[No.054-2]デジャブ
No.054-2
「ここだよな」
由貴に教えられた住所ではこの場所だ。
劇的な変化・・・。
例えば大きなマンションにでも変わっていれば、それはそれで良かった。
忘れることも、あきらめることもできたはずだ。
でも、目の前には、ごく普通の一軒家が建っている。
生活感が溢れている。
言い知れぬ、さみしさを感じる。
「なぁ・・・由貴・・・」
返事はない。
ただ黙って、その家を見つめている。
由貴の手を握った。
ギュと、やさしくて、どこか力強く、握り返してきた。
言葉はなくても、伝わってくる。
「デジャブって知ってる?」
帰りの車中で、由貴が尋ねてきた。
「初めてなのに、既に体験したことがあるとか・・・だろ?」
「これがデジャブならええのに」
忘れたくはない・・・でも、実体験は辛い。
だから、経験したかのような感覚を持っていたい。
由貴は、そう付け加えてくれた。
よほど適当な単語が見つからなかったようだ。
「何か自分の中で変わった?」
由貴が言い出したことを確認してみた。
「ううん、全く・・・」
それでも、少しも残念そうな表情ではない。
「時々、見に行かへん?」
そう言って、今度は彼女から手を握ってきた。
言葉はなくても・・・伝わってくる。
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