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2009年10月

[No.102-2]シリウス・ルナ

No.102-2

妙な余韻を残したまま、メールを待つ。

(何だろう・・・怒らせたかな?)

うやむやな態度で接したのは分かっている。
けど、目くじらを立てる内容でもない。

「何か想い入れがあったのかな?」

とにかく色々考える前にメールを待つことにしよう。

(来た!)

メールの受信音が鳴る。
「あれ?麻奈じゃない」
名前が表示されない。
麻奈どころか、ケータイに登録していない人からだ。

「ん?・・・このアドレス・・・」

見覚えがある。
@以降は違うけど、その前までは同じスペルのアドレスだ。

“sirius-luna”

(まさか・・・)
ふたつのうち、どちらかが答えだ。
『アドレス変更したから登録しといて』
麻奈からだった。

『もう忘れたら?リハビリよ』

麻奈とメールする度に思い出し、そして忘れようとしている。

(No.102完)

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[No.102-1]シリウス・ルナ

No.102-1

「それって、海外の女優さん?」

無理もない。
これだけ聞くと、人の名前のような気がする。

「ごめん、人じゃないんだ」
「じゃ、犬?」

(応え方が下手だったかな?)

人でも犬でもなく、ましてや猫でもない。
とにかく何か特定の人や物に対しての名前ではない。

「じゃ、何なの?」
「そう言われると困るな・・・」

どちらも元は、星の名前だ。
それは麻奈も知っているだろう。

「単に組み合わせただけで、特に意味はないよ」
「何となく、名前っぽい響きがあるので」
「それならやっぱり、名前じゃない!」
「そ、そうだね・・・じゃあ、そう言うことで」

ここはひとまず引き下がっておこう。

深みにはまると、口を滑らせる可能性もある。
大したことでもないけど、積極的に話すことでもない。

「ふぅーん・・・まぁ、いいわ」
「後でメールする」

何やら嫌な予感がする。

(No.102-2へ続く)

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[No.101-2]冬のホタル(後編)

No.101-2文字の色:ホタル-黒奈央-茶

「でも、ホタルって・・・それだけの理由?」

やっぱり、聞かれた・・・嘘は付かんとこ。

「ホタルなら、男か女か分からへんやろ」
「それって・・・つまり、“隠す”ってこと?」
「彼に見られてもええようにな、そうしてんねん」

言うてもうた。
後は、ホタルちゃん次第や。

「何となく分かってたけどな」

そうなんや・・・ホタルちゃんやもんな。
それ以上は追求してこうへんかった。

「ほんなら、さっきのは?」

何か思いついた顔をしてたのは間違いあらへん。

「ブログのタイトルだよ」
「ブログ?」

「ホタル・・・冬のホタルに決めたんだ」
「北海道のイメージやね、それ」
「そう、そう。それに・・・」

「ホタルが管理人なら、男か女か分からないでしょ?」

「ほんまやね」

もし、うちがホタルちゃんと言う架空の人物を作ったとしたら・・・。
冬のホタルの管理人は男と女か、みんな悩むやろな。

(No.101完)冬のホタル完

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[No.101-1]冬のホタル(後編)

No.101-1文字の色:ホタル-黒奈央-茶

「これ見てん」

奈央ちゃんがスケジュール帳を見せる。

「これがどうしたの?」
「ここ・・・」
(あ!それ・・・)
火曜日の欄に“ホタル”と書かれている。

「知りたかったんやろ?」

そうとも言えるし、違うとも言える。
でも、聞くなら今のタイミングしかない。
「僕のことだろ、それ・・・なんでホタルなの?」
「単純な理由やけど・・・」
奈央ちゃんが説明を始めた。
「あはは、そうなんだ」

僕が北海道から引っ越して来たから・・・らしい。
つまり、アレなんだ。

「北の国から・・・だよね?」

奈央ちゃんが小さくうなづいた。
理由が分かれば、自分にピッタリのような気もする。

(・・・そうだ!これに決めよう)

「どないしたん?」
表情を読み取られた。
「ん?ああ・・・何でもないよ」
「嘘や!何か隠してるし」

しばらく攻防戦が続いた。

(No.101-2へ続く)

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[No.100-2]冬のホタル(前編)

No.100-2(文字の色:ホタル-黒奈央-茶

『来週の火曜日19時にいつもの所で』
「忘れんうちにメモしとこ」

ホタルちゃんと来週逢う約束をした。
(スケジュール帳・・・スケジュール帳・・・)

「あれ?ホタルちゃんと逢うのは今月2回目やぁ」

月初めにも“ホタル”と書かれた日がある。

「知ったら、びっくりするかなぁ」

ホタルと名付けられてること・・・なんでホタルなんやと。
でも話す機会、あるんやろか。
隠す気はないんやけど・・・。
単純な理由の裏に、複雑な理由も有るし。

『ホタルちゃんは悪くないやん』

(あっ!言うてもうた)

話の流れでついメールに“ホタル”と打ち込んでしまった。
けど、それには触れてこーへんかった。
何も無かったように、話が進んだ。

『・・・分かった。じゃ来週逢おうか?』
『ええよ』

『来週の火曜日19時にいつもの所で』

多分・・・逢ったら聞かれるやろな。
Animation1

(No.100完)後編へ続く

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[No.100-1]冬のホタル(前編)

No.100-1(文字の色:ホタル-黒奈央-茶) 

『ホタルちゃんは悪くないやん』

(ホタル・・・?)

話の流れからすると、僕のことらしい。
(・・・そう言えば・・・)
“ホタル”と呼ばれた疑問の前に、ある想いが浮かぶ。

僕は彼女をことを”奈央ちゃん”と呼ぶ。
でも、奈央ちゃんが僕のことを名前で呼ぶことはない。
それどころか、あだ名でもその他の何物でもない。

僕は彼女にとって“名無し”だった。

“ホタル”と呼ばれて、それがハッキリした。
今、思えば会話もメールも、僕を呼ぶ名は無かった。

(なんでホタルなの?)

聞くべきか、聞かざるべきか・・・。
連想されるイメージとしては“光”が一番だ。
それとも・・・。
(虫・・・っぽいから?)
それなら、ホタルじゃなくても他の虫でもいい。
(はかない命?)
・・・笑えない。

ただ、後にも先にもこれだけだった。
またいつものように名無しに戻った。

まるで、ホタルのように短い夏を駆け抜けた気分だ。

(No.100-2へ続く)

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[No.99-2]パラレルワールド

No.99-2

「明日もパラレルワールドに行こうかな!」
(あっ・・・しまった!)
朝の余韻が、つい口に出た。

「なに、なに、それ、どこの遊園地?」
「・・・そうじゃなくて、えーっとね・・・」
それについて説明した。

「おもしろいじゃん!私もそうしようかな」
意外だ・・・由梨(ゆり)が話に食い付いてきた。
由梨の報告は明日、聞くとしよう。

帰りの時間は朝とは違い、まちまちになる。

部活だったり、おしゃべりが過ぎることがある。
だから、帰り道にすれ違う人は日によって違う。

「じゃ、また明日!」

由梨の元気な声を背に、自転車を漕ぎ出した時だった。
(あれ?・・・あの人・・・)
朝の顔なじみとすれ違った。
(なんか新鮮・・・それに、不思議な気分)

本当に、パラレルワールドに迷い込んだ気分になった。

(No.99完)

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[No.99-1]パラレルワールド

No.99-1

いつもより、早く家を出た。

通い慣れた道を自転車で飛ばそうとする。

(・・・今日はのんびり行こう!)

早く出たんだ、そう急ぐこともない。

(あれ?・・・そっか!)

走り出して、すぐにあることに気付いた。
見かけない顔と次々、すれ違っている。

(それもそうよね)

時間帯がいつもと違う。

同じ時間・・・同じ電車、同じ車両。
その法則は、自転車通学でもあてはまる。
風景はいつもと同じなのに、知らない人達に出会う。
ちょっとした、パラレルワールドに迷い込んだ気分だ。

(私って、変なこと考えてるかなぁ?)

とにかく、人には言わない方が良いだろう。
どうせ、好奇の目で見られる。

結局、学校に着くまで“顔なじみ”とは出会わなかった。

(No.99-2へ続く)

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[No.98-2]小さな巨人

No.98-2

軽くジャンプした。
それだけで、いとも簡単に石を乗っけることができた。

(あれだけ苦労しても、だめだったのに・・・)

それなのに・・・なんでだろう?
少しも嬉しくない。

「ねぇ・・・何をお願いしたらいいの?」

願い事が無い自分に気付く。
手に入れられないものは今でも有る。
だけど、願い事をした所でどうにもならない。

「もう、帰ろう」
鳥居に背を向けて歩き出した瞬間だった。
(カチャン・・・)
「何だろう・・・?」
石が弾けたような音が聞こえた。
すると、コロコロとひとつの石が転がってきた。

(鳥居の上から落ちて来た・・・?)

それを手に取る。

(何をお願いしたかったの?)
目を閉じ自分に問い掛ける。
あの頃の光景が脳裏に浮かぶ。

そこには、ただ一生懸命だった私が居た。
(あ!乗った・・・)

(No.98完)

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[No.98-1]小さな巨人

No.98-1

(こんなに、小さかったっけ?)

目の前の鳥居に、少し複雑な心境だ。

小さい頃、住んでいた街に立ち寄る機会があった。
そのついでに、ある場所へと足を伸ばした。

何の変哲もない普通の神社・・。

有名ではないけど、厳かな雰囲気は今も変わらない。
そこには、大きな鳥居があるはずだった。

(手を伸ばせば届きそうね・・・)

幼い頃、鳥居の上、目掛けて石を投げていた。
その石が上に乗っかれば、願い事がひとつ叶う・・・。
そんな言い伝えがあった。

鳥居は、空に通じるほど、高かった。
投げても投げても、乗っからない。
それどころか、その高さにさえ達しなかった。
結局、願い事をすることなく、この地を後にした。

私に立ちふさがる大きな存在・・・。

幼いながらも、何やら言い知れぬ存在を感じた。
場所の雰囲気がより一層それを感じさせる。

それなのに・・・。

大人になった私には、その鳥居は小さすぎた。

(No.98-2へ続く)

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[No.97-2]涙は心の汗

No.97-2

(涙は心の汗・・・か)

一昔前の青春の匂いは、照れくさかったりもする。

「その涙の成分はなんだった?」
チョット意地悪な質問を返した。
「そうね、悲しみ半分、くやしさ半分かな」
「あ!それと、隠し味に・・・」
「隠し味?」

意地悪な質問に逆にユーモアで返してきた。
その余裕が、いじらしくもある。

「仕事の汗を、小さじ少々!」
「小さじ少々?1/2カップじゃない?」
「ハイ、ハイ・・・そうですよ!」

怒りながら、笑っている感じの表情だ。

彼女と話をしてると、名言に対する感じ方が少し変わった。
涙は心の汗・・・微妙に何かが違う。

「とにかく余計は考えなかった・・・」
「考える暇を与えなかった・・・よね?」
彼女の言葉に続けた。

汗は心の涙・・・。
私の汗も、そうなのかもしれない。

(No.97完)

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[No.97-1]涙は心の汗

No.97-1

涙は心の汗・・・言わずと知れた名言だ。

名言に解説を加えるほど野暮なことはない。
伝わる雰囲気を、ただ感じるだけでいい。

「最近、仕事頑張ってるよね?」

周辺から、頻繁にそう言われるようになった。
自分でもそう思う・・・思うだけじゃなく、本当にそうだ。

頑張るきっかけがあった。
失恋の痛手を忘れたくて、友人に相談した。

「人それぞれだけど・・・」
「私はただ、がむしゃらに働いたな」
当時を懐かしむように言った。

「仕事・・・か・・・逆に寂しさを感じなかった?」
反論する訳ではないけど、少し引っ掛かる。
「それは否定しない」
「けど、それを忘れるぐらい働いたわ」

仕事のことで頭を満たす。
余計なことは一切、考えない。
いや、考えられない・・・が正しい表現だろう。
自分なりの方法で、悲しみという鬼を追い出す・・・か。

「それで、忘れられた?」
「どうかなぁ?ま、涙は心の汗・・・ってことで」

はぐらかされた気もするし、的を得ている気もする。

(No.97-2へ続く)

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[No.96-2]巡るギザ十

No.96-2

日替わりランチでも、そこそこ話が盛り上がった。

ことの始まりがギザ十なのに。

「今度、こうしない?」
何やら怪しげな提案の予感がする。
「ギザ十が手に入ったら、ランチをおごるのはどう?」
「・・・あんたは言わないでしょ?」
「あっ!それも、そうね・・・」

あれや、これや話は続いた。
(こんなに会話が弾むのも、ギザ十のお陰ね)
こいつが、小さな幸せを運んで来てくれた。

「それ、どうするの?」
「そうね・・・記念に持ってようかな・・・」

幸せを手放すようで、少し惜しい気がしてきた。

「けちッ!」

今度は私が言われた。

「みんなに分けてあげようよ・・・小さな幸せ」

友人の言うとおりだ。
その恩恵を独り占めするのも気が引ける。

「うん、そうする。買い物したら、使っちゃうよ」
(・・・待てよ・・・)
「ねぇ?また誰かにおごってもらう魂胆でしょ!」

驚いた顔が、その答えのようだ。

(No.96完)

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[No.96-1]巡るギザ十

No.96-1

「あれ?珍しいな」
「どうしたの?」
友人が私の言葉に反応する。

財布の中に、ふちがギザギザの十円玉が1枚入っていた。

「へぇー、“ギザ十”じゃない」

硬貨として、わずかだけど価値がある。
けど、それよりも別の所に大きな価値があると思う。

『お釣りの十円は、ギザ十にしてください』

こんなことを言わない限り、自然に入手することは難しい。
だからこそ、偶然手に入ったことに価値がある。
幸せが舞い込んだ・・・そんな気になる。

「良いこと、あるといいわね」

友人も同じ考えのようだ。
ある意味、財布の中に“茶柱が立った”のかもしれない。

「それじゃ、豪華ランチをおごってもらおっかなー」
「どうしてそうなるのよ?」
「ホールインワンのようなものよ」
(・・・一理ある)
「仕方ないわね・・・」
「やったー!」
友人がオーバーアクションで喜ぶ。

「じゃ、日替わりね」
「けちッ!」
「何、贅沢言ってんのよ!ギザ十ならそんな程度よ」

(No.96-2へ続く)

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[No.95-2]マイノリティ

No.95-2

どちらかと言えば、こんにゃくは脇役だ。

ヘルシー志向でもない限り、そんなに積極的には食べない。
大根、玉子、巾着・・・・。
名だたる人気者を差し置いて、こんにゃくとは・・・。
亜希子はここでも個性的だ。

「ほんま、こんにゃくは、おいしぃわ」

ようやく落ち着いてくれたようだ。
けど、本当は落ち着くまでの間が楽しい。
こんにゃくひとつで、これだけ話が盛り上がる。

「お腹いっぱい、食べたわ」
気付けばペロリと平らげ、満足気な顔をしている。
・・・なら、そろそろ聞いてもいいだろう。

「なんで、こんにゃくが好きなの?」
「なんでか、って?そやね・・・」
珍しく、考え込んでいる。

「マイノリティ・・・かも知れへんな」

(へぇー、意外な言葉を知ってる・・・)

「少数派ってことだろ?」
「うん。うち、そんなんが好きやねん」
「好きな味だとか、見た目がどうとか・・・じゃなくて?」
「見た目?気にしたことないし」

理由は・・・無いか・・・。
それも亜希子らしいと言えば、答えになるのかもしれない。

「マイノリティ・・・なら、俺を選んだのもそう?」
軽いジョークのつもりだった。
「な、な、なんで分かったん!」
亜希子が真顔で言った。

「味は一応、気にしたつもりやけど」

見た目はどうでもいいらしい・・・。

(No.95完)

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[No.95-1]マイノリティ

No.95-1

「そやね・・・それと、それと、それ頂戴!」

「これと、これと、これ・・・って全部、こんにゃくやんか!」

亜希子と屋台のオヤジとのワンシーンだ。

さすが、大阪・・・打合せもなく、漫才が成立している。
彼女は“おでん好き”だ。
だから、旬にはまだ早いけど、先取りして誘った。

「こんにゃくが好きなんだ?」
関西弁に割って入る。
「そやで、知らんかったん?」
おでんが好きだとは知ってたけど、まさかこれとは・・・。

「なんか、文句あるぅ?」
亜希子が不機嫌な顔をする。
「えっ!、そんなんじゃなくて・・・」
「じゃ、どないやねん?」

ふと気付くと屋台のオヤジが笑っている。

「ええ、コンビや」
(オヤジ・・・そんな無責任な・・・)

しばらく、漫才は続いた。

「とにかく、分かった・・・分かったから!」
「ほんまに?せやったら、ええわ」
「ほな、別の具でも、頼もかいな」
(なんだぁ・・・他にも好きな具、あるんだ)

「おっちゃん!しらたき、ちょーだい!」
「・・・」
「いま、突っ込むとこやでぇ!」

(えっ!そうなの?)

オヤジの域は、まだ遠い。

(No.95-2へ続く)

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[No.94-2]やっかいな恋

No.94-2

「お互いフリーなんだから、気楽に行けば?」
「そうなんだけど・・・」

確かに、お互い独身で、恋人もいない。
でも、思った以上に、臆病になってしまう。

「ある意味、やっかいな恋ね」

自分で発した言葉は、軽いようで重い。

仮に付き合って、仮に別れたとしたら・・・。
もう・・・友達には戻れない。

「それでも、いいじゃない」
「彼を好きになった、それが友達だっただけの話よ」

聡子が背中を押してくれる。
「それって、経験談?」
「あら、よく知ってるわね」

二人で顔を見合わせて笑った。
冗談のつもりが、本当だったらしい。
だからこそのアドバイスだったのかもしれない。

「好きです」

後日、彼に気持ちを伝えた。
この一言で、私たちは結婚するに至った。

「ねぇ、もし私がフラれたら、どう慰めてくれた?」

「考えてなかったよ。
 だって、彼もあなたのこと好きだったの知ってたし」

やっかいな恋・・・臆病にならないで。

(No.94完)

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[No.94-1]やっかいな恋

No.94-1

(ポチャン・・・)

最初は、とても小さな音から始まった。

・・・と、同時に、そこから小さな波紋がひとつ生まれた。
そして、ふたつ、みっつ、よっつ・・・・。
数を増やしながら、波紋が大きくなった。
やがて、その先が見えなくなるぐらい広がっていった。
私は、その見えない先をずっと、眺めていた・・・。

好意は持っていた。

けど、特別な気持ちはなかった。
それが、ある瞬間、恋心に変わった。

(小石を投げ入れたのは誰?)

冷静になろうとする自分がいる。

事の始まりは、私だろうか、それとも彼・・・?
どちらにせよ、私の水面(みなも)は今、乱れている。
小石は気が付けば、大きな波紋へと変わっていた。
そして、波紋は今も止まろうとする気配を見せない。

「どうするの?」

聡子が見かねて声を掛けてきた。

「わかんない・・・ただ・・もう友達じゃいられない」

正直に答えるしかない。

友情が恋心に変わる・・・珍しい話ではない。
ただ、もう普通には逢えない。

(No.94-2へ続く)

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[No.93-2]無くならないもの

No.93-2

「落ち着いたら連絡して」

高校からの友人が、引越しの手伝いに来てくれた。

「そうね、ありがとう来てくれて」
「はい、せ・ん・べ・つよ」
「わぁ!現金?」

冗談はほどほどに、友人からある物を手渡された。

「間違って捨てられてたわよ」
それはピンクのブラシだった。
「あっ・・・うん・・・ありがとぉ」
捨てたとは言いにくい雰囲気に、つい肯定してしまった。
(また、残っちゃった)
二度捨てるのは、さすがに気が引ける。
そのまま引越しの荷物に詰め込んだ。

(あれ・・・どこ行ったっけ?)

荷物に詰め込んだはずのピンクのブラシが見当たらない。

(うそ・・・無くした?そんな・・・)

ブラシは引越しの車の中に落ちていたらしい。
後日、無事私の元へ届けられた。

「ごめんね」

物に心はない。
けど、触れる人のぬくもりを感じることができる。
だから、“失くさない”で欲しい。

(No.93完)

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[No.93-1]無くならないもの

No.93-1

「そう言えば・・・・」

毎日、髪のセットに使っているブラシがある。
ピンク色のスケルトンタイプだ。

確か高校の時、繁華街の雑貨屋で買った。

あれから就職して地元を離れ、何度か引越しもした。

(あれ・・・どこ行ったっけ?)
(もう、要らない・・・)

その度に、色んなものを無くしたり、捨てたりもした。
それなのに・・・。
このピンクのブラシだけは、今もこうして残っている。
気付けば、私の過去を知る品物なんてこれ以外ない。
あれも、これも新参者だ。

特に意識して大切にしていた訳でもない。
ブラシには悪いけど、たまたま手元に残っているだけだ。

(わざと捨てちゃうか・・・)

そうなると、少し意地悪なことを考えてしまう。
どうせ、想い出の品でもないし、安物だ。

来週、引越しする。

そのついでに捨ててしまおう。

(No.93-2へ続く)

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[No.92-2]嘘?・・・本当?

No.92-2

来週の予定が未定のまま、連絡がまた途絶えた。
ケータイの不調とは言え、昨日の今日だ。

すれ違い・・・?それとも・・・・。

最初の約束は延期、次の約束は携帯の不調・・・。
そして今・・・。
何となく避けられているような気もする。

『・・・そう言うことなら、このまま・・・』

別れを匂わすメールを送った。

『ごめん、ケータイ放置してて。 まだ、間に合うなら
私は逢いたいな』 

『メールって怖いね、相手が見えない。自分のペース
を相手に押し付けてしまう。ごめん、また逢えたら』

これが最後のメールになった。

結局、全部嘘だったのか?
それとも、本当だったのか・・・?

『全部、本当の嘘をついた』

そんなメールが返って来そうな気がする。
もし、そんなメールが届いたなら返事は決まっている。

『今まで、ありがとう』

(No.92完)

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[No.92-1]嘘?・・・本当?

No.92-1

数日前に、景子と逢う約束をした。

それなのに、連絡がつかないまま約束の日を迎えた。
今日とは約束したけど、何時に何処・・・と決めていない。
今の世代はそうなのかもしれない。
ケータイさえあれば、時間と場所を選ばない。

ただ、今回は少し様子が違う。
返事は前から遅い方だったけど・・・。

辛うじて“その日”の内に返信が入った。

『ごめん・・・ケータイの調子が悪くて・・・』
『そっか・・・大変だったね』

自分も経験がある。
カーソルが動かなくなり、焦ったことがあった。
数時間後、何もなかったように回復した。

『気にすんなよ、来週どう?』

早く逢いたい理由があった。

景子が心待ちにしていた旅行のお土産を渡したい。

逢う約束が延び延びになっていた。
それに賞味期限も・・・。
だから、多少、焦りもあった。

(No.92-2へ続く)

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[No.91-2]クリクリ目玉

No.91-2

「どないしたん・・・急に?」

「聞いてほしいことがあったので」
食事を理由に菜緒を誘った。
「ほんまにぃ?なんやろな」

気付かなかったのが不思議なぐらいだ。
今まで散々、せいじゅうろうで笑い合っていたのに。
「似てるんだよな」
菜緒にケータイのせいじゅうろうを見せた。
せいじゅうろう・・・リラックマの目が菜緒に似ている。

「マジィ!そんなん言われたん、初めてやし」
「それに・・・黒丸やん!それ」

少なくとも怒ってはいない・・・喜んでいるようさえ見える。
「黒丸か・・・アハハ、そうだよね」

何の特徴もない単なる黒い丸がふたつ・・・。
確かに菜緒の言う通りだ。

「で、うちがリラックマのほうやね」
「そう・・・菜緒がリラ・・・ほう?・・・え!」
「直哉は色白やから、コリラックマやね」

No912_2

確かにこいつらの写メを見ると、俺達ふたりの影と重なる。
記念撮影したあの日の写メと。

(No.91完)

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[No.91-1]クリクリ目玉

No.91-1 [No.07-1]せいじゅうろう

(うーん・・・)

菜緒に言いたいことがあった。
ここまで出かかっているのに思い出せない。

「何だろう・・・分かるか?」

せいじゅうろうに聞いてみた。
相変わらず、ケータイにぶらさがってダラけている。

『うち、分からしませんよってに』
ある日の菜緒のセリフが、せいじゅうろうと重なる。

数日前、菜緒からの写メを整理した。

そのつもりが、ついつい見入ってしまった。
あんなこと、こんなこと・・・。
勘違いして大笑いした写真で溢れていた。
(あれ?なんだろう)
そのうち、疑問にも似た、何かを感じ始めた。
(菜緒に何か伝えなきゃ・・・)

「ほんと・・・何だろうな」

あの日からすっきりしない。
せいじゅうろうを見つめ直す・・・何か思い出すかもしれない。
真ん丸の目玉と目が合った。

「真ん丸の目・・・あっ!」

その瞬間、すっきりした。

(No.91-2へ続く)

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