No.078-1
「ごめん!」
「もー!許してあげないから!」
京香が、そっぽを向いた。
半分本気、半分冗談の態度だ。
「甘いもの、お・・・」
京香と目が合った。
「パフェでしょ、ケーキでしょ、それから、えっーと・・・」
僕が最後までしゃべり終わる前に、伝わっている。
瞳の奥に、甘いものが映っている・・・ように見える。
早く機嫌が直るのも京香らしい。
いつも、この作戦が成功している。
(待てよ・・・)
作戦が成功しているのは、もしかして京香の方?
いつものことだけど、急に疑問に思う。
まぁ、とにかく仲直りできる作戦には間違いない。
「食べ過ぎたよ~」
結局、全ておごらされた。
「ちょっと休憩、休憩っと!」
無理やり公園のベンチに座らされた。
それでも通り過ぎる風が、案外心地よい。
(No.078-2へ続く)
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No.077-2
なんとか仕事のミスをフォローできた。
「友子、ありがとう」
積極的に手助けしてくれた同僚に感謝した。
そう言えば、何度もピンチの時に助けてもらっている。
「友子って、正義のヒーローみたいね」
「どうして?」
「だって、“ここぞ”って時に、助けてくれるから」
「そうかしら?」
性格が男性的な友子らしい。
恩に着せる訳でもなく、淡々としている。
「まぁ・・・そう言われると悪い気はしないけどね」
友子としては珍しい返事だ。
「私も友子を助けられるぐらいにならなくちゃ!」
「あんたに?無理よ、無理!」
友子が笑いながら、私をイジる。
「でもね・・・」
友子が急に神妙な表情に変わる。
「ヒーローってね、守る人がいないと力が出ないのよ」
偉人よりも、心に残る友子流の格言だった。
(No.077完)
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No.077-1
愛用するシステム手帳に、格言が書いてある。
1日分のページに1つ、隅に小さく目立たぬように。
「へぇ・・・いい言葉じゃない」
ちょっとした感動した。
でも、他人が聞けば、
「だから格言なの!」と、間違いなく突っ込まれる。
迷った時、落ち込んだ時、言葉が道を示してくれることもある。
明日はどんな言葉が私を待っているのか・・・。
はやる気持をおさえてページをめくる。
ある日、仕事で大きなミスをした。
「気にしない、気にしない」
同僚が声を掛けてくれた。
とは言え、ヘコみ度はかなりのものだ。
今日の格言は奇しくも“失敗から学べ”的な内容だった。
失敗は確かに教訓になる。
けど、避けて通れるもなら、そうしたい。
(気持を切り替えよう・・・)
特に数日間は慎重に仕事を進めた。
悪いことは続くこともある。
ページをめくる手に、意味の無い緊張感が走る。
(No.077-2へ続く)
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No.076-2
解決方法は多分、簡単だ。
学習した内容をリセットすれば済む。
ただ、あえてそうしない。
ケータイは少し事情が違う。
“な”と入力するだけで、予測変換の候補にあがる。
それは間違いない。
でも、候補にあがる名前は、ひとつだけだ。
それは、日を追うごとに優先順位が下がって行った。
それでも、ブログ小説の中で、“なお”は生きている。
話の牽引役として、何度となく登場した。
そして、これからもそうだろう。
(なお・・・)
口には出さずに、画面に語りかけた。
『菜緒、この件に関しては・・・』
画面上には、入力を待つカーソルが点滅している。
文章を書く度に、“なお”に出逢う。
そして、打つ手が止まり、想い出す。
(No.076完)
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No.076-1
報告書に追われる。
けど、やらないといけない仕事も山積みだ。
報告書は大事だけど、時と場合による。
『・・・が確実です。奈央、この件は・・・』
「あ、間違えた」
『尚、この件は後日・・・』
慌てて修正する。
いつからだろうか。
(・・・とか言いながら、検討は付いている)
“尚”の変換が少し面倒になった。
奈緒、菜緒、奈央・・・尚・・・。
“なお”と読める文字が複数、候補にあがる。
“木を隠すなら森に隠せ”
この意味と同じだ。
“なお”を隠すなら“なお”に隠せ・・・。
昼休みに、せっせとブログの下書きをしていた。
それが結果的に学習されていった。
別に報告書だけでに限ったことではない。
何か文章を書けば、同じように“なお”に出逢う。
(No.076-2へ続く)
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No.075-2
遠ざかる山下君の背中を見つめる。
(見つめる・・・見つめる?)
ハッと我に返る。
「ちょっと、なにするのよ!」
声はもう届かない。
(まったく、もう!)
“憎めない奴”友達には、こんな言い回しをする。
そう、遠回しに・・・。
「気を取り直そっと」
大きく深呼吸してから、もう一度ペダルに力を込める。
(さぁ、追いつくわよ!)
随分と離れてしまった彼を追いかける。
(見えた!)
彼の背中が近づく。
けど、追いつけそうで追いつけない。
そして、背中を見つめながら、分かり始めてきた。
あの感覚・・・。
「わたし、山田君が好きなんだ」
絶対、追い越して見せる。
(No.075完)
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No.075-1
こんな経験はないだろうか?
自分の前を走る自転車とスピードがほぼ同じだ。
正確に言えば、自分の方が少し速い。
併走しようとしても、少しずつ距離が縮んでしまう。
(面倒だなぁ・・・追い抜こう)
ペダルに、今よりも力を入れた。
更に距離が縮んで行く・・・けど・・・。
(アレ?・・・おかしいな)
追いつきそうで、意外に追いつけない。
意識しなければ、距離は自然と近づいて行くのに。
何だろう・・・。
これって、何かの感覚に似ている。
自転車をゆっくり漕ぎながら、考えを巡らせる。
「遅れるぞ」
「わぁぁ・・・!」
突然、背中を叩かれた。
「お・さ・き・にぃ~」
クラスメートの山下君が勢いよく、通り過ぎた。
(No.075-2へ続く)
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No.074-2
「わぁ!ほら見て!」
シャボン玉でこんなに、はしゃげるなんて思わなかった。
高校生にもなって、ちょっと恥ずかしい気もする。
不規則に色が付いたガラス玉のようだ。
表情を様々に変えながら宙を舞う。
けれど、それはすぐに消えてしまい、静寂が戻る。
「ねぇ、卒業したらどうする?」
今まで聞けなかったこと・・・今なら聞ける気がした。
「考えてないなぁ・・・」
彼を責める気はない、お互い高校生だから・・・。
「ごめん、変なこと聞いて。よし!大きいの作るよ」
その言葉通り、大きなシャボン玉が生まれた。
二人の驚く顔を映しながら、それは夜空を駆け上がった。
「が・ん・ば・れ!」
二人の声が重なった。
「どうした?」
「ほら、シャボン玉・・・」
青空に浮かぶシャボン玉を指さす。
あの日、夜空を駆け上がったシャボン玉は、いつまでも消えなかった。
(No.074完)
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No.074-1
頬に何か触れた。
(ん、あれ・・・?)
少し頬が濡れている。
一応、空を見上げて見る。
そこには雲ひとつない青空が広がっていた。
すぐにその疑問は解けた。
目の前をフワフワとシャボン玉が踊る。
それに、子供のはしゃぐ声が近い。
その声を目で追う。
「わぁ・・・!」
ひときわ大きいシャボン玉が横切る。
夏の日差しを受け、みずみずしく七色に輝く。
それが風に乗り、青い空を楽しそうに泳いでいる。
あの日と似た光景だった。
「やだぁ・・・何これ?」
狙いは、流行りのキャラクターグッズだった。
それが小さなピンク色の容器に変わった。
「それシャボン玉だよ」
「・・・ほんとだ」
彼と行った夏祭りのワンシーンだった。
(No.074-2へ続く)
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No.073-2
無関心で居られるなら、どんなに楽だろう。
(同情心を恋愛と勘違いしている?)
恋愛なんてそんなものかもしれない。
何かの勘違いから全てが始まる。
もし、それが勘違いでも、もう戻れない。
そんな自分を意外なほど冷静に見ている。
「恵梨って損な性格よね」
(そうでもないよ)
そう軽く反論したくなる。
けど、その気持ちをおさえた。
「辛い想いが損ってこと?」
そんなの一般論過ぎる。
それが別の力に変わることだってある。
いつか、そうなることを信じている。
他人に理解されないことが、全て誤りじゃない。
(そうだ!この気持ちを形にしよう)
以前から、ブログで小説を書こうと考えていた。
それを今、実現しよう。
「へぇー、で・・・その小説の特徴は?」
「悲しい結末がないところだよ」
(No.073完)
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No.073-1
他人を感じる、自分よりも・・・。
感受性が敏感であることは、むしろ苦しさを生む。
他人の過去を、まるで自分の過去のように感じてしまう。
「恵梨のは、愛じゃなくて同情だよ」
言われなくても、自分自身が一番良く分かっている。
(何とかしてあげたい・・・)
知らぬ間に同情心は恋心に変わる。
相手を知れば知るほど好きになる。
過去が重ければ重いほど、もっと好きになる。
(話して欲しいの?)
(もう、話さないで欲しいの?)
いつも同じ葛藤が繰り返されてきた。
『そんなの、やさしさじゃないよ』
友人の言葉が突き刺さる。
(分かっている・・・分かっている!)
いつしか彼の過去は自分の過去になっていた。
(No.073-2へ続く)
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No.072-2
季節の便りに返事を書く。
『頑張り過ぎるなよ・・・』
在り来たりだけど、健康が第一だ。
今まで通り、体も心も元気な便りが一番いい。
『でも・・・頑張れよ』
忙しい日々を送る彼女にエールを送る。
(頑張り過ぎず、頑張れよ・・・か・・・)
相反する言葉をつなげる。
今まで通り・・・そして、今までとは違う日々・・・。
伝えたい適当な言葉がみつからない。
すぐに彼女から返事が届いた。
私のメールを反復するような内容だった。
ひとつひとつ何かを確認するかのように続いていた。
そして、最後にこう締めくくられていた。
『変わりない日々と変わりある日々を』
変わらないでいて欲しいこと。
変わらなきゃいけないこと・・・。
それはお互いに向けられたセリフだった。
(No.072完)
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No.072-1
季節の便りが届いた。
自分もそうだけど、最近はメールでの便りに変わった。
メールだから季節感が無いとか思わない。
それを送り主が感じさせてくれることもある。
夕子はかつての部下だった。
今でも節目には、こうやって便りをくれる。
あえて社内メールを使う。
部下と上司、良い意味で距離間が保てる。
『夏祭り・・・』
その先を読まずとも、楽しさを予感させる書き出しだ。
「そういえば、そろそろか・・・」
祭りは祭りでも、公共の祭りではない。
会社の敷地内でちょっとしたビアガーデンを開く。
これをみんなが夏祭りと呼んでいる。
『もうすぐ資格の取得が出来そうです』
彼女は頑張り屋だ。
キャリアアップのために公私共々、忙しい日々を送る。
メールでも十分にそれが伝わってくる。
知りたい、教えたい・・・二人の想いが交差する。
(No.072-2へ続く)
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No.071-2
お土産をあげる対象が恋人とかなら話が違う。
それを何にするか、悩むのは義理以上かもしれない。
ただ、この場合、うれしい悲鳴にも似た感覚だ。
その人を想い、あれこれシミュレーションする。
「その想う時間も、お土産のひとつよね」
美穂が洒落たことを言った。
「そうね、お菓子なら気持ちがサンドされてるわ」
「まぁ、甘すぎないようにね」
「あはは・・・そうするよ」
美穂の一言に思わず、笑ってしまった。
気持ち次第で変わるもの・・・。
他にもいくらだってある。
だけど、そう簡単にいかないのも現実だ。
みんなそれで悩んでいる。
「なんか、どうでもよくなってきた」
(お土産で悩むなんて小さいね、わたし・・・)
「二人で食べない?」
昨日買ってきたお土産を広げた。
買わない選択肢も、あげない選択肢もある。
(No.071完)
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No.071-1
同じ行為なのに、気持ち次第で感じ方が変わる。
最近、出張が増え、余計にそれを感じるようになった。
「それって、仕事の話?」
ちょっとした私のグチを、同僚は見逃さない。
「仕事と言えば仕事だけど・・・」
「相変わらず、はっきりしないわね!」
気の強い美穂の前では、誰もが“優柔不断”に見える。
相談したつもりが、気付けば責められている。
そんなことが少なくない。
「それで、その行為って何よ?」
「お土産選びよ・・・」
「お・ど・さ・ん?なんでまた?」
ふざけた中でも、突き放してはいない。。
お土産選びは、義理や面倒と言うよりも苦痛に近い。
まずは人数からターゲットが決まる。
定番商品はハズレはないが、喜ばれ方も薄い。
「確かにそれは言えてるね」
珍しく美穂が同意した。
「じゃ、“気持ち次第”って意味は?」
美穂が核心に迫ろうとしている。
(No.071-2へ続く)
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No.070-2
化粧した知美は別人だ。
ただ、世間で言われる“化ける”とは少し違う。
雰囲気が変わると言った方が良いだろう。
以前、撮影した写真を見せてもらった時は正直驚いた。
これだと、街でバッタリ逢ったとしても、多分気付かない。
「これで、ええかな」
前髪をあげて、おでこを出したまま、聞いてきた。
大き目のヘアピンが印象的だ。
「さっきより、マシになったかな」
「マシって、なんやねん!」
知美がワザとすねた素振りを見せる。
多少の意地悪があってもちゃんと会話は成立する。
お互い手の内を承知しているからだ。
「綺麗に撮ってもらえよ」
「うん、ありがとお」
髪型を整え、出掛ける支度を淡々とこなしている。
ただそれだけなのに、なぜか愛らしく映る。
知美は、心に化粧をしない。
それが僕にとって、本当の素顔なんだ。
(No.070完)
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No.070-1
「うわぁ!何だよそれ」
おそらく・・・化粧の途中と思う知美が視野に飛び込んできた。
「そんなに、おどろかへんでええやん」
「ごめん、びっくりしたから」
知美は普段、化粧はしていない。
本人は特に意識していないようだけど、素顔で十分イケている。
と言うより、素顔の方がいい。
これを口に出して、意識させるのも悪い。
同性から羨ましがられるだけで済まないこともある。
「化粧なんて珍しいな」
「これから仕事で人と逢うねん」
「それにしても、顔・・・真っ白だね」
(下地なのかな?)
「友達が、これがええねんってゆうから」
「せやけど、うち、化粧品に興味あらへんし」
それにしても、笑える。
真っ白な顔よりも、その顔のままウロウロしていることに・・・だ。
鏡を何度も覗き込んだり、何とも落ち着かない。
「あかん、全然似合わへん!」
「無理しなくてもいいんじゃない?」
「せやかて、撮影の時は化粧させられるんやもん」
(考えてみれば確かにそうだよなぁ・・・)
素顔は僕と逢う時だけのようだ。
(No.070-2へ続く)
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No.069-2
第1ラウンドは分かりやすい。
公認のカップルか、みんなが知っている片思いの話だ。
「みんなダメになったよね?」
千恵の顔は、少しも残念そうに見えない。
新入社員と言う立場や環境が、何か勘違いを誘う。
スキー場などで、やたら異性が格好良く見えてしまうのと似ている。
環境が変われば、心も変わる。
「そう言えば知ってた?」
第2ラウンドの鐘がなった。
だいたい次は、うわさ話や、“知る人ぞ知る”話の展開だ。
「それで何を?」
千恵の反応を伺う。
「康子ね・・・実は・・・」
千恵の話が延々と続いた。
熱弁には悪いけど、はっきり言って興味はない。
それを察知したのか、千恵が鋭い視線を送ってきた。
最終ラウンドの始まりだ。
「じゃ、そろそろカミングアウトしてもらおうかな!」
「私、伊藤君と付き合ってたよ」
「え!マジ!」
開始早々、見事なカウンターパンチが決まった。
(No.069完)
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No.069-1
「そうそう!」
「あった、あった!」
さっきから何度となく、この言葉を口にし、聞こえてもくる。
年代を問わず、昔話には花が咲く。
「あれから、10年たったんだ・・・」
冴子の言葉に、急に会話が止まった。
「あれれ・・・テンション下げちゃった?」
冴子が焦っている。
「違うよ。みんなもそう思っただけだよ」
千恵の言葉に、みんながうなづく。
入社当時のメンバーが研修のために集まった。
こんな機会は滅多にないし、最初で最後になるかもしれない。
その想いと時の流れが何とも感慨深い。
「でも、ちょっと残念よね・・・」
千恵のトーンが下がる。
理由は見当が付く。
今回の研修は、同期の女性社員のみの研修だ。
従って、男性の姿はない。
「伊藤君に逢いたかった?」
「ちょ、ちょっと!」
私の言葉に千恵が過敏に反応する。
同期は性別問わず、仲良くなることが多い。
ただ、千恵の場合、彼を見つめる目が完全に“乙女”だった。
昔話に花が咲くと、その内、恋バナに発展する。
そして“誰と誰が”の話題から、第1ラウンドが始まる。
(No.069-2へ続く)
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No.068-2
(どうしちゃったんだろう・・・)
あの人を見かけなくなってから、1ヶ月が過ぎた。
あれこれ・・・色んなことを考えてしまう。
いつもの時間、いつもの場所には、別の人が立っている。
(そこは、あの人の場所なんだから!)
完全に、八つ当たりしている。
あの人は、結局今でも“あの人”のままだ。
何も進展しなかった。
それどころか、今は唯一のチャンスさえ失っている。
引越しでもしていたら、もう二度と逢えない。
悲しくも、それは現実となった。
卒業を機に、その電車に乗る必要がなくなった。
就職のために、他県へ引っ越すからだ。
(奇跡でも無い限り、もう逢えないね)
待ち続けた三年間・・・。
一方的な片思い・・・。
名前さえ知らない、あの人・・・。
『もしもし・・・今、駅に着いたよ』
友人に帰省を告げた。
想い出す度に、今でも胸がドキドキする。
駅のホームには、そんな人で溢れている。
(No.068完)
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No.068-1
電車が揺れる度に、あの人の背中に触れる。
(大丈夫よね・・・)
車内は多少、混んでいる。
それでも、不自然にならないように、うまく演じてみせた。
微妙な距離は、心のドキドキ感と反比例する。
二人の距離が減って行けば、ドキドキ感は増して行く。
きっかけは、単純だった。
「あ!ご、ごめんなさい」
電車が大きく揺れ、あの人の背中にぶつかった。
「大丈夫か?」
第一印象はちょっと、ぶっきらぼうな感じだった。
同じ時間、同じ車両・・・。
通勤や通学は、だいたいそうなると聞いたことがある。
だから、毎朝、こうやっていられるのかもしれない。
けど、間もなくそれも終わる。
ホームの階段を駆け上る、あの人の姿を見送る。
あの人は共学に通い、私は女子高へ通う。
「早く明日になればいいな」
「ん・・・?何よ急に・・・」
(いけない!つい口に)
駅で待ち合わせていた友人に、変な目で見られた。
「何・・・あの人?」
友人には、以前から話している。
「そろそろ、名前ぐらい聞いたら?」
確かに、いまでも“あの人”と呼んでいる。
(No.068-2へ続く)
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No.067-2
三年前に、住み慣れたこの街を離れた。
そして、皮肉にも帰省中のこの街で流星群を知った。
世間の恒例行事は、必ずしも自分にとっての恒例ではない。
(無関心って・・・案外怖いことかもね)
『見て!見て!』
『すごい数の流れ星ね』
街を行き交う人の動きが止まり、誘われるのように、空を見上げている。
その行動の意味は分かっている。
けれど、私も空を見上げた。
星の雨に傘は要らない。
そんなロマンティックなセリフが似合う。
流星群が訪れる時、私はここにいる。
そして、こうやって夜空を見上げている。
何だかよく分からないけど、流星群は私に何かを教えてくれた。
『今日は星の雨に濡れて行こうかな』
誰かの洒落たセリフが聞こえてきた。
ペルセウス座流星群の下では、誰もが何かに気付く。
(No.067完)
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