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[No.063-1]傘

No.063-1

走り出し先を急ぐ人、立ち止まり雨宿りする人。
気にせず、そのまま歩き続けている人。
突然の雨に、街は様々な表情を見せる。
私はこうやって雨を避け、行き交う人を眺めている。
あの時と同じように・・・。

出逢った瞬間は、見ず知らずの人だった。

「秘書課の人ですよね?」
「えっ、はい」
仕事を終え、会社を後にした直後に雨に降られた。
私は、近くの建物に逃げ込んだ。

「Aプロジェクトチームの永田と言います」

(Aプロにこんな人、居たっけ?)

「誰、この人・・・って顔ですね」
「あっ、すみません」
「冗談ですよ、昨日赴任してきたばかりなんですから」

「でも、どうして私を知っているのですか?」
「社長に着任の挨拶に行った時に、チラッとね」
「そうなんですか」
「でも・・・名前は知らないよ」
「えっ!」
「一度も名前で呼んでないでしょ?」

確かに“秘書課の人”としか言われていない。

「ご、ごめんなさい・・・私、神崎ゆいです」

気が付けば雨の中、ひとつの傘で歩き始めた。

(No.063-2へ続く)

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