[No.054-1]デジャブ
No.054-1
由貴との会話で、よく耳にする場所がある。
「そこって、実家なの?」
「そうやで」
実家の話なんて、珍しくもない。
ただ、リアクションに困る話を、サラッとしてくる。
「家ね、ボロかったんよ」
「いつつぶれても、おかしないねんぐらい傾いててん」
由貴の表情は至って穏やかだ。
悲しむわけでもなく、だからと言って笑い飛ばすこともない。
冷静に振り返っている感じがする。
「あの大震災は大丈夫だった?」
時期と場所が重なる。
好奇心ではなく、聞かない訳にはいかない。
「つぶれてもうたよ。今はもうないねん」
由貴は今でも実家近くを訪れているはずだ。
話の中に、近所の店らしい話が出てくる。
店のおじさんが私を覚えててくれたとか、あの公園は昔のままだとか・・・。
でも、肝心の実家には立ち寄っていない。
正確には、実家跡・・・だが。
「今度、一緒に行ってみないか?」
深い意味はない。
純粋に彼女が生きてきた軌跡に触れてみたい気がした。
「ええよ、何か変わるかも知れへんし」
「わかった」
今は、こう答えるしかできなかった。
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「(004)小説No.050~100」カテゴリの記事
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