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2009年9月

[No.90-2]公園の片隅で

No.90-2

「まだ、あったんだ・・・」

公園のベンチに腰掛けてみた。
全身が茜色に染まる。
ここから見える夕日は今も色鮮やかなままだ。

「ほんと、変わらないね」

「今度は、どっちが変わんないんだよ」

孝之が少しすねた様な口調で言った。

「ごめん、ごめん」

孝之とここで待ち合わせた。
全然、変わってない孝之に、複雑な心境だった。

「だって、変わってないんだもん」
「成長したんだよ、それでも」
孝之が反論する。
「そうね、老けたんじゃない?」
ジョーク半分、現実半分だ。

「今でも好きだ・・・」
「・・・バカ・・・ね」

変わってないけど、成長はしたようだ

(No.90完)

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[No.90-1]公園の片隅で

No.90-1

この駅を降りれば、あの公園への道に続く。

(何年振りかなぁ・・・)

記憶の中では公園へと続く道を覚えていない。
それなのに足がこの道を覚えていた。

住宅街を避け、土手沿いの道を行く。
少しずつ見覚えがある風景が広がる。

「そぉ、そぉ!」

思わず口に出てしまった。
でも、景色そのものに見覚えがあるんじゃない。
見えるアングルが記憶のパズルに一致する。

(もうすぐね)

押さえられず、一気に公園まで走った。

「全然、変わってない・・・」

期待という風船が急にしぼんだ気がした。
あれも、これも・・・あの頃のままだ。
劇的な変化をどこか期待していたのも確かだった。
それだけに、拍子抜けした感もある。

ただ、時の流れは感じずにはいられない。

(No.90-2へ続く)

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[No.89-2]遠い喫茶店

No.89-2

ひとりの女性と知り合いになった。
人目を避ける・・・逢う時はいつもそんな感じだった。
色々、事情がある上での行動だった。

「土日は基本、外出でけへんし」

そうなると当然、逢う場所も限られてきた。

「遠出ができたらいいよな」
「そやね!ブルーメの丘に行きたいんよぉ」
「ブルーメの丘・・・って?」

叶いそうにない話で盛り上がった。
何時に出掛けて、どこで食事をして、着いたら何をしようか・・・。

「ずっと先の話やね、ずっと先の・・・」

そう・・・それでも構わない。

遠出すればするほど、人目を気にしなくても済む。
けど、お互い仕事を抱え、平日を長時間共に過ごすのは難しい。

「まずは軽く、お茶からやね」

彼女の提案が実現されることはなかった。
僕達は、喫茶店にさえ、入ることができなかった。

月日は流れ、僕はひとりで喫茶店いる。

ふたりには遠かった喫茶店・・・いつか、一緒に。

(No.89完)

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[No.89-1]遠い喫茶店

No.89-1

ある日、不思議な夢を見た。

・・・目の前に一軒の喫茶店がある。
大勢の客が、出入りしている。
でも、その喫茶店に、僕は入ることができない。
それは、遠い所にあったからだ。
遠すぎて、遠すぎて結局僕は辿り着けなかった。
月日は流れた。
僕は、喫茶店に入ることができるようになった。
「楽しそうじゃないですね?」
他の客から、そう言われた・・・

No891_3

ここで、目が覚めた。

普段なら、目覚めた瞬間に忘れてしまうことが多い。
それなのに、この夢だけは今でも鮮明に覚えている。
(目の前に喫茶店がある・・・なのに、遠い・・・?)
夢なんて筋書きどころか、理不尽が当たり前だ。
なのに真相を知りたい・・・そんな心境に駆られた。

その真相は、以外に早く解決することになった。
(予知夢だったのかな?)
今、思えば、そうとも言える。
自分が現実に経験することによって・・・。

(No.89-2へ続く)

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[No.88-2]虹のマーチ

No.88-2

「虹?・・・それにしては無色透明ね」

「どうぞ、召し上がってみて下さい」
どうやら、見た目じゃなくて味に秘密があるらしい。
一口飲んでみた。

舌のあちこちを、それが刺激する。
それぞれの場所で、様々な味を感じる。

「わぁ・・・!」

弾けるような感覚に思わず、声が漏れてしまった。
それに、喉を通過する時に、それがまたひとつになる。
虹のマーチ・・・ネーミングの妙を感じる。

(でも・・・)

「どうして、これが私のイメージなんですか?」
「グラスを揺らしてみてください」
言われるままにグラスを揺らしてみる。

「あっ!何層にも分かれている・・・」

一見、透明に見える層が、何層も重ねられている。
ひとつ、ふたつ・・・むっつ・・・ななつ・・・。

「動きださないと見えないもの・・・」
カウンターの向こうで、静かに語りかけてくる。
「それを応援してくれるのが、虹のマーチなのね?」

そう・・・私は恋をしている。

(No.88完)

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[No.88-1]虹のマーチ

No.88-1

「私に似合うカクテルある?」

ほろ酔い気分に任せた軽いジョークのつもりだった。

カウンターで交わされる女性客とバーテンダーの会話。
ドラマで見たことがあるその光景。
ちょっと憧れもあった。

「えぇ、ご用意できますよ」

その言葉にひとつの迷いも感じられない。

(でも・・・大丈夫なのかな?)

ここに来てから、一言もしゃべっていない。
私に関する情報は、見た目と雰囲気だけだ。
何を根拠にするんだろうか?

「心配ですか?」

逆に向こうから声を掛けられてしまった。
「そんなつもりじゃ・・・」
「いいんですよ」
やさしい表情のまま、作り始め、ほどなく完成した。

「どうぞ・・・」
差し出されたカクテルは、透明に近い。
カクテルが持つ色鮮やかなイメージと、かなりのギャップがある。

「このカクテルの名前は?」
まずは、これから聞くべきだろう。

「“虹のマーチ”でございます」

(No.88-2へ続く)

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[No.87-2]最後のページ

No.87-2

「読み終わったら、また持ってくるからね」

彼女の声が弾んでいるのが分かる。
あれ以来、僕は小説が好きになった。

「それが好きになった理由?」

結衣がサラリと聞いてくる。
昔々の彼女との話だ・・・隠す必要はない。

「そう、彼女の影響だよ」
「・・・なんかあるでしょ?」

嘘じゃない。
彼女から本を借りて読んでいるうちに好きになった。
ただ・・・。

「なんとなく・・・想像つくわよ」

数日後に、結衣から一冊の本を手渡された。
「多分、こういうことでしょ」
僕は急いで、最後のページをめくった。

結衣の感想がビッシリ書かれている。
「感想の感想を求めてたんでしょ、彼女は?」

彼女の感想が面白かった。
だから・・・本編を熱心に読むようになった。

(No.87完)

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[No.87-1]最後のページ

No.87-1

ことの始まりは単純だ。
単純すぎると、逆にその説明に困ることさえある。

学生の頃、よく読んでいた小説があった。
小説が好きだったわけじゃない。
その作家が好きだったわけでもない。

「これ、読んでみて!」

当時、付き合っていた彼女から、一冊の本を手渡された。
僕でさえ知っている有名な作家だ。

「・・・小説は、あまり好き・・・」
「じゃ、感想よろしくぅ!」
「おい、おい・・・」

反論を許さない勢いで、言葉をさえぎられた。
それに、足早に去っても行った。

小説は好きじゃない。
それは薄々気付いていたはずだ。
その作家の話が出ても会話が弾まなかった。
弾ませようともしなかったし・・・。

大袈裟だけど、少し途方に暮れた気分だ。

手にした本がやけに重く感じる。

(No.87-2へ続く)

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[No.86-2]始まりはただの人

No.86-2

私は決して、恋多き女じゃない。
だから、そう思える人に出逢えていないのかもしれない。

「まぁ、そのうち、巡り合うんじゃない?」

友人にしては、のん気と言うか、余裕と言うか・・・。
(それよりも・・・)
今、付き合っている人は・・・違うらしい。

「ドラマのようには、行かないよ」
友人に、軽く反論した。

ドラマでは、出逢うまでの過程も見せる。
その演出があってこそ、運命と言う言葉が引き立つ。
現実の世界では、そこまで分からない。

「けど、何か引っ掛かるんだよね」

気になっていることを口にした。
超自然的な力・・・どうしても、そうとは思えない。

「本当はね、巡り合わせなんて、どうでもいいのよ」
さっきの発言を覆すような友人の発言だ。

「どう言うこと?」

「運命の人に巡り合うんじゃない・・・
 本気で好きになったら、運命の人に変わるのよ」

運命の人、運命の出逢い・・・。
最初は、ただの人、ただの出逢いから始まる。

(No.86完)

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[No.86-1]始まりはただの人

No.86-1

ぼんやりと、文字を打ち込む・・・う・ん・め・い・・・。

『超自然的な力に支配され、人の上に訪れる巡り合せ』

辞書ほどではないけど、意味は分かっていたつもりだ。
それでも、あえて調べてみようと思った。
案外、重々しい。

運命の出逢い・・・。

決して聞き慣れない言葉じゃない。
むしろ、頻繁に使われている気がする。
重々しいのは、どんより曇ったイメージではない。
どこか神秘的で、厳格なイメージだ。
だから、日常的に使われることに少し、違和感を覚える。

(それでも何か違う・・・)

「考えごと?」
「あ、うん・・・ねぇ、運命の出逢いって、信じる?」
「いきなり、深い所へ落とすわね」
友人が言うのも無理はない。
女同士なら、朝まで論議が白熱するテーマだ。

「まぁ、そうね・・・信じなくもないけど・・・。
今、付き合っている人が、そうかと言われると・・・ね」

友人の正直な気持ちだ

仮に、そのまま結婚したとしても、そうだとも限らない。

運命の人・・・どの段階でそう思うのだろう。

(No.86-2へ続く)

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[No.85-2]聞き間違い

No.85-2

確かに何度聴いても“美人”と聞こえる。

ただ、歌詞を見れば、それはすぐに解決した。

「美人の件だけど・・・」
香苗(かなえ)に歌詞を伝えた。
「えーっ!恥ずかしいっ!」
顔が真っ赤になっている。
「聞き間違いは、良くあることだよ」
(一応、フォローしておこう)

香苗じゃなくても、聞き間違いは本当に良くある。
特に歌詞なんて、結構早口だったり、歌い方によっても変わる。

「こんな聞き間違い、あの時以来ね」

香苗が気になるセリフを口にした。
「あの時?」
反射的に聞き返した。

「ねぇ、覚えてる?付き合ったきっかけ」

「香苗が僕のこと好きって・・・」
「バカね・・・」
香苗がクスクス笑いながら、事情を話してくれた。

「えーっ!恥ずかしいっ!」
多分、僕の顔は真っ赤だろう。

聞き間違い・・・時には良いかも知れない。

(No.85完)

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[No.85-1]聞き間違い

No.85-1

『今日も 美人 余裕なんかない
明日も 美人 繰り返される・・・』

「それ・・・誰の歌?」

香苗(かなえ)が誰かの歌を口ずさんでいる。
初めて聞く歌だ。

「慎吾、知らないの?最近流行って・・・」

香苗が言うには、最近人気が出てきたロックバンドらしい。
でも、自分の趣味じゃないこともあり、全く知らない。

「それにしても、おかしな歌詞だな」
「そう?」
「今日も美人、明日も美人って・・・どうよ?」

歌詞の繋がりが不自然だ。

「それが、いいんじゃない!」

前後の繋がりよりも、一言の重み・・・。
脈略がない方が、メッセージ性が高いのかもしれない。

「美人は美人なりに、苦労してるってことかな」
自分なりに答えを出してみる。
やっぱり、あえて歌にすべきこととは思えない。
それとも、自分の感性が鈍いのだろうか・・・。

「今度、全部聴いてみるよ」

全体を知れば、考え方も変わるかもしれない。

(No.85-2へ続く)

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[No.84-2]シグナルの向こうへ

No.84-2

事故の後、病院まで送ってくれたらしい。
どうやらそれから、恋が始まったようだ。
有り得ない展開じゃない。

「応援はするけど・・・」
「・・・するけど、なに?」
友人が言葉を返す。

「ナイチンゲール症候群ってこと、ないのかな・・・ってね」
「・・・分かってる」
「そっか・・・上手く行くといいね」
「ありがとう。青だから、進むわ・・・私」

恋愛の信号が青に変わった・・・と言いたいのだろう。
それに、きっかけは信号機が作ったとも言える。

「そうね、注意して渡るのよ」

友人と同じように信号機に掛けて、エールを送った。

「うん!意識するよ。だってよく考えたら・・・」
「・・・よく考えたら?」
「青は進めじゃないもの」

(あっ!・・・そうだった)

「進んでも良い・・・そうよね?」

友人がウンウンと、うなずいた。

(No.84完)

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[No.84-1]シグナルの向こうへ

No.84-1

「痛々しいわね・・・」

友人が腕に包帯を巻いている。
「自転車と接触しちゃった」と、軽いノリで連絡があった。
だから、そんな程度だと・・・。

「信号が青になったので渡ろうとしたらね・・・」
「自転車と“ドーン”ってこと?」

友人がウンウンと、うなずく。

「これからは、もっと注意するから」
「そうね。青だからって、油断は禁物よ」
自分自身にも言い聞かせる。

「ところで・・・なに?用事って」
元はと言えば、友人からランチに誘われた。
そんな時は、もれなく相談事が付いてくる。
それが包帯を見てから、少し話がそれてしまった。

「好きな人ができたんだ」
「へぇー、良かったじゃ・・・な・・・い・・・、ん?」

急に、あることが頭の中を駆け巡る。

(えっ!まさかと思うけど・・・)

「そう・・・その、まさかなんだ」
友人が私の表情を読み取って、先に喋った。

(No.84-2へ続く)

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[No.83-2]さがしもの

No.83-2

『特徴、そのサン!
 意外な所で、それが手に入(はい)ることが多い』

 
(意外な所で・・・か・・・)

素直に場所のことだろうか?
それとも、相手の意外な所ってことかもしれない。
意外な一面を目にし、好きになってしまう。
それで、恋愛が手に入る・・・とか。
なかなか考えさせられる。

『特徴、そのヨン!
 すぐ近くにあるのに、手に入(い)れようとしない』

いつもの通り、やっぱり答えを導けなかった。

「わぁ!こんな所にあったの?」

失くしたピアスの片方が意外な所で見つかった。
(散々、探しても見つからなかったのに・・・)
探し物なんて、そんなものかもしれない。
目と鼻の先に落ちていたりする。

(散々・・・意外な所・・・目と鼻の先・・・!!)

「探し物のことだったんだ!」

でも、それが本当の答えではない。
仲直りしよう・・・麻衣からのメッセージだったんだ。

友情と言う探し物を見つけた。

(No.83完)

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[No.83-1]さがしもの

No.83-1

『じゃ、その特徴について書くね』

高校を卒業する前に、卒業文集のようなものを作った。
それぞれ、自分の想いや夢を語った。
時々、読み返して、懐かしむ。
その度に、ある所でページをめくる手が止まる。
親友だった麻衣の記事だ。

『特徴、そのイチ!
 その気がある時には、手に入(はい)らない。
 特徴、そのニィ!
 その気がない時に、手に入(はい)ることがある』

謎掛けのようなことが、淡々と書かれている。

自称“恋多き乙女”の麻衣のことだ。
内容からすると、恋愛関係のような気がする。

(片思いのことかな?)

告白しても、付き合えるとは言えない。
けど、好きでもない人に告白され、付き合うこともある。
いずれにせよ、“その気”とは恋愛感情のことだろう。

(麻衣、どうしてるかな・・・)

麻衣と卒業前に大ゲンカした。
そのせいで、気まずいまま卒業し、連絡が途絶えたままだ。

答えが分からないまま、5年が経過した。

(No.83-2へ続く)

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[No.82-2]あの日のメダル

No.82-2

その子は、周りを気にしながら、ある物を受け取った。
遠くからでも、それが優勝メダルだと分かる。

気付けば、試合に出なかった子がみんな集まっていた。
その子らも、次々にメダルを受け取っていた。

(な、なんで・・・なんでよ!)

子供なりに、激しい怒りが込み上げたことを覚えている。
でも、それはすぐに落胆に変わった。
(どうして・・・どうして、わたしだけ・・・・ないの?)

逃げるようにその場を去った。
本当は、逃げる必要なんかないのに。

(何だろう・・・すごく恥ずかしい)

その場から消えてしまいたい・・・ただその一心だった。
何かの理由で、私が外された。
その理由は・・・?ずっと考えていた。

「大人になったら、そんなことばかりだしね」

昔話に耳を傾けてくれた友人が、笑いながら言った。

社会に出ると、そんなことは日常だった。
何かの理由で選んだり、選ばれなかったり・・・。
それに・・・自分だって同じことをしてる。
選ぶのに、理由なんてない時だってある。

あの日、貰えなかったメダル・・・。

そうじゃない・・・生きる力を貰ったんだ。

(No.82完)

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[No.82-1]あの日のメダル

No.82-1

友人に、子供なりに傷付いた話をした。

小学6年生の時、地域の子供会で球技大会があった。
私はバレーボールに参加した。
そんなに球技は得意じゃない。
だから、補欠でも構わなかったし、むしろ気が楽だった。

結果、私の地区が優勝した。

私は結局、一度も試合に出ることはなかった。
出る気もなかったから、別に気にもしていない。
それに他にも数人、私と同じ女子がいた。

(終った、終った!)

「ねぇ、いっしょにかえろおよー」

友人ではないけど、試合に出なかった子を誘った。

「ご、ごめん・・・ようじがあって・・・」
その子は、足早に去っていった。

何となく、気になり彼女を目で追う。
その子は、校舎の隅の方にいる大人と何か話し始めた。

「あれ?あのひと・・・」

その人は、バレーボールの監督だった。
(なにしてるのかなぁ?・・・)
そう思いながらも帰ろうとした時、状況が一変した。

あの光景を目にしたからだ。

(No.82-2へ続く)

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[No.81-2]風を感じて

No.81-2

「物理や科学はさておき・・・」

彼が前置きをしてから切り出した。

「始まりは、自分の中にあるのかもしれないな」

風がなくても、走れば風を感じる。
自分が行動を起こすことで風を生む。
それが全力であるほど、強くなる。

「へぇー、なかなか考えたじゃん」

洒落た答えかもしれない。
走ることを“生き方”の例えにしている。
全力を出す・・・それも、風を生むひとつのエッセンスなんだ。

けど、何か足りない気がする。
(何だろう・・・)
すっきりしないまま、美術館を後にした。
夏の風が心地よい。

「・・・そっか!」

疑問への答えは、風が教えてくれた。
今、私に吹く風は、誰かが起こしてくれた風なんだ。

「ねぇ・・・走るよ!」

ふたりで全力で走った。

今も誰かに風が吹いている。

(No.81完)

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[No.81-1]風を感じて

No.81-1

「風って、何処から来るのかな?」

「そうだなぁ・・・ほら、そこに吹き出し口があるよ」
「バカ!」

(まぁ、無理もないか)

何の脈略もなく、しかも室内なら誰だってそう答える。
私としては、自然の風について聞いたつもりだった。

今、私は彼と美術館に居る。

目の前に、髪が乱れた女性が描かれた絵がある。
色調は明るく、表情は楽しげだ。
強い風に髪が乱れながらも、はしゃいでるように見える。
それとも、髪の乱れで何かを表現しているのか・・・。

「さっきはゴメン」
とにかく私の方が悪い・・・素直に謝った。
「いいよ。この絵を見てそう思ったんだろ?」
彼には分かっていたようだ。

大河の源流を探す・・・そんなテレビ番組を見た記憶がある。
極端に言えば、大河は一滴の雪解け水から始まる。

「風も同じなのかな?」

私の問いに、意外に彼の表情は真剣だ。
けど、風の始まりなんて、見たことも聞いたこともない。

「永遠の課題にしよっか?」
「いや・・・そうでもないぞ」

彼に、何やら考えがあるみたいだ。

(No.81-2へ続く)

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[No.080-2]暗闇からの目覚め

No.080-2

『そうかな?』

これを“変”と感じてないらしい。
感性の違いか・・・。
菜緒にとっては、ベストショットなのかもしれない。

「・・・そう見えなくもないか・・・?」

その気で見れば、芸術作品にも見える。
タイトル“暗闇からの目覚め”と言ったところだろうか。

暗闇に生まれた、わずかな光。

場所が場所だけに、少し考えさせられる。
それを表現しようとして、シャッターを切ったのかもしれない。

『ごめん・・・素敵な写真だよ』
『そやろ!直接写メしてるから中身は見てへんけど』
メール作成から直接撮影し、添付しているらしい。
「アバウトというか・・・らしいな」

『ちょっと写メ見てみたら』
返事を送った。
『わぁ、めっちゃへんやん!』
(え!やっぱり・・・だから言ったのに・・・)
『指でレンズを塞いだ・・・とか?』
『ちゃうねん・・・ストラップやわ』
(ストラップ・・・まさか・・・)
『これだよ、せいじゅうろうやねん』

No802_2

なるほど・・・こいつの背中だったんだ。

(No.080完)
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[No.080-1]暗闇からの目覚め

No.080-1 [No.007-1]せいじゅうろう

『いま、長崎におるねん』

今度はしっかり写真が添付されている。
“写メ”のはずが“メ”になっていることが、よくあったからだ。
(成長したな、菜緒)
写真が数枚、添付されているようだ。
「どれどれ」
早速開いて見る。

「えーっと・・・どこだ、ここ?」
と、その前に言うべきことがある。
「なんだ、これ?」

No801

メールの内容からすると、観光地としても有名な建物だ。
テレビや雑誌で何度か見たことがある。
でも、それらしい建物は何も写っていない。
わずかな青空と何やらピンボケのもの・・・。
暗くてその正体は不明だ。
(まてよ・・・もしかして)
写真の雰囲気では、レンズに指が写りこんだようにも見える。

「でもなぁ・・・撮影した時に気付くはずだよな」

『なぁ、写真変じゃない?』

一応、メールで確認した。
菜緒のことだ・・・何かハプニングの予感がする。

(No.080-2へ続く)

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[No.079-2]心のスケッチ

No.079-2

「ねぇ・・・今日、誘った理由は?」

彩香に誘われた時は、理由を聞かなかった。
ただ、今は聞くしかない。

「女同士で来る時は・・・ね」
「・・・泣きたい時よ。まぁ、ナンパされたい時もかな?」

彩香がクスっと笑った。
後半は彩香の照れ隠しだろう。

理由は検討が付く。
いつも、誰かと来てたんだから。

『・・・寂しく感じるよ・・・』

彩香の言葉を思い返す。
(ちょっと、間違っていたのかな・・・私・・・)
海は空じゃなくて、見る人の心を映す鏡だ。
彩香には、キラキラ輝く海は見えてないんだ。

「どうする・・・泣く?それとも、歌う?食べる?」
「全部ぅぅ!」
彩香から元気な声が返ってきた。

「また、来るね!」
彩香が海に向かって叫んだ。

波の音が一瞬だけ、大きくなった気がした。

(No.079完)
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[No.079-1]心のスケッチ

No.079-1

「海って、不思議ね」

彩香が沈黙を破るかのように、ポツリとつぶやいた。
女ふたりで海を見に来た。
女同士に加え“見に来る”自体が負け組だ。

「いつも来るたびに、感じ方が違うんだもん」
(いつも誰と?・・・まぁ、いいか)
「そりゃね、海だって表情を変えるわよ」
これと言った答えがないまま、口にした。

けど、間違ってはいないはずだ。

海は空を映す鏡のような存在だ。
空が泣けば、海は曇る。
空が笑えば、海は光る。
それに、波を使い、私たちにご機嫌を知らせてくれる。

「今日はどんな感じ?」
彩香に問い掛けた。
「なんだろう・・・寂しく感じるよ」
彩香の表情が冴えない。

「良い天気じゃない!海もキラキラ光ってるよ」

確かに、人影はまばらだ。
そう感じなくもない。
でも、昼間だし、静寂に包まれているわけでもない。

(No.079-2へ続く)

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[No.078-2]上を向いて

No.078-2

「ひまわりが凄いね!」

京香の強引さに気を取られ、周りを良く見ていなかった。
確かに、ひまわりが咲き誇っている。

「見て見て!私と同じ背の高さよ!」

京香が一本のひまわりの前で、はしゃぐ。
それは一際、黄色が濃いひまわりだった。

手で触れてみようとした瞬間だった。

急に風がざわめいた。

ひまわりは、僕から目をそらし、そっぽを向いた。
そして、風が止むと、僕と目が合った。

(何だろう?似たようなことが有ったような・・・)

今度は風がそよぐ。

ひまわりが小さく揺れる。
それでも太陽をしっかり見上げている。

「あら?仲がいいのね」

ふたりと一本で、空を見上げた。

(No.078完)
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