[No.53-1]トータル・イクリプス
No.53-1
「小夜(さよ)です、初めまして」
彼女とは単なる客として出逢った。
ただ、話が合うこともあり、そのうち自然と仕事抜きで逢うようにもなった。
恋人ではなく、会社の同僚のような関係として。
「今度、ランチに行きませんか?」
珍しく昼間のお誘いだ。
「大丈夫なの?夜・・・」
「その日は休みなんだよ」
「僕は大丈夫だけど、いいの?貴重な休みでしょ」
少し遠慮がちに言った。
「何言ってるのよ!貴重だから一緒に居たいのよ」
怒っているようで、怒っていない。
「ごめん、ごめん」
「じゃ、決まりね」
そう言い残すと、彼女は仕事に向かった。
「月が綺麗ね」
夜空を見上げた彼女が以前、口にしたセリフだ。
夜にしか生きれない自分を重ねたかのように、ポツリとつぶやいた。
彼女の後姿を見ると、いつも思い出す。
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