[No.065-1]夜景
No.065-1
歓喜の声が溢れている。
多分、ここに来れば誰もがそうなると思う。
ただ、少し条件が必要だ。
カップル・・・そして、夜・・・。
夜景を一望できるこの場所は、観光名所として有名だ。
街の灯りだけでなく、海には漁火が点々としている。
そのバランスが絶妙だ。
雑踏は全く聞こえない。
その静かさは、宇宙と一体化したような感覚だ。
私は、素直じゃない。
街を黒く塗りつぶして、偽りの輝きを見せる。
夜景なんてそんなものだ。
うそを隠して、見るものを騙している。
だから、昼間は、誰もここには来ない。
(本当は知ってるんでしょ?偽りだってこと・・・)
何度となく聞こえる歓喜の声に、問い掛ける。
誰もが役者なんだ。
“素直に喜ぶ”ことが台本に書かれている。
それをただ、演じているだけだ。
「何か、言いたそうな顔ですね?」
男性が声を掛けてきた。
私と同じ・・・ひとりのようだ。
「そうね、当ててみたら?」
苛立つ気持ちを、口にした。
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