「それわざと?ス・ズ・ム・シよ!鈴虫寺

とにかく週末、二人で出掛けることになった。

「これが、そのお守りね」

“幸福御守”と書かれた黄色い御守。
これを両手で挟んで、お地蔵様にお願いする。

「ちゃんとしないと叶わないわよ!」
「分かってるよ、名前と住所でしょ?」

お地蔵様は何でも、住所を頼りに来るらしい。
そして、願い事を叶えてくれるとか・・・。
だから、わらじを履いているとも聞かされた。

「ねぇ、何をお願いするの?」
「・・・言えない」
「どうせ、新しい彼が欲しいとか・・・男のことでしょ?」

確かに男のことだ。
ただ、お地蔵様でも叶えるのが難しい願い事だ。

(No.112-2へ続く)

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[No.111-2]ヒカリとカゲ

No.111-2

イベントは盛況の内に終った。

まだまだ知名度は、十分とは言えない。
今日は、複数のタレントが集まるイベントだ。
彼女一人の力では、ここまで人は集まらない。

それでも・・・・。

明らかに彼女目当てのファンも確認できる。
イベントを重ねるごとに、それが増えている。
「お疲れ様!」
僕を気遣ってか、莉依(リイ)が先に声を掛けてくれた。

「お疲れ!最高に良かったぞ!」
「ねぇ、覚えてる?カゲのように・・・と話したこと」
(どうして今のタイミングで?)
「そんな顔しないでよ、今だから言えるの」
彼女が過去を話してくれた。

「そうなんだ・・・辛かったね」
今はこれが精一杯だった。
(待てよ・・・そうだ!)

「ステージにたってごらん」
莉依を強引にステージへ立たせた。
「お願いします」

複数のスポットライトが彼女を照らす。

「見てごらん」

莉依から、陰が消えた。

(No.111完)

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[No.111-1]ヒカリとカゲ

No.111-1

「大丈夫か?」

莉依(リイ)が小刻みに震えている。

「うん・・・いつもより緊張してるだけ」

莉依のマネージャーになって、2年が経過した。
タレントとして、ようやく軌道に乗り始めようとしている。

スカウトしたものの、目立つことを嫌う性格だった。
もちろん、タレントとしては致命的だ。

けど、それを変えたい・・・そんな想いを聞いた。

「私はカゲのように生きてきた」

二十歳そこそこの女の子とは思えない言葉だった。
彼女に何があったのか、聞かなかった。
いや・・・聞けなかった、が本音だ。

「そろそろ出番だよ」
「はいっ!」

出番が近付くほど逆に落ち着きを取り戻している。
顔もすっかりプロの表情だ。
迷いは感じられない。

「じゃあ、行ってきます!」

彼女がステージへ飛び出した。

(No.111-2へ続く)

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[No.110-2]雨の匂い

No.110-2

「これ何だか分かる?」
「紙の切れ端だろ?何かの」

手渡されたそれにはインクがにじんだような跡がある。

「雨に濡れた?」

話の流れからすると、夕立の時だろう。

「うん。その時は、もっと大きな紙だったけどね」

そう言うと、ハガキサイズほどの四角い枠を指でジェスチャーした。

「触れない方がいい?その話題に」

楽しい話ではなさそうだ。
「もう終ったことよ」
その表情は穏やかだった。
「全部捨てたはずなのに、カバンの中に残ってたの」
・・・だから、思い出したんだ。

雨の匂いに気付きながらも、そこを動けなかった。
想いを綴った手紙を握り締めながら・・・。

(No.110完)

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[No.110-1]雨の匂い

No.110-1

単に湿気っぽいとかじゃない。
夕立が降る前に匂う、独特の雨の匂い。
夏になるとしばしば体験する。

「・・・で、なんで今頃?」

今は秋も深い。

「あ、うん、ちょっと思い出しただけ・・・」
(なんだろう、気になる)
「夕立に降られて、大変な目にあったとか?」
(ん?待てよ・・・)
自分で聞いておいて、引っ掛かりを感じた。

「まぁ、そんなものね」

そんなことはないだろう。
雨が降りそうな気配どころか、秋晴れが気持ち良い。
夕立に降られたことを思い出すシチュエーションじゃない。

「雨の匂いが分かってたなら・・・」
「そうね、避けることができたよね」

あえて雨に打たれた・・・そんな返事だった。

(No.110-2へ続く)

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[No.109-2]恋人検定

No.109-2

(こんなことあったっけ?)

かなり難しい問題ばかりだ。
それに全く記憶にないことや知らない情報もある。

(えーっと・・・20問あって・・・配点は1つ5点か・・・)
それなら最低でも、16問は正解する必要がある。
(今の出来は・・・)
自信があるのが12問、迷ってたのが4問。

残りは、答えることが出来ず空白のままだ。

このまま上手く行っても、ギリギリ80点だ。
かなり状況は悪い。

それに合格することよりも、不合格が気になる。
何をしようとしてるのか・・・。

「はい!時間よ」

強引に冊子を奪われ、採点し始めた。
採点はすぐに終った。

「75点・・・不合格ね」
「じゃ、不合格の・・・」
「ちょ、ちょっと!本気?」

思い付きの検定で、何かされるのは勘弁だ。

「結婚してください・・・そして空白を埋めてください」

検定の空白は、僕ら二人で埋めることになった。

(No.109完)

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[No.109-1]恋人検定

No.109-1

「恋人検定・・・?」

樹里(じゅり)から、そう書かれた冊子を渡された。

「なんだよ、これ」
「その名の通り、私についての検定よ」

(その名の通りじゃないし・・・)

「・・・不服そうね、やましいことあるの?」

話が飛躍し過ぎている。

それにしても樹里は世の中の流れに敏感だ。
今、流行の検定に食い付いたのに違いない。
多分、「これだっ!」と、歓喜の声をあげただろう。

「そうじゃないけど、唐突だろ?」

「いいじゃない、テレビで検定特集やってたんで」
「そしたら・・・」
「これだっ!だろ?」

図星のようだ。

「そうよ、私のこと・・・どこまで知ってるかってね」
「ふーん、まぁいいけど」

冊子をめくろうとした時だった。
「言っとくけど、合格点は80点だよ」
(それ、何が基準だよ)
「なぁ、ちなみに不合格だったら?」

「うふふ・・・それは落ちてのお楽しみよ」

(No.109-2へ続く)

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[No.108-2]約束の時間

No.108-2

自分も時間には正確だ。
それに、由香と同じように時間には余裕を持たせている。

「自分もそうなんだけど、どうして?」
「嫌われたくないねん」

確かにそうだ。
時間にルーズだとその内、親友だって許せなくなる。
けど、そんな雰囲気じゃない。
思い詰めた表情が気になる。
思わぬ展開にならなきゃいいが・・・。

「うち・・・なぁ、こんな生き方しかでけへんねん」
「・・・居候ってこと?」

由香が男性と暮らしているのは知っている。
半分真剣、半分転がり込んだように聞いた。

「ひとりでは生きられへんから、気つかうしかないんよ」
「だから嫌われまいと・・・?」
「しんどいよ正直・・・」

体じゃなくて、心が疲れてるんだろう。

「特に、一真と逢う時は疲れるねん」
「そうか・・・気をつかわせてごめん」
「違うよ!」

「早く逢いたし、はりきりすぎて、逢う前から疲れてんねん」

彼女の笑顔と共に時計の針が19時を指した。

(No.108完)

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[No.108-1]約束の時間

No.108-1

『もうすぐ到着するから』

約束の19時には、まだ15分も余裕がある。
それでも一応メールした。

『もう到着してるよー』
(早っ!)
最初の内は“約束の時間厳守!”な人だと思った。

「あれ?もう居たの・・・」
「うん、18時15分には着いてたよ」

以前も同じように19時に約束したことがあった。
その時、30分前に待ち合わせ場所に到着した。
早すぎると思い、あえて由香に到着を知らせなかった。

「早・・・すぎない?」
「うちはこれが普通やけど」

約束の時間に遅れてくる人は多い。
(まぁ・・・悪いことじゃないし・・・)
そう考えれば、責めることではない。
ただ、長時間待たせていることが気にならない訳ではない。

「お待たせ」

当然ながら、由香が待っていた。
いつ到着したかは、その内、気にしなくなった。
彼女は彼女の考えでそうしてるんだし・・・。

(由香の考えか・・・)

つい聞いてみたくなった。

(No.108-2へ続く)

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[No.107-2]四葉のクローバー

No.107-2

「しおり、貰ってもいい?」

美羽(みう)に本を返す時に聞いた。

「いいけど、珍しいわね。そんなのに興味示すなんて」
「そんな歳になったのかもね」
「まさか!お互いまだ20代でしょ?」

有り得ないような奇跡を待ってるんじゃない。
苦労しても、探せばきっと見つかる。
それが四葉のクローバーなんだと思う。
いつか夢は叶う・・・。
例え形が無くても、その後押しが少し欲しいだけ・・・。

「知ってる?」
「四葉のクローバーって、どうやって生まれるか?」

(そうなんだ・・・知らなかった)

「踏まれて生まれるか・・・イメージ違うね」
神々しいイメ-ジだけに、なんとなく拍子抜けした。

「そうだ!今から探しに行かない?」
美羽が強引に手を引き、公園に連れて行かれた。

「さぁ、探すわよ!」

『ほら、ここにいるよ』

「えっ・・・美羽何か言った?」
「ううん、何も・・・」

「あ!足元にあるわよ」

(No.107完)

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[No.107-1]四葉のクローバー

No.107-1

美羽(みう)から借りた本に、しおりが挟まれていた。

「へぇー、四葉のクローバーか」

和紙と組み合わせてうまく作ってある。
手作り感が温かい。

小さい頃、友達とよく探しに出掛けた。
どちらがより多く、見つけられるか・・・。
当時は、ただ競い合うことだけが目的だった。
勝負が付けばその役目は終る。

久しぶりに四葉のクローバーを手に取る。
あの頃には感じなかった想いが巡る。

(なんだか変な感じ・・・)

その価値を感じなかった、あの頃。
その価値を分かり始めた、いま頃・・・。

何かに頼りたい時だってある。
それが例え小さな存在だったとしても・・・。

「アハハ、大人って勝手だよネ?」

四葉のクローバーに話し掛ける。

『そうね、あまり大きな願い事は無理かな?』

そう言いたげな表情だった。

(No.107-2へ続く)

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[No.106-2]イルミネーション

No.106-2

「どうして光に魅せられるのかな?」

知世が話を戻す。

「それもそうよね」
「科学的な根拠ってあるのかな?」
「もし・・・そうだとしても、それは抜きにしようよ」

ここはひとつロマンティックに話を進めたい。

「明日までの宿題ね」
言い出したものの、妙案が浮かばず先送りした。

(答えを用意しとかなくちゃ)

別の場所でひとりイルミネーションを見上げる。
さっきとは対照的に、暖かさが伝わってくる。
けど、それだけでは答えは出ない。

「ねぇ・・・答えはでた?」
次の日、逢うなりいきなり、知世が聞いてきた。
(・・・どうしよう・・・)
答えは浮かばなかった。
(ええぃ!こうなったら・・・)
「答えはこの空間にあるのよ!」

含みを持たせて、かなり適当に答えた。

「あ・・・本当だ、あれね」
(えっ?)
知世の指先がひとつイルミネーションを指差す。
そこには“COME ON”と書かれた文字が点滅していた。

(No.106完)

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[No.106-1]イルミネーション

No.106-1

気が早い準備は相変わらずだ。

聖夜を意識させるイルミネーションが街角を彩り始めた。
灯りこそ点いてないけど、雰囲気は十分伝わる。

「そう言えば、普通の家でもやってるよね?」
「そうよね・・・近所にも居るわよ」

最近では、普通の家でも飾り付けがすごい。
始めは単に「綺麗だから」の理由だったと思う。
それが気付いて見れば・・・どうだろう。
競い合うかのように、ある一帯が不夜城に変わる。

「ほんと、夜のネオン街じゃないんだから・・・」
「確かにそうよね」
「でも、灯りに誘われてしまうのは、本能なのかな?」
「本能・・・って、虫じゃないんだから」

「あっ!」

そうこう話している内に、イルミネーションが輝き始めた。

「見て・・・綺麗ね・・・」

雪の結晶をモチーフにしたイルミネーションだ。
微妙な光の点滅は、舞い降る雪をイメージさせる。

「ふぅ・・・・」
「どうしたの?タメ息ついちゃって」
「まぁね、今年も始まったのかって・・・ね」

知世が言いたいことは分かる。

独り身には辛い季節がやってきた。

(No.106-2へ続く)

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[No.105-2]涙のオルゴール

No.105-2

「どんなんか、楽しみやなぁ」

普段でもクリクリの目玉が、いっそうクリクリしている。

「き、き、きんちょうするなぁ・・・」
「あんたが緊張してどないすんねん」
「う、うん・・・はい、これ!」

(あれ、反応がない?)

「まず、開けてもええか?」
そうだった・・・裸で渡した訳じゃない。
「ごめん、開けていいよ」

「あ!これ・・・」

リラックマ、コリラックマ、キイロイトリが黄色い食卓を囲んでいる。
その土台には時計も付いている。

「どう・・・かな?」
「うちなぁ、これが夢やったんよ」
「みんな、たのしそうでええなぁ」
菜緒の頬を涙が伝う。

菜緒には楽しく食卓を囲んだ記憶がない。

「ごめん、思い出させちゃった?」

「ううん、違うよ・・・未来を想像したんよ」

(No.105完)

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[No.105-1]涙のオルゴール

No.105-1 [No.07-1]せいじゅうろう

『オルゴールがあるらしぃんよ』

(あっても不思議じゃないよな・・・)

誕生日が近い菜緒へプレゼントのリクエストを聞いた。
どうやらリラックマのオルゴールがあるらしい。

「ちょっと調べてみるか」

いくつか候補がヒットした。

(そこそこ種類があるな・・・)

特定されていないので、選ぶ必要がある。
自分のセンス・・・それとも菜緒の好み・・・で選ぶべきか迷う。
その時、ひとつのオルゴールが目に飛び込んできた。

(これ・・・)

自分のセンスでも、菜緒の好みでもない。
だけど、彼女にピッタリの品を見つけた。

「真意を分かってくれるかな・・・」

多少、菜緒の傷口に触れることにもなる。
それでも、これを送りたい。

「よし、決めた!」

誕生日に逢う約束をした。
(喜んでくれるかな・・・)

その日はあっと言う間に訪れた。

(No.105-2へ続く)

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[No.104-2]秋に想う

No.104-2

「本当はね・・・」
「秋の方が空が低いと思うんだ」
「どうして?」

真理子が理由を話し始めた。

「入道雲か・・・」

確かに、それ自体に立体感がある。
真っ白な雲がもくもくと天へと続くイメージもある。
青が濃い空とのコントラストも、それを一層感じさせる。

夏の空は高い・・・か。

「変かな?」
「いいや、逆に新発見かもしれないよ」
「学会に発表するのはどうかな?」
真理子の目が笑っている。

「そう考えると、本当に空が低く見えてきたよ」
秋の象徴とも言える、うろこ雲が広がっている。
「あ・・・」
真理子が何か気付いた声をあげた。
「空は低いけど・・・」
「ほら見て・・・ずっと遠くまで続いてるよ」

今にも水平線に消えそうな夕焼けを指差す。

空は低くとも果てしなく、続いている。

(No.104完)

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[No.104-1]秋に想う

No.104-1

空が低い・・・?

(あれ・・・どっちだったかな)

空が高く感じる、低く感じる・・・風情を感じさせる表現だ。

「なぁ、秋って空が低いんだっけ?」
「違うよ、高いんだよ」
真理子が即答する。

「ほら・・・空が澄んでいるでしょ?」
そう言って空を指差す。
「どこまでも空が続く感じを“高い”って表現してると思うよ」

澄み切った空は果てしなく遠く感じる。
それに空って、どこか屋根のイメージもある。
だから、距離じゃなくて、高さなのかもしれない。

「何か想いでも?」

乙女チックな話題に多少フォローを入れてくれる。

「ただ・・・なんとなく・・・」

言葉が続かず、答えにならなかった。
空を見て何を想ってたのだろう。

「いいんじゃない?秋なんだから・・・」

真理子の言葉も続かなかった。

(No.104-2へ続く)

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[No.103-2]オレンジ色の香り

No.103-2

「なぁ、知ってる?この匂い」
清美になにげなく聞いた。

「キンモクセイでしょ?」
「先に言っとくけど、トイレの・・・じゃなくて、芳香剤の匂いよ」

僕の顔に何か書いてあったんだろうか・・・。
先を読んだ発言に驚いた。

「そ、そうだよ。キンモクセイ」
「それがどうしたの?」

事情を軽く説明した。

「ふーん・・・何でだろうね」

気のせいかもしれないし、そんなに考え込む必要もないだろう。
この話はこれで終ろう。

「でも、そう言うことあるよね」
話を続けようとする。
「気付いて良かったじゃん」
清美の目が何かを言おうとしている。

「ねぇ、私の匂いにも気付いた?」
「え!お風呂入ってないの?」
「バカ!」

そこそこ威力があるパンチが飛んできた。
その瞬間から、清美から“女”の匂いがしてきた。

(No.103完)

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[No.103-1]オレンジ色の香り

No.103-1

そこにあるのに見えないもの。
そこにないのに見えるもの。

今、思えばそう言うことだったのかもしれない。

「この香り・・・」

鼻を突く独特の香り。
どうやら、このオレンジ色の実から発しているようだ。
匂いの記憶はある。

(この庭木の名前・・・何だったっけ?)

なかなかそれらしき名前がヒットしない。
すぐには思い出せず、しばらく考えるはめになった。
あいにく匂いを忘れることはない。
あちこちで同じ匂いを嗅ぐことができるからだ。

(それにしても・・・)

なぜ、今年はこんなに気になるんだろう。

去年も一昨年も植えられていたはずなのに。
今まで気にならなかった、気にしなかっただけだろうか。

とにかく、名前が先だ。

困った時のネット頼みだ。
オレンジ色・・・秋の庭木・・・あたりで検索してみよう。

「あ!そうだ、そうだ」

トイレの匂い・・・でも検索してみよう。

(No.103-2へ続く)

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