[No.070-2]素顔のままで
No.070-2
化粧した知美は別人だ。
ただ、世間で言われる“化ける”とは少し違う。
雰囲気が変わると言った方が良いだろう。
以前、撮影した写真を見せてもらった時は正直驚いた。
これだと、街でバッタリ逢ったとしても、多分気付かない。
「これで、ええかな」
前髪をあげて、おでこを出したまま、聞いてきた。
大き目のヘアピンが印象的だ。
「さっきより、マシになったかな」
「マシって、なんやねん!」
知美がワザとすねた素振りを見せる。
多少の意地悪があってもちゃんと会話は成立する。
お互い手の内を承知しているからだ。
「綺麗に撮ってもらえよ」
「うん、ありがとお」
髪型を整え、出掛ける支度を淡々とこなしている。
ただそれだけなのに、なぜか愛らしく映る。
知美は、心に化粧をしない。
それが僕にとって、本当の素顔なんだ。
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