No.102-2
妙な余韻を残したまま、メールを待つ。
(何だろう・・・怒らせたかな?)
うやむやな態度で接したのは分かっている。
けど、目くじらを立てる内容でもない。
「何か想い入れがあったのかな?」
とにかく色々考える前にメールを待つことにしよう。
(来た!)
メールの受信音が鳴る。
「あれ?麻奈じゃない」
名前が表示されない。
麻奈どころか、ケータイに登録していない人からだ。
「ん?・・・このアドレス・・・」
見覚えがある。
@以降は違うけど、その前までは同じスペルのアドレスだ。
“sirius-luna”
(まさか・・・)
ふたつのうち、どちらかが答えだ。
『アドレス変更したから登録しといて』
麻奈からだった。
『もう忘れたら?リハビリよ』
麻奈とメールする度に思い出し、そして忘れようとしている。
(No.102完)
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No.102-1
「それって、海外の女優さん?」
無理もない。
これだけ聞くと、人の名前のような気がする。
「ごめん、人じゃないんだ」
「じゃ、犬?」
(応え方が下手だったかな?)
人でも犬でもなく、ましてや猫でもない。
とにかく何か特定の人や物に対しての名前ではない。
「じゃ、何なの?」
「そう言われると困るな・・・」
どちらも元は、星の名前だ。
それは麻奈も知っているだろう。
「単に組み合わせただけで、特に意味はないよ」
「何となく、名前っぽい響きがあるので」
「それならやっぱり、名前じゃない!」
「そ、そうだね・・・じゃあ、そう言うことで」
ここはひとまず引き下がっておこう。
深みにはまると、口を滑らせる可能性もある。
大したことでもないけど、積極的に話すことでもない。
「ふぅーん・・・まぁ、いいわ」
「後でメールする」
何やら嫌な予感がする。
(No.102-2へ続く)
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No.101-2(文字の色:ホタル-黒、奈央-茶)
「でも、ホタルって・・・それだけの理由?」
やっぱり、聞かれた・・・嘘は付かんとこ。
「ホタルなら、男か女か分からへんやろ」
「それって・・・つまり、“隠す”ってこと?」
「彼に見られてもええようにな、そうしてんねん」
言うてもうた。
後は、ホタルちゃん次第や。
「何となく分かってたけどな」
そうなんや・・・ホタルちゃんやもんな。
それ以上は追求してこうへんかった。
「ほんなら、さっきのは?」
何か思いついた顔をしてたのは間違いあらへん。
「ブログのタイトルだよ」
「ブログ?」
「ホタル・・・冬のホタルに決めたんだ」
「北海道のイメージやね、それ」
「そう、そう。それに・・・」
「ホタルが管理人なら、男か女か分からないでしょ?」
「ほんまやね」
もし、うちがホタルちゃんと言う架空の人物を作ったとしたら・・・。
冬のホタルの管理人は男と女か、みんな悩むやろな。
(No.101完)冬のホタル完
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No.101-1(文字の色:ホタル-黒、奈央-茶)
「これ見てん」
奈央ちゃんがスケジュール帳を見せる。
「これがどうしたの?」
「ここ・・・」
(あ!それ・・・)
火曜日の欄に“ホタル”と書かれている。
「知りたかったんやろ?」
そうとも言えるし、違うとも言える。
でも、聞くなら今のタイミングしかない。
「僕のことだろ、それ・・・なんでホタルなの?」
「単純な理由やけど・・・」
奈央ちゃんが説明を始めた。
「あはは、そうなんだ」
僕が北海道から引っ越して来たから・・・らしい。
つまり、アレなんだ。
「北の国から・・・だよね?」
奈央ちゃんが小さくうなづいた。
理由が分かれば、自分にピッタリのような気もする。
(・・・そうだ!これに決めよう)
「どないしたん?」
表情を読み取られた。
「ん?ああ・・・何でもないよ」
「嘘や!何か隠してるし」
しばらく攻防戦が続いた。
(No.101-2へ続く)
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No.100-1(文字の色:ホタル-黒、奈央-茶)
『ホタルちゃんは悪くないやん』
(ホタル・・・?)
話の流れからすると、僕のことらしい。
(・・・そう言えば・・・)
“ホタル”と呼ばれた疑問の前に、ある想いが浮かぶ。
僕は彼女をことを”奈央ちゃん”と呼ぶ。
でも、奈央ちゃんが僕のことを名前で呼ぶことはない。
それどころか、あだ名でもその他の何物でもない。
僕は彼女にとって“名無し”だった。
“ホタル”と呼ばれて、それがハッキリした。
今、思えば会話もメールも、僕を呼ぶ名は無かった。
(なんでホタルなの?)
聞くべきか、聞かざるべきか・・・。
連想されるイメージとしては“光”が一番だ。
それとも・・・。
(虫・・・っぽいから?)
それなら、ホタルじゃなくても他の虫でもいい。
(はかない命?)
・・・笑えない。
ただ、後にも先にもこれだけだった。
またいつものように名無しに戻った。
まるで、ホタルのように短い夏を駆け抜けた気分だ。
(No.100-2へ続く)
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No.99-2
「明日もパラレルワールドに行こうかな!」
(あっ・・・しまった!)
朝の余韻が、つい口に出た。
「なに、なに、それ、どこの遊園地?」
「・・・そうじゃなくて、えーっとね・・・」
それについて説明した。
「おもしろいじゃん!私もそうしようかな」
意外だ・・・由梨(ゆり)が話に食い付いてきた。
由梨の報告は明日、聞くとしよう。
帰りの時間は朝とは違い、まちまちになる。
部活だったり、おしゃべりが過ぎることがある。
だから、帰り道にすれ違う人は日によって違う。
「じゃ、また明日!」
由梨の元気な声を背に、自転車を漕ぎ出した時だった。
(あれ?・・・あの人・・・)
朝の顔なじみとすれ違った。
(なんか新鮮・・・それに、不思議な気分)
本当に、パラレルワールドに迷い込んだ気分になった。
(No.99完)
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No.99-1
いつもより、早く家を出た。
通い慣れた道を自転車で飛ばそうとする。
(・・・今日はのんびり行こう!)
早く出たんだ、そう急ぐこともない。
(あれ?・・・そっか!)
走り出して、すぐにあることに気付いた。
見かけない顔と次々、すれ違っている。
(それもそうよね)
時間帯がいつもと違う。
同じ時間・・・同じ電車、同じ車両。
その法則は、自転車通学でもあてはまる。
風景はいつもと同じなのに、知らない人達に出会う。
ちょっとした、パラレルワールドに迷い込んだ気分だ。
(私って、変なこと考えてるかなぁ?)
とにかく、人には言わない方が良いだろう。
どうせ、好奇の目で見られる。
結局、学校に着くまで“顔なじみ”とは出会わなかった。
(No.99-2へ続く)
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No.98-2
軽くジャンプした。
それだけで、いとも簡単に石を乗っけることができた。
(あれだけ苦労しても、だめだったのに・・・)
それなのに・・・なんでだろう?
少しも嬉しくない。
「ねぇ・・・何をお願いしたらいいの?」
願い事が無い自分に気付く。
手に入れられないものは今でも有る。
だけど、願い事をした所でどうにもならない。
「もう、帰ろう」
鳥居に背を向けて歩き出した瞬間だった。
(カチャン・・・)
「何だろう・・・?」
石が弾けたような音が聞こえた。
すると、コロコロとひとつの石が転がってきた。
(鳥居の上から落ちて来た・・・?)
それを手に取る。
(何をお願いしたかったの?)
目を閉じ自分に問い掛ける。
あの頃の光景が脳裏に浮かぶ。
そこには、ただ一生懸命だった私が居た。
(あ!乗った・・・)
(No.98完)
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No.98-1
(こんなに、小さかったっけ?)
目の前の鳥居に、少し複雑な心境だ。
小さい頃、住んでいた街に立ち寄る機会があった。
そのついでに、ある場所へと足を伸ばした。
何の変哲もない普通の神社・・。
有名ではないけど、厳かな雰囲気は今も変わらない。
そこには、大きな鳥居があるはずだった。
(手を伸ばせば届きそうね・・・)
幼い頃、鳥居の上、目掛けて石を投げていた。
その石が上に乗っかれば、願い事がひとつ叶う・・・。
そんな言い伝えがあった。
鳥居は、空に通じるほど、高かった。
投げても投げても、乗っからない。
それどころか、その高さにさえ達しなかった。
結局、願い事をすることなく、この地を後にした。
私に立ちふさがる大きな存在・・・。
幼いながらも、何やら言い知れぬ存在を感じた。
場所の雰囲気がより一層それを感じさせる。
それなのに・・・。
大人になった私には、その鳥居は小さすぎた。
(No.98-2へ続く)
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No.97-2
(涙は心の汗・・・か)
一昔前の青春の匂いは、照れくさかったりもする。
「その涙の成分はなんだった?」
チョット意地悪な質問を返した。
「そうね、悲しみ半分、くやしさ半分かな」
「あ!それと、隠し味に・・・」
「隠し味?」
意地悪な質問に逆にユーモアで返してきた。
その余裕が、いじらしくもある。
「仕事の汗を、小さじ少々!」
「小さじ少々?1/2カップじゃない?」
「ハイ、ハイ・・・そうですよ!」
怒りながら、笑っている感じの表情だ。
彼女と話をしてると、名言に対する感じ方が少し変わった。
涙は心の汗・・・微妙に何かが違う。
「とにかく余計は考えなかった・・・」
「考える暇を与えなかった・・・よね?」
彼女の言葉に続けた。
汗は心の涙・・・。
私の汗も、そうなのかもしれない。
(No.97完)
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No.97-1
涙は心の汗・・・言わずと知れた名言だ。
名言に解説を加えるほど野暮なことはない。
伝わる雰囲気を、ただ感じるだけでいい。
「最近、仕事頑張ってるよね?」
周辺から、頻繁にそう言われるようになった。
自分でもそう思う・・・思うだけじゃなく、本当にそうだ。
頑張るきっかけがあった。
失恋の痛手を忘れたくて、友人に相談した。
「人それぞれだけど・・・」
「私はただ、がむしゃらに働いたな」
当時を懐かしむように言った。
「仕事・・・か・・・逆に寂しさを感じなかった?」
反論する訳ではないけど、少し引っ掛かる。
「それは否定しない」
「けど、それを忘れるぐらい働いたわ」
仕事のことで頭を満たす。
余計なことは一切、考えない。
いや、考えられない・・・が正しい表現だろう。
自分なりの方法で、悲しみという鬼を追い出す・・・か。
「それで、忘れられた?」
「どうかなぁ?ま、涙は心の汗・・・ってことで」
はぐらかされた気もするし、的を得ている気もする。
(No.97-2へ続く)
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No.96-2
日替わりランチでも、そこそこ話が盛り上がった。
ことの始まりがギザ十なのに。
「今度、こうしない?」
何やら怪しげな提案の予感がする。
「ギザ十が手に入ったら、ランチをおごるのはどう?」
「・・・あんたは言わないでしょ?」
「あっ!それも、そうね・・・」
あれや、これや話は続いた。
(こんなに会話が弾むのも、ギザ十のお陰ね)
こいつが、小さな幸せを運んで来てくれた。
「それ、どうするの?」
「そうね・・・記念に持ってようかな・・・」
幸せを手放すようで、少し惜しい気がしてきた。
「けちッ!」
今度は私が言われた。
「みんなに分けてあげようよ・・・小さな幸せ」
友人の言うとおりだ。
その恩恵を独り占めするのも気が引ける。
「うん、そうする。買い物したら、使っちゃうよ」
(・・・待てよ・・・)
「ねぇ?また誰かにおごってもらう魂胆でしょ!」
驚いた顔が、その答えのようだ。
(No.96完)
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No.96-1
「あれ?珍しいな」
「どうしたの?」
友人が私の言葉に反応する。
財布の中に、ふちがギザギザの十円玉が1枚入っていた。
「へぇー、“ギザ十”じゃない」
硬貨として、わずかだけど価値がある。
けど、それよりも別の所に大きな価値があると思う。
『お釣りの十円は、ギザ十にしてください』
こんなことを言わない限り、自然に入手することは難しい。
だからこそ、偶然手に入ったことに価値がある。
幸せが舞い込んだ・・・そんな気になる。
「良いこと、あるといいわね」
友人も同じ考えのようだ。
ある意味、財布の中に“茶柱が立った”のかもしれない。
「それじゃ、豪華ランチをおごってもらおっかなー」
「どうしてそうなるのよ?」
「ホールインワンのようなものよ」
(・・・一理ある)
「仕方ないわね・・・」
「やったー!」
友人がオーバーアクションで喜ぶ。
「じゃ、日替わりね」
「けちッ!」
「何、贅沢言ってんのよ!ギザ十ならそんな程度よ」
(No.96-2へ続く)
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No.95-2
どちらかと言えば、こんにゃくは脇役だ。
ヘルシー志向でもない限り、そんなに積極的には食べない。
大根、玉子、巾着・・・・。
名だたる人気者を差し置いて、こんにゃくとは・・・。
亜希子はここでも個性的だ。
「ほんま、こんにゃくは、おいしぃわ」
ようやく落ち着いてくれたようだ。
けど、本当は落ち着くまでの間が楽しい。
こんにゃくひとつで、これだけ話が盛り上がる。
「お腹いっぱい、食べたわ」
気付けばペロリと平らげ、満足気な顔をしている。
・・・なら、そろそろ聞いてもいいだろう。
「なんで、こんにゃくが好きなの?」
「なんでか、って?そやね・・・」
珍しく、考え込んでいる。
「マイノリティ・・・かも知れへんな」
(へぇー、意外な言葉を知ってる・・・)
「少数派ってことだろ?」
「うん。うち、そんなんが好きやねん」
「好きな味だとか、見た目がどうとか・・・じゃなくて?」
「見た目?気にしたことないし」
理由は・・・無いか・・・。
それも亜希子らしいと言えば、答えになるのかもしれない。
「マイノリティ・・・なら、俺を選んだのもそう?」
軽いジョークのつもりだった。
「な、な、なんで分かったん!」
亜希子が真顔で言った。
「味は一応、気にしたつもりやけど」
見た目はどうでもいいらしい・・・。
(No.95完)
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No.95-1
「そやね・・・それと、それと、それ頂戴!」
「これと、これと、これ・・・って全部、こんにゃくやんか!」
亜希子と屋台のオヤジとのワンシーンだ。
さすが、大阪・・・打合せもなく、漫才が成立している。
彼女は“おでん好き”だ。
だから、旬にはまだ早いけど、先取りして誘った。
「こんにゃくが好きなんだ?」
関西弁に割って入る。
「そやで、知らんかったん?」
おでんが好きだとは知ってたけど、まさかこれとは・・・。
「なんか、文句あるぅ?」
亜希子が不機嫌な顔をする。
「えっ!、そんなんじゃなくて・・・」
「じゃ、どないやねん?」
ふと気付くと屋台のオヤジが笑っている。
「ええ、コンビや」
(オヤジ・・・そんな無責任な・・・)
しばらく、漫才は続いた。
「とにかく、分かった・・・分かったから!」
「ほんまに?せやったら、ええわ」
「ほな、別の具でも、頼もかいな」
(なんだぁ・・・他にも好きな具、あるんだ)
「おっちゃん!しらたき、ちょーだい!」
「・・・」
「いま、突っ込むとこやでぇ!」
(えっ!そうなの?)
オヤジの域は、まだ遠い。
(No.95-2へ続く)
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No.94-2
「お互いフリーなんだから、気楽に行けば?」
「そうなんだけど・・・」
確かに、お互い独身で、恋人もいない。
でも、思った以上に、臆病になってしまう。
「ある意味、やっかいな恋ね」
自分で発した言葉は、軽いようで重い。
仮に付き合って、仮に別れたとしたら・・・。
もう・・・友達には戻れない。
「それでも、いいじゃない」
「彼を好きになった、それが友達だっただけの話よ」
聡子が背中を押してくれる。
「それって、経験談?」
「あら、よく知ってるわね」
二人で顔を見合わせて笑った。
冗談のつもりが、本当だったらしい。
だからこそのアドバイスだったのかもしれない。
「好きです」
後日、彼に気持ちを伝えた。
この一言で、私たちは結婚するに至った。
「ねぇ、もし私がフラれたら、どう慰めてくれた?」
「考えてなかったよ。
だって、彼もあなたのこと好きだったの知ってたし」
やっかいな恋・・・臆病にならないで。
(No.94完)
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No.94-1
(ポチャン・・・)
最初は、とても小さな音から始まった。
・・・と、同時に、そこから小さな波紋がひとつ生まれた。
そして、ふたつ、みっつ、よっつ・・・・。
数を増やしながら、波紋が大きくなった。
やがて、その先が見えなくなるぐらい広がっていった。
私は、その見えない先をずっと、眺めていた・・・。
好意は持っていた。
けど、特別な気持ちはなかった。
それが、ある瞬間、恋心に変わった。
(小石を投げ入れたのは誰?)
冷静になろうとする自分がいる。
事の始まりは、私だろうか、それとも彼・・・?
どちらにせよ、私の水面(みなも)は今、乱れている。
小石は気が付けば、大きな波紋へと変わっていた。
そして、波紋は今も止まろうとする気配を見せない。
「どうするの?」
聡子が見かねて声を掛けてきた。
「わかんない・・・ただ・・もう友達じゃいられない」
正直に答えるしかない。
友情が恋心に変わる・・・珍しい話ではない。
ただ、もう普通には逢えない。
(No.94-2へ続く)
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No.93-2
「落ち着いたら連絡して」
高校からの友人が、引越しの手伝いに来てくれた。
「そうね、ありがとう来てくれて」
「はい、せ・ん・べ・つよ」
「わぁ!現金?」
冗談はほどほどに、友人からある物を手渡された。
「間違って捨てられてたわよ」
それはピンクのブラシだった。
「あっ・・・うん・・・ありがとぉ」
捨てたとは言いにくい雰囲気に、つい肯定してしまった。
(また、残っちゃった)
二度捨てるのは、さすがに気が引ける。
そのまま引越しの荷物に詰め込んだ。
(あれ・・・どこ行ったっけ?)
荷物に詰め込んだはずのピンクのブラシが見当たらない。
(うそ・・・無くした?そんな・・・)
ブラシは引越しの車の中に落ちていたらしい。
後日、無事私の元へ届けられた。
「ごめんね」
物に心はない。
けど、触れる人のぬくもりを感じることができる。
だから、“失くさない”で欲しい。
(No.93完)
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No.93-1
「そう言えば・・・・」
毎日、髪のセットに使っているブラシがある。
ピンク色のスケルトンタイプだ。
確か高校の時、繁華街の雑貨屋で買った。
あれから就職して地元を離れ、何度か引越しもした。
(あれ・・・どこ行ったっけ?)
(もう、要らない・・・)
その度に、色んなものを無くしたり、捨てたりもした。
それなのに・・・。
このピンクのブラシだけは、今もこうして残っている。
気付けば、私の過去を知る品物なんてこれ以外ない。
あれも、これも新参者だ。
特に意識して大切にしていた訳でもない。
ブラシには悪いけど、たまたま手元に残っているだけだ。
(わざと捨てちゃうか・・・)
そうなると、少し意地悪なことを考えてしまう。
どうせ、想い出の品でもないし、安物だ。
来週、引越しする。
そのついでに捨ててしまおう。
(No.93-2へ続く)
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No.92-2
来週の予定が未定のまま、連絡がまた途絶えた。
ケータイの不調とは言え、昨日の今日だ。
すれ違い・・・?それとも・・・・。
最初の約束は延期、次の約束は携帯の不調・・・。
そして今・・・。
何となく避けられているような気もする。
『・・・そう言うことなら、このまま・・・』
別れを匂わすメールを送った。
『ごめん、ケータイ放置してて。 まだ、間に合うなら
私は逢いたいな』
『メールって怖いね、相手が見えない。自分のペース
を相手に押し付けてしまう。ごめん、また逢えたら』
これが最後のメールになった。
結局、全部嘘だったのか?
それとも、本当だったのか・・・?
『全部、本当の嘘をついた』
そんなメールが返って来そうな気がする。
もし、そんなメールが届いたなら返事は決まっている。
『今まで、ありがとう』
(No.92完)
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No.92-1
数日前に、景子と逢う約束をした。
それなのに、連絡がつかないまま約束の日を迎えた。
今日とは約束したけど、何時に何処・・・と決めていない。
今の世代はそうなのかもしれない。
ケータイさえあれば、時間と場所を選ばない。
ただ、今回は少し様子が違う。
返事は前から遅い方だったけど・・・。
辛うじて“その日”の内に返信が入った。
『ごめん・・・ケータイの調子が悪くて・・・』
『そっか・・・大変だったね』
自分も経験がある。
カーソルが動かなくなり、焦ったことがあった。
数時間後、何もなかったように回復した。
『気にすんなよ、来週どう?』
早く逢いたい理由があった。
景子が心待ちにしていた旅行のお土産を渡したい。
逢う約束が延び延びになっていた。
それに賞味期限も・・・。
だから、多少、焦りもあった。
(No.92-2へ続く)
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No.91-2
「どないしたん・・・急に?」
「聞いてほしいことがあったので」
食事を理由に菜緒を誘った。
「ほんまにぃ?なんやろな」
気付かなかったのが不思議なぐらいだ。
今まで散々、せいじゅうろうで笑い合っていたのに。
「似てるんだよな」
菜緒にケータイのせいじゅうろうを見せた。
せいじゅうろう・・・リラックマの目が菜緒に似ている。
「マジィ!そんなん言われたん、初めてやし」
「それに・・・黒丸やん!それ」
少なくとも怒ってはいない・・・喜んでいるようさえ見える。
「黒丸か・・・アハハ、そうだよね」
何の特徴もない単なる黒い丸がふたつ・・・。
確かに菜緒の言う通りだ。
「で、うちがリラックマのほうやね」
「そう・・・菜緒がリラ・・・ほう?・・・え!」
「直哉は色白やから、コリラックマやね」
確かにこいつらの写メを見ると、俺達ふたりの影と重なる。
記念撮影したあの日の写メと。
(No.91完)
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No.91-1 [No.07-1]せいじゅうろう
(うーん・・・)
菜緒に言いたいことがあった。
ここまで出かかっているのに思い出せない。
「何だろう・・・分かるか?」
せいじゅうろうに聞いてみた。
相変わらず、ケータイにぶらさがってダラけている。
『うち、分からしませんよってに』
ある日の菜緒のセリフが、せいじゅうろうと重なる。
数日前、菜緒からの写メを整理した。
そのつもりが、ついつい見入ってしまった。
あんなこと、こんなこと・・・。
勘違いして大笑いした写真で溢れていた。
(あれ?なんだろう)
そのうち、疑問にも似た、何かを感じ始めた。
(菜緒に何か伝えなきゃ・・・)
「ほんと・・・何だろうな」
あの日からすっきりしない。
せいじゅうろうを見つめ直す・・・何か思い出すかもしれない。
真ん丸の目玉と目が合った。
「真ん丸の目・・・あっ!」
その瞬間、すっきりした。
(No.91-2へ続く)
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