No.115-1
前日は風が強かった・・・らしい。
落ち葉が至る所に散らばっている。
(雨も降ってたんだ)
紅葉の名残がある落ち葉が、水たまりを泳いでいる。
辺りを見回すと、すっきりとした木々が寒そうだ。
それを見ると、こちらまで、そう感じてしまう。
「お待たせ!」
「・・・ぷっ!それ流行のオシャレなの?」
「えっ!なに・・・?」
髪に落ち葉が数枚絡みついていた。
その一枚は、頭の真上だった。
それを彼が笑いながら取ってくれた。
「タヌキって、そうやって化けなかったっけ?」
今度は自分の頭に乗せて、ふざける。
「もぉー!」
それにしても・・・もう、こんな季節だったんだ。
落ち葉が季節を教えてくれた。
季節は毎日、少しずつ変化する。
だから、気付きにくい。
だから・・・それぞれの季節で、それを知らせる便りが届く。
それは春一番であったり、落ち葉であったりする。
「そろそろ、タヌキは止めにしない?」
さっきから、ひとりでふざけている彼をにらんだ。
(No.115-2へ続く)
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No.114-2
それにしても、美代はなぜ言葉を調べたんだろう。
微妙な関係を、自分なりに納得しようとでも・・・。
友達以上恋人未満。
現実は言葉のイメージ以上に複雑だ。
「具体的にはどんな関係なの?」
美代なりの答えが聞きたい。
「1対1で逢うようになった・・・でも・・・」
「あ・・・!いいわよ、全部言わなくても」
そのような関係にはなってないらしい。
それが恋人へ発展するチケットでもない。
「恋人以上に発展しそう?」
「分からない・・・な」
美代の正直な気持ちだろう。
だからこそ、未満と言う言葉に、何らかの拘りを持ったのだ。
今は彼女を応援しよう。
それから数ヶ月経った時だった。
「ねぇ、未満って、それを含まないよね?」
(前にも、聞かれたよね、それ・・・)
「もしかして・・・進展なし?」
「えっ・・・あ・・・うん」
煮え切らない返事が気に入らない。
「はっきり、しなさいよ!」
「友達未満になっちゃったかなぁ・・・って・・・ね」
聞くんじゃなかった。
(No.114完)
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No.114-1
「ねぇ、“未満”って、それを含むんだっけ?」
「はい・・・辞書」
美代の質問にいちいち答えるのも疲れる。
「おっ!電子辞書じゃん!」
私から、かもし出している空気を読んでいない。
だから疲れる・・・憎めないけど。
「なんて書いてあった?」
「すごいよ!」
(すごい・・・?)
「最近の電子辞書は写真も出るんだね・・・ほら!」
ミカンの写真だ。
「ふざけてるなら・・・」
「ごめん、ごめん、打ち間違い」
そう言って、再び調べ始めた。
辞書に頼らずとも、未満はそれを含まない。
「で、未満がどうしたって?」
「ほら、よく言うじゃない?友達以上・・・」
「・・・恋愛未満ってことね?」
(・・・と言うことは・・・)
「居るの?そんな人?」
「あっ・・・う、うぅん・・・」
(いっ、いつの間に!)
「それって・・・まさか、あの人のこと?」
美代の真っ赤な顔がその答えだ。
(No.114-2へ続く)
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No.113-2
書類に必要事項を記載し、手続きを進めた。
ひとりではなく、ふたりが頼もしい。
入院について、詳しく説明を聴く。
藍は、僕以上に身を入れて聴いているように見える。
時より、質問を投げ掛けてもいる。
「・・・以上が概要ですが、最後に・・・」
「ダメな食べ物はありますか?」
病院も患者の確保をするためだろうか?
食の好き嫌いを聞いてくるなんて。
いずれにせよ、何とも有り難いサービスだ。
「乳製品がダメです」
僕が答える前に、藍が先に答えた。
僕の好き嫌いは知っている。
「例えば牛乳とかチーズとか・・・シチューとかもダメです」
(そうそう!ピザとかバターもダメだよ)
「そうじゃなくて、アレルギーを聞いてるんです!」
不機嫌な顔が1名、恥ずかしい顔が2名・・・。
(No.113完)
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No.113-1
体調不良が続き、数日入院することになった。
「最近、忙しかったせいよ」
ここ数ヶ月、激務が続き一段落したこともある。
ちょっと、気が抜けて、ついでにダウン・・・。
「心配かけてゴメンな」
疲労から来てるものらしい。
「入院の手続き付き添う?」
「あぁ、お願いするよ」
藍の気遣いが嬉しい。
仕事なら強気の姿勢が自分のスタイルだ。
無理や無茶も大歓迎だ。
それが、いざ入院となると・・・急に弱々しくなる。
(なんで、男はこうなんだろうか・・・)
子供に戻ったような感覚だ。
藍が恋人と言うより、母親にさえ感じる。
「明日、病院で」
生まれて初めて入院する。
立場は違えど、それは藍も同じらしい。
(No.113-2へ続く)
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No.112-2
「叶ったわよ、マジで!」
(何をお願いしたのよ!)
内容が真っ先に気になった。
「で、何、お願いしてたのよ?」
「じゃーん!これよ、このバッグ!」
有名なブランドのバッグだ。
「買ってもらった・・・と言うか、これが願い事?」
「そうよ、なにか?」
お地蔵様は慈悲深い。
こんなバカ相手に・・・。
「ところで、あんたはどうなのよ?」
「わたし?・・・まだだけど」
結局、“まだ”はいつまでたっても“まだ”のままだった。
けど、そうなることは分かっていた。
「ねぇ、ねぇ、知ってる?あんたの隣の部屋・・・」
隣に住む子が、最近彼氏とヨリを戻した。
学生寮だ・・・うわさはすぐ伝わる。
「良かったよね・・・ん?まさか・・・」
私の願いは、奇跡が起きようが叶わない。
「住所と言うか部屋番号、間違っちゃったみたいね・・・私」
わざとなのか、天然なのか私にも分からない。
(No.112完)
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No.112-1
何やら世間では、歴史がブームらしい。
“歴女”なる言葉も生まれた。
「・・・らしい、じゃなくて、実際そうなの!」
歴女のひとりがうるさい。
その流れとは言えないが、あるお寺の話が持ち上がった。
「願い事を叶えてくれる、お地蔵様が居るらしいよ」
「あっ!聞いたことある、確か・・・トンボじゃなくて・・・」
「それわざと?ス・ズ・ム・シよ!鈴虫寺」
とにかく週末、二人で出掛けることになった。
「これが、そのお守りね」
“幸福御守”と書かれた黄色い御守。
これを両手で挟んで、お地蔵様にお願いする。
「ちゃんとしないと叶わないわよ!」
「分かってるよ、名前と住所でしょ?」
お地蔵様は何でも、住所を頼りに来るらしい。
そして、願い事を叶えてくれるとか・・・。
だから、わらじを履いているとも聞かされた。
「ねぇ、何をお願いするの?」
「・・・言えない」
「どうせ、新しい彼が欲しいとか・・・男のことでしょ?」
確かに男のことだ。
ただ、お地蔵様でも叶えるのが難しい願い事だ。
(No.112-2へ続く)
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No.111-2
イベントは盛況の内に終った。
まだまだ知名度は、十分とは言えない。
今日は、複数のタレントが集まるイベントだ。
彼女一人の力では、ここまで人は集まらない。
それでも・・・・。
明らかに彼女目当てのファンも確認できる。
イベントを重ねるごとに、それが増えている。
「お疲れ様!」
僕を気遣ってか、莉依(リイ)が先に声を掛けてくれた。
「お疲れ!最高に良かったぞ!」
「ねぇ、覚えてる?カゲのように・・・と話したこと」
(どうして今のタイミングで?)
「そんな顔しないでよ、今だから言えるの」
彼女が過去を話してくれた。
「そうなんだ・・・辛かったね」
今はこれが精一杯だった。
(待てよ・・・そうだ!)
「ステージにたってごらん」
莉依を強引にステージへ立たせた。
「お願いします」
複数のスポットライトが彼女を照らす。
「見てごらん」
莉依から、陰が消えた。
(No.111完)
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No.111-1
「大丈夫か?」
莉依(リイ)が小刻みに震えている。
「うん・・・いつもより緊張してるだけ」
莉依のマネージャーになって、2年が経過した。
タレントとして、ようやく軌道に乗り始めようとしている。
スカウトしたものの、目立つことを嫌う性格だった。
もちろん、タレントとしては致命的だ。
けど、それを変えたい・・・そんな想いを聞いた。
「私はカゲのように生きてきた」
二十歳そこそこの女の子とは思えない言葉だった。
彼女に何があったのか、聞かなかった。
いや・・・聞けなかった、が本音だ。
「そろそろ出番だよ」
「はいっ!」
出番が近付くほど逆に落ち着きを取り戻している。
顔もすっかりプロの表情だ。
迷いは感じられない。
「じゃあ、行ってきます!」
彼女がステージへ飛び出した。
(No.111-2へ続く)
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No.110-2
「これ何だか分かる?」
「紙の切れ端だろ?何かの」
手渡されたそれにはインクがにじんだような跡がある。
「雨に濡れた?」
話の流れからすると、夕立の時だろう。
「うん。その時は、もっと大きな紙だったけどね」
そう言うと、ハガキサイズほどの四角い枠を指でジェスチャーした。
「触れない方がいい?その話題に」
楽しい話ではなさそうだ。
「もう終ったことよ」
その表情は穏やかだった。
「全部捨てたはずなのに、カバンの中に残ってたの」
・・・だから、思い出したんだ。
雨の匂いに気付きながらも、そこを動けなかった。
想いを綴った手紙を握り締めながら・・・。
(No.110完)
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No.110-1
単に湿気っぽいとかじゃない。
夕立が降る前に匂う、独特の雨の匂い。
夏になるとしばしば体験する。
「・・・で、なんで今頃?」
今は秋も深い。
「あ、うん、ちょっと思い出しただけ・・・」
(なんだろう、気になる)
「夕立に降られて、大変な目にあったとか?」
(ん?待てよ・・・)
自分で聞いておいて、引っ掛かりを感じた。
「まぁ、そんなものね」
そんなことはないだろう。
雨が降りそうな気配どころか、秋晴れが気持ち良い。
夕立に降られたことを思い出すシチュエーションじゃない。
「雨の匂いが分かってたなら・・・」
「そうね、避けることができたよね」
あえて雨に打たれた・・・そんな返事だった。
(No.110-2へ続く)
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No.109-2
(こんなことあったっけ?)
かなり難しい問題ばかりだ。
それに全く記憶にないことや知らない情報もある。
(えーっと・・・20問あって・・・配点は1つ5点か・・・)
それなら最低でも、16問は正解する必要がある。
(今の出来は・・・)
自信があるのが12問、迷ってたのが4問。
残りは、答えることが出来ず空白のままだ。
このまま上手く行っても、ギリギリ80点だ。
かなり状況は悪い。
それに合格することよりも、不合格が気になる。
何をしようとしてるのか・・・。
「はい!時間よ」
強引に冊子を奪われ、採点し始めた。
採点はすぐに終った。
「75点・・・不合格ね」
「じゃ、不合格の・・・」
「ちょ、ちょっと!本気?」
思い付きの検定で、何かされるのは勘弁だ。
「結婚してください・・・そして空白を埋めてください」
検定の空白は、僕ら二人で埋めることになった。
(No.109完)
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No.109-1
「恋人検定・・・?」
樹里(じゅり)から、そう書かれた冊子を渡された。
「なんだよ、これ」
「その名の通り、私についての検定よ」
(その名の通りじゃないし・・・)
「・・・不服そうね、やましいことあるの?」
話が飛躍し過ぎている。
それにしても樹里は世の中の流れに敏感だ。
今、流行の検定に食い付いたのに違いない。
多分、「これだっ!」と、歓喜の声をあげただろう。
「そうじゃないけど、唐突だろ?」
「いいじゃない、テレビで検定特集やってたんで」
「そしたら・・・」
「これだっ!だろ?」
図星のようだ。
「そうよ、私のこと・・・どこまで知ってるかってね」
「ふーん、まぁいいけど」
冊子をめくろうとした時だった。
「言っとくけど、合格点は80点だよ」
(それ、何が基準だよ)
「なぁ、ちなみに不合格だったら?」
「うふふ・・・それは落ちてのお楽しみよ」
(No.109-2へ続く)
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No.108-2
自分も時間には正確だ。
それに、由香と同じように時間には余裕を持たせている。
「自分もそうなんだけど、どうして?」
「嫌われたくないねん」
確かにそうだ。
時間にルーズだとその内、親友だって許せなくなる。
けど、そんな雰囲気じゃない。
思い詰めた表情が気になる。
思わぬ展開にならなきゃいいが・・・。
「うち・・・なぁ、こんな生き方しかでけへんねん」
「・・・居候ってこと?」
由香が男性と暮らしているのは知っている。
半分真剣、半分転がり込んだように聞いた。
「ひとりでは生きられへんから、気つかうしかないんよ」
「だから嫌われまいと・・・?」
「しんどいよ正直・・・」
体じゃなくて、心が疲れてるんだろう。
「特に、一真と逢う時は疲れるねん」
「そうか・・・気をつかわせてごめん」
「違うよ!」
「早く逢いたし、はりきりすぎて、逢う前から疲れてんねん」
彼女の笑顔と共に時計の針が19時を指した。
(No.108完)
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No.108-1
『もうすぐ到着するから』
約束の19時には、まだ15分も余裕がある。
それでも一応メールした。
『もう到着してるよー』
(早っ!)
最初の内は“約束の時間厳守!”な人だと思った。
「あれ?もう居たの・・・」
「うん、18時15分には着いてたよ」
以前も同じように19時に約束したことがあった。
その時、30分前に待ち合わせ場所に到着した。
早すぎると思い、あえて由香に到着を知らせなかった。
「早・・・すぎない?」
「うちはこれが普通やけど」
約束の時間に遅れてくる人は多い。
(まぁ・・・悪いことじゃないし・・・)
そう考えれば、責めることではない。
ただ、長時間待たせていることが気にならない訳ではない。
「お待たせ」
当然ながら、由香が待っていた。
いつ到着したかは、その内、気にしなくなった。
彼女は彼女の考えでそうしてるんだし・・・。
(由香の考えか・・・)
つい聞いてみたくなった。
(No.108-2へ続く)
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No.107-2
「しおり、貰ってもいい?」
美羽(みう)に本を返す時に聞いた。
「いいけど、珍しいわね。そんなのに興味示すなんて」
「そんな歳になったのかもね」
「まさか!お互いまだ20代でしょ?」
有り得ないような奇跡を待ってるんじゃない。
苦労しても、探せばきっと見つかる。
それが四葉のクローバーなんだと思う。
いつか夢は叶う・・・。
例え形が無くても、その後押しが少し欲しいだけ・・・。
「知ってる?」
「四葉のクローバーって、どうやって生まれるか?」
(そうなんだ・・・知らなかった)
「踏まれて生まれるか・・・イメージ違うね」
神々しいイメ-ジだけに、なんとなく拍子抜けした。
「そうだ!今から探しに行かない?」
美羽が強引に手を引き、公園に連れて行かれた。
「さぁ、探すわよ!」
『ほら、ここにいるよ』
「えっ・・・美羽何か言った?」
「ううん、何も・・・」
「あ!足元にあるわよ」
(No.107完)
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No.107-1
美羽(みう)から借りた本に、しおりが挟まれていた。
「へぇー、四葉のクローバーか」
和紙と組み合わせてうまく作ってある。
手作り感が温かい。
小さい頃、友達とよく探しに出掛けた。
どちらがより多く、見つけられるか・・・。
当時は、ただ競い合うことだけが目的だった。
勝負が付けばその役目は終る。
久しぶりに四葉のクローバーを手に取る。
あの頃には感じなかった想いが巡る。
(なんだか変な感じ・・・)
その価値を感じなかった、あの頃。
その価値を分かり始めた、いま頃・・・。
何かに頼りたい時だってある。
それが例え小さな存在だったとしても・・・。
「アハハ、大人って勝手だよネ?」
四葉のクローバーに話し掛ける。
『そうね、あまり大きな願い事は無理かな?』
そう言いたげな表情だった。
(No.107-2へ続く)
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No.106-2
「どうして光に魅せられるのかな?」
知世が話を戻す。
「それもそうよね」
「科学的な根拠ってあるのかな?」
「もし・・・そうだとしても、それは抜きにしようよ」
ここはひとつロマンティックに話を進めたい。
「明日までの宿題ね」
言い出したものの、妙案が浮かばず先送りした。
(答えを用意しとかなくちゃ)
別の場所でひとりイルミネーションを見上げる。
さっきとは対照的に、暖かさが伝わってくる。
けど、それだけでは答えは出ない。
「ねぇ・・・答えはでた?」
次の日、逢うなりいきなり、知世が聞いてきた。
(・・・どうしよう・・・)
答えは浮かばなかった。
(ええぃ!こうなったら・・・)
「答えはこの空間にあるのよ!」
含みを持たせて、かなり適当に答えた。
「あ・・・本当だ、あれね」
(えっ?)
知世の指先がひとつイルミネーションを指差す。
そこには“COME ON”と書かれた文字が点滅していた。
(No.106完)
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No.106-1
気が早い準備は相変わらずだ。
聖夜を意識させるイルミネーションが街角を彩り始めた。
灯りこそ点いてないけど、雰囲気は十分伝わる。
「そう言えば、普通の家でもやってるよね?」
「そうよね・・・近所にも居るわよ」
最近では、普通の家でも飾り付けがすごい。
始めは単に「綺麗だから」の理由だったと思う。
それが気付いて見れば・・・どうだろう。
競い合うかのように、ある一帯が不夜城に変わる。
「ほんと、夜のネオン街じゃないんだから・・・」
「確かにそうよね」
「でも、灯りに誘われてしまうのは、本能なのかな?」
「本能・・・って、虫じゃないんだから」
「あっ!」
そうこう話している内に、イルミネーションが輝き始めた。
「見て・・・綺麗ね・・・」
雪の結晶をモチーフにしたイルミネーションだ。
微妙な光の点滅は、舞い降る雪をイメージさせる。
「ふぅ・・・・」
「どうしたの?タメ息ついちゃって」
「まぁね、今年も始まったのかって・・・ね」
知世が言いたいことは分かる。
独り身には辛い季節がやってきた。
(No.106-2へ続く)
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No.105-2
「どんなんか、楽しみやなぁ」
普段でもクリクリの目玉が、いっそうクリクリしている。
「き、き、きんちょうするなぁ・・・」
「あんたが緊張してどないすんねん」
「う、うん・・・はい、これ!」
(あれ、反応がない?)
「まず、開けてもええか?」
そうだった・・・裸で渡した訳じゃない。
「ごめん、開けていいよ」
「あ!これ・・・」
リラックマ、コリラックマ、キイロイトリが黄色い食卓を囲んでいる。
その土台には時計も付いている。
「どう・・・かな?」
「うちなぁ、これが夢やったんよ」
「みんな、たのしそうでええなぁ」
菜緒の頬を涙が伝う。
菜緒には楽しく食卓を囲んだ記憶がない。
「ごめん、思い出させちゃった?」
「ううん、違うよ・・・未来を想像したんよ」
(No.105完)
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No.105-1 [No.07-1]せいじゅうろう
『オルゴールがあるらしぃんよ』
(あっても不思議じゃないよな・・・)
誕生日が近い菜緒へプレゼントのリクエストを聞いた。
どうやらリラックマのオルゴールがあるらしい。
「ちょっと調べてみるか」
いくつか候補がヒットした。
(そこそこ種類があるな・・・)
特定されていないので、選ぶ必要がある。
自分のセンス・・・それとも菜緒の好み・・・で選ぶべきか迷う。
その時、ひとつのオルゴールが目に飛び込んできた。
(これ・・・)
自分のセンスでも、菜緒の好みでもない。
だけど、彼女にピッタリの品を見つけた。
「真意を分かってくれるかな・・・」
多少、菜緒の傷口に触れることにもなる。
それでも、これを送りたい。
「よし、決めた!」
誕生日に逢う約束をした。
(喜んでくれるかな・・・)
その日はあっと言う間に訪れた。
(No.105-2へ続く)
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No.104-2
「本当はね・・・」
「秋の方が空が低いと思うんだ」
「どうして?」
真理子が理由を話し始めた。
「入道雲か・・・」
確かに、それ自体に立体感がある。
真っ白な雲がもくもくと天へと続くイメージもある。
青が濃い空とのコントラストも、それを一層感じさせる。
夏の空は高い・・・か。
「変かな?」
「いいや、逆に新発見かもしれないよ」
「学会に発表するのはどうかな?」
真理子の目が笑っている。
「そう考えると、本当に空が低く見えてきたよ」
秋の象徴とも言える、うろこ雲が広がっている。
「あ・・・」
真理子が何か気付いた声をあげた。
「空は低いけど・・・」
「ほら見て・・・ずっと遠くまで続いてるよ」
今にも水平線に消えそうな夕焼けを指差す。
空は低くとも果てしなく、続いている。
(No.104完)
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No.104-1
空が低い・・・?
(あれ・・・どっちだったかな)
空が高く感じる、低く感じる・・・風情を感じさせる表現だ。
「なぁ、秋って空が低いんだっけ?」
「違うよ、高いんだよ」
真理子が即答する。
「ほら・・・空が澄んでいるでしょ?」
そう言って空を指差す。
「どこまでも空が続く感じを“高い”って表現してると思うよ」
澄み切った空は果てしなく遠く感じる。
それに空って、どこか屋根のイメージもある。
だから、距離じゃなくて、高さなのかもしれない。
「何か想いでも?」
乙女チックな話題に多少フォローを入れてくれる。
「ただ・・・なんとなく・・・」
言葉が続かず、答えにならなかった。
空を見て何を想ってたのだろう。
「いいんじゃない?秋なんだから・・・」
真理子の言葉も続かなかった。
(No.104-2へ続く)
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No.103-2
「なぁ、知ってる?この匂い」
清美になにげなく聞いた。
「キンモクセイでしょ?」
「先に言っとくけど、トイレの・・・じゃなくて、芳香剤の匂いよ」
僕の顔に何か書いてあったんだろうか・・・。
先を読んだ発言に驚いた。
「そ、そうだよ。キンモクセイ」
「それがどうしたの?」
事情を軽く説明した。
「ふーん・・・何でだろうね」
気のせいかもしれないし、そんなに考え込む必要もないだろう。
この話はこれで終ろう。
「でも、そう言うことあるよね」
話を続けようとする。
「気付いて良かったじゃん」
清美の目が何かを言おうとしている。
「ねぇ、私の匂いにも気付いた?」
「え!お風呂入ってないの?」
「バカ!」
そこそこ威力があるパンチが飛んできた。
その瞬間から、清美から“女”の匂いがしてきた。
(No.103完)
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No.103-1
そこにあるのに見えないもの。
そこにないのに見えるもの。
今、思えばそう言うことだったのかもしれない。
「この香り・・・」
鼻を突く独特の香り。
どうやら、このオレンジ色の実から発しているようだ。
匂いの記憶はある。
(この庭木の名前・・・何だったっけ?)
なかなかそれらしき名前がヒットしない。
すぐには思い出せず、しばらく考えるはめになった。
あいにく匂いを忘れることはない。
あちこちで同じ匂いを嗅ぐことができるからだ。
(それにしても・・・)
なぜ、今年はこんなに気になるんだろう。
去年も一昨年も植えられていたはずなのに。
今まで気にならなかった、気にしなかっただけだろうか。
とにかく、名前が先だ。
困った時のネット頼みだ。
オレンジ色・・・秋の庭木・・・あたりで検索してみよう。
「あ!そうだ、そうだ」
トイレの匂い・・・でも検索してみよう。
(No.103-2へ続く)
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