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2009年6月

[No.55-2]豆電球ネックレス

No.55-2

「はい、予告通り、これあげる」

そう言うと、豆電球ネックレスを首に掛けてくれた。
前に見せてもらった、豆電球とチェーンをくっ付けた単純なものではないみたいだ。
何やら、仕掛けがありそうだ。

「さぁ、いくわよ」
遥奈は腕まくりをして、指をポキポキ鳴らし始めた。
「ちょ、ちょ・・・ちょっと・・・」
思わず後ずさりした。
「何、びびってるのよ!冗談よ、じょ・う・だ・ん!」
(脅かすなよ・・・)

「まぁ、見ててね」

遥奈が急に抱きついてきた。
さらに自分が掛けていたネックレスの先を、僕のネックレスに押し付けた。

「わぁ、やった!光ったよ」

僕の豆電球が光った。
「それ・・・電池かい?」
「そうだよ」
どうやら、ふたつ合わせると光るような構造らしい。
「でも、これじゃ、寄り添わないと無理だよな」
「だ・か・らいいのよ」

遥奈をこんなに近くに感じることは、初めてだ。

(No.55完)

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[No.55-1]豆電球ネックレス

No.55-1

遥奈は変わったネックレスをしている。

「それって、豆電球だよね?」

「当ったり~!」
器用に豆電球をチェーンにくっ付けている。
「もしかして・・・半田で?」
遥奈は小さくうなずくと、赤く水膨れになった薬指を見せた。
「名誉の負傷だね」
そう言って、遥奈は笑顔を見せた。

平成生まれの、いわゆる“ギャル”だ。
そのギャルが昭和の匂いがプンプンする半田とは・・・。
ギャップが妙に新鮮だ。

「文化祭で、販売しようと思ってるんだ」

遥奈は芸術大学に通っている。
その芸術家の卵達の文化祭だ・・・・。

(何だか、すごいことになりそうだな)

「でも、アイデアがすごいね」
「そうかしら?」
謙遜した表情をしているものの、内心嬉しそうに見える。

「今度逢う時、ひとつあげるから楽しみにしてて」

(No.55-2へ続く)

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[No.54-2]デジャブ

No.54-2

「ここだよな」

由貴に教えられた住所ではこの場所だ。
劇的な変化・・・。
例えば大きなマンションにでも変わっていれば、それはそれで良かった。
忘れることも、あきらめることもできたはずだ。
でも、目の前には、ごく普通の一軒家が建っている。

生活感が溢れている。
言い知れぬ、さみしさを感じる。

「なぁ・・・由貴・・・」

返事はない。
ただ黙って、その家を見つめている。
由貴の手を握った。
ギュと、やさしくて、どこか力強く、握り返してきた。
言葉はなくても、伝わってくる。

「デジャブって知ってる?」
帰りの車中で、由貴が尋ねてきた。
「初めてなのに、既に体験したことがあるとか・・・だろ?」
「これがデジャブならええのに」

忘れたくはない・・・でも、実体験は辛い。
だから、経験したかのような感覚を持っていたい。
由貴は、そう付け加えてくれた。
よほど適当な単語が見つからなかったようだ。

「何か自分の中で変わった?」
由貴が言い出したことを確認してみた。
「ううん、全く・・・」
それでも、少しも残念そうな表情ではない。

「時々、見に行かへん?」
そう言って、今度は彼女から手を握ってきた。
言葉はなくても・・・伝わってくる。

(No.54完)

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[No.54-1]デジャブ

No.54-1

由貴との会話で、よく耳にする場所がある。

「そこって、実家なの?」
「そうやで」

実家の話なんて、珍しくもない。
ただ、リアクションに困る話を、サラッとしてくる。

「家ね、ボロかったんよ」
「いつつぶれても、おかしないねんぐらい傾いててん」

由貴の表情は至って穏やかだ。
悲しむわけでもなく、だからと言って笑い飛ばすこともない。
冷静に振り返っている感じがする。

「あの大震災は大丈夫だった?」
時期と場所が重なる。
好奇心ではなく、聞かない訳にはいかない。

「つぶれてもうたよ。今はもうないねん」

由貴は今でも実家近くを訪れているはずだ。
話の中に、近所の店らしい話が出てくる。
店のおじさんが私を覚えててくれたとか、あの公園は昔のままだとか・・・。
でも、肝心の実家には立ち寄っていない。
正確には、実家跡・・・だが。

「今度、一緒に行ってみないか?」

深い意味はない。
純粋に彼女が生きてきた軌跡に触れてみたい気がした。

「ええよ、何か変わるかも知れへんし」
「わかった」
今は、こう答えるしかできなかった。

(No.54-2へ続く)

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[No.53-2]トータル・イクリプス

No.53-2

「昼間の小夜も・・・小夜だよな」
彼女を見ていると、つい声が出てしまった。

「今、何か言った?」
「いいや、何でもないよ」
振り返った小夜に笑顔を返した。
僕の少し先を歩く小夜の足取りはいつになく軽い。

「たまには、いいよね!」

彼女がこんなにも、はしゃいでいる姿を見るのは初めてだ。
夜の煌(きら)びやかさとは違う輝きを見せてくれる。

「ねぇねぇ、これ見て見て!」

ショーウィンドウに飾られた、装飾品を指差した。
そのはしゃぎっぷりは、“女の子”そのものだ。
月を見上げて、寂しそうな表情を浮かべた、あの時の彼女とは別人だ。

でも、それでいい。

夜の月が昼の太陽を覆い隠す・・・そんな一瞬があってもいい。
夜空に輝くだけが月じゃない。

(No.53完)

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[No.53-1]トータル・イクリプス

No.53-1

「小夜(さよ)です、初めまして」

彼女とは単なる客として出逢った。
ただ、話が合うこともあり、そのうち自然と仕事抜きで逢うようにもなった。
恋人ではなく、会社の同僚のような関係として。

「今度、ランチに行きませんか?」
珍しく昼間のお誘いだ。
「大丈夫なの?夜・・・」
「その日は休みなんだよ」
「僕は大丈夫だけど、いいの?貴重な休みでしょ」
少し遠慮がちに言った。
「何言ってるのよ!貴重だから一緒に居たいのよ」
怒っているようで、怒っていない。
「ごめん、ごめん」
「じゃ、決まりね」
そう言い残すと、彼女は仕事に向かった。

「月が綺麗ね」

夜空を見上げた彼女が以前、口にしたセリフだ。
夜にしか生きれない自分を重ねたかのように、ポツリとつぶやいた。

彼女の後姿を見ると、いつも思い出す。

(No.53-2へ続く)

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[No.52-2]日向ぼっこ

No.52-2

それから数日後、菜緒と逢った。

「ほら、干した、せいじゅうろうやで」

いつもと変わらない、せいじゅうろうを見せてきた。
「日焼けしたんじゃない?」
軽いジョークを返した。
「ホンマや!茶色くなってる・・・って、もとからやんかぁ!」
乗り突っ込みはさすが、大阪人だ。

「うち、干されてしもうたんよ、ありゃりゃ・・・」

一人芝居が始まった。
いつもより、今日は特に楽しげだ。
ストラップのせいじゅうろうよりも、ずっと大きいそれを巧みに操っている。

「今度、みんなで日向ぼっこしようか?」
「そやなぁ・・・海にいかへん?」
菜緒と海へ行く約束をした。

「ありがとうね」
「何だよ、あらたまって・・・」
「みんなで・・・って言ってくれたやん」
「全員で5人だよね」
「そうやで」
「・・・・」
「あー!」
二人ほぼ同時にあることに気付いた。
俺と菜緒、せいじゅうろうとその仲間が2人・・・。

「ご隠居忘れてるやん!」

菜緒の大笑いが、しばらく止むことはなかった。

(No.52完)

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[No.52-1]日向ぼっこ

No.52-1 [No.07-1]せいじゅうろう

『干されています』

こんなタイトルのメールが来ると、真っ先にあることが頭に浮かぶ。
菜緒はモデルの仕事をしている“業界人”だ。
それだから『干された』と来れば、あれしかない。

『だ・い・じょ・う・ぶ・で・・・』
(待てよ)
返信を打つ手を止めた。

以前、菜緒が写メを付け忘れたことがあった。
そのために、ちぐはぐなメールのやり取りが続いた。
(あれはあれで笑えたけどな)

『なぁ、写メ忘れてない?』

先に確認した。

『わぁ、ホンマや!ほい、写メつけたで』

相変わらずそそっかしい。
写メには、いつものせいじゅうろうが写っていた。

「なんだこれ・・・?そっか!」

ベランダと思われる手すりに、布団が掛けてある。
その上で、まるで日向ぼっこをするかのように、せいじゅうろうが寝転んでいる。

『気持ちよさそうだね』
『いい天気やし、干してんねん』

確かに干されている、見事なまでに。

(No.52-2へ続く)

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[No.51-2]欠けたメロディ

No.51-2

「ちょっと待って」

私はもう一度ネジを巻き直し、弾かれる1本1本を確認した。
曲が終わるまでに一度だけ突起が、欠けた歯の間を通過した。

(これが違和感の原因ね)

持ち主の幸恵も何の曲か覚えていない。
突起の音階は、謎のままだ。

(そうだ!)

音をあてはめたらいいんだ。
“ド”から始めて行けば、そのうち適当な音が見つかる。
突起のタイミングで音を鳴らせば・・・。

「・・・やめておこう」

たった、ひとつだけの問題だ。
それに問題と言えるほどの大袈裟なものでもない。
それでも音を奏でることはできる。
歯の欠けたオルゴール・・・。
それはそれで味がある。

その不完全さが丁度いい。

(No.51完)

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[No.51-1]欠けたメロディ

No.51-1

聞いたことがあるメロディだ。

オルゴールに使われるくらいだ。
ある程度ポピュラーな曲だとは分かる。
でも、曲名は覚えていない。

しばらくオルゴールの音色に耳を傾ける。
「あれ・・・変な感じ・・・」
「どうかした?」
私は幸恵に、違和感を説明した。
聞いたことがあるメロディなのに、何かピタッと来るものを感じない。

「さすがね」
「どう言うこと?幸恵」
幸恵はオルゴールの中の仕切りを外し、機械の部分を指差した。
「これがどうしたの?」
「見てて」
そう言って、ネジを巻き始めた。
もう一度、オルゴールがメロディを奏(かな)で始めた。
くし状の歯が、小刻みに弾かれている。

「あれ?」

よく見ると歯が1本欠けている。

(No.51-2へ続く)

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[No.50-2]オレンジ色の明日へ

No.50-2

「明日って、何色なんだろうね」

「何よ、急に哲学ぶっちゃって」
友人が、何やら意味深なことを聞いてきた。
「よく、ブルーな気持ちって言うじゃない」
「だから?」
「明日にも、色があるのかなーってね」
(微妙に関係がないように思えるけど)

「何かあったの?」
心配になって聞いてみた。
「ううん、そうじゃないけど、明日が真っ黒なんて嫌よね」
「そりゃそうよ、お先真っ暗なんて」
「だからといって、お先が“真っ赤”じゃ疲れそうだし」
そう言って友人は笑った。

(明日の色か・・・)

会社の帰り道、目の前に真っ赤な夕焼け空が広がる。
何度も見ているのに、今日はいつもと違う。
「明日の色・・・夕焼け空・・・真っ赤・・・」
キーワードが繋がり、あることを思い出した。

「これが明日の色?」

友人にクレヨンを手渡した。
なぜか捨てられない1本が、ずっと引き出しの奥に入れてあった。
幼稚園の時だ。
赤のクレヨンを無くし、仕方なく他のクレヨンで真っ赤な夕焼け空を描いた。
泣きながらクレヨンを握った。
でも、描き終えた頃、笑顔に変わった。

私の色、そして明日の色・・・。

オレンジ色のクレヨンは、それを思い出させてくれた。

(No.50完)

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[No.50-1]オレンジ色の明日へ

No.50-1

「好きな色は、ミドリ色かな?」

こう答えるだけで、好印象を与えられる。
ミドリ色は植物の代名詞であり、森や大地を彷彿させる大自然の象徴だ。
だからこそ連想されるのだろうか。
ミドリ色は、穏やかさ、安心、平和などをイメージさせる。

アカ色は、情熱的な色に間違いはない。
一方では自己主張が強く、他人に対して刺激的な色とも言える。

「男でも誘惑するつもり?」

赤い口紅、赤いドレス、赤い靴・・・。
いずれか1つあれば、そう言われることもある。
怪しげで、危険な匂いが漂う。
車で言えば、スポーツカーは赤が定番だ。
とにかく目立つ色だ。

クロはどうだろうか?
かなり落ち着いた感じがあり、シックな印象は抜群だ。
これも一方では、赤とは違う、独特な自己主張を持っている。

「ちょっと・・・」

全身クロで固めようものなら、なお更コメントしにくい。
高級感がありすぎて、逆に敬遠されることもある。
色々な意味で、近寄りがたい雰囲気のある色だ。

だからミドリ色が好き・・・じゃない。
色の好みは、自分の性格をさらけ出すようで嫌いだ。
だから、無難な色を答え、緑色を身の回りにそろえる。
「無難な好みね」
そう言われると、事実だけに落ち込む。
普通を演じている私を、馬鹿馬鹿しく思うこともある。

(素直になりたい・・・)

でも、“自分色”との出逢いは突然訪れた。
意外なかたちで。

(No.50-2へ続く)

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[No.49-2]上手な恋の忘れ方

No.49-2

一つの結論が出た。

『忘れようとすると、それは美しい想い出に変わろうとする。
美しいものは壊せない、だから忘れられない・・・』

「だったら、元をたどって、忘れなきゃいい・・・ってことね」

なるほど・・・合理的な考えだと思う。
賛同の声が多くあがった。

『で、この回答をした人はどうなの?』

当然とも言える書き込みがあった。
皆が下した結論に合致するか否かではなく、純粋にその真意が気になる。
今度は投稿者を巡っての論議が再燃し始めた。
彼か彼女か、若いのか年配なのか・・・。

結局、その投稿者は姿を見せなかった。

ネットでありがちな“本人と語る”ニセモノも不思議と現れなかった。
それだけ、皆が期待していた、と言うことだろうか。

私も今度失恋したら、これを試してみよう。

「失恋する前に、恋愛しなきゃねダメね」
(変な感じ・・・後ろ向きなようで、前向きなような・・・)
「・・・!」

これが、あの真意なんだろうか。

(No.49完)

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[No.49-1]上手な恋の忘れ方

No.49-1

『上手な恋の忘れ方を教えてください』

ネット上の質問箱に、それは掲載されていた。

恋愛における永遠のテーマ・・・と、呼ぶべき内容だ。
時々、見かける。
偶然目にしたとは言え、私も教えてほしいテーマだ。
どうやら掲載して間もないらしい。
回答は、まだ一つも無い。

女性は男性より、気持ちの切り替えが早いと言われている。
立ち直りが早いとも言えるのだろうか。
でも、そんなの人ぞれぞれであって、私は恋愛に関して言えばむしろ男性的だ。
いつまでも、ズルズルと引きずっている。

数日後、覗いてみると、いくつかの書き込みがあった。
(まぁ、どれもこれも、ありきたりね・・・)
確かに、画期的な方法は期待できない。
そんなのがあったら、大袈裟だけど歴史は変わっている。

一風変わった書き込みが目に付いた。

『恋を忘れたいなら、恋を忘れないようにすればいい』

深い・・・それとも、一見謎掛け風だけど、実は中身はない・・・?
どう解釈していいか悩む。
そのうち、質問よりもその回答に注目が集まっていった。

(No.49-2へ続く)

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[No.48-2]昨日のセンチメンタル

No.48-2

「そうだけど・・・」
「じゃ、どうして?」
はっきりしない彼に、苛立ちを感じる。

「俺たち、無理なのかな」
「そうかもしれないね」
しばらく無言が続いた。
彼は次の言葉を慎重に選んでいるように見える。
それは私も同じことだ。

「じゃ、またな」
(うそ・・・結論は出ていない、ちょっと待って)

「うん」
(だめよ・・・次の約束しなきゃ)

涙がこぼれ落ちるまでの一瞬に、あの日のことを想い出す。
想い出は、その涙と一緒に風に消えた。

「あ・し・た、逢・お・う・ね!」

泣きながら思い切り大きな声で叫んだ。
その声は、涙と一緒に風に運ばれた。

私にセンチメンタルなんて似合わない。

(No.48完)

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[No.48-1]昨日のセンチメンタル

No.48-1

遠くを見る。

感傷的な気持ちになったら、私は近くの高台から遠くを見る。
雑然とした街並みが好き。
夜景のロマンティック感は私には見合わない。

落ち込むほど、気持ちは沈んでいない。
平然としていられるほど、気持ちに余裕もない。
そんな時が、一番心が揺れる。

「じゃ、またな」
「うん」

この言葉を最後に、夏の恋は終わった。
その時は、泣かなかった・・・泣けなかった。
次も逢えるような余韻を残したまま、今でも気持ちは去年の夏のままだ。

薄着の季節になり、夏を肌で感じる。

日差しがより、一層、まぶしい。
夏の熱気が心に伝わる。

「今頃、泣いてどうするのよ」

自分で自分に言い聞かせる。
高台に吹く風は、どこかやさしく、夏の涙を誘う。

(No.48-2へ続く)

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[No.47-2]若葉の頃

No.47-2

そのうち、私が居てもお構い無しにやってくるようになった。

お互いが、無関心を装っている。
その空気がなんとも愉快だ。

ほどなくして、ヒナの鳴き声が聞こえるようになった。
見てみたいけど、私の存在が子育てに影響してはまずい。
多少、迷惑とも言える鳴き声が、逆に嬉しい。

風が心地よい。

ベランダなんて、最も近くて遠い場所なのかもしれない。
相変わらず、親鳥はせっせとエサを運んで来ている。

やがて若葉の頃、彼らは巣立って行った。
ベランダは急に静かになった。

「あれ?巣がない・・・」

「立つ鳥跡を濁さず・・・そんなわけないか」
そう思わせるほど、ベランダの隅は綺麗になっていた。
そう言えば、昨日、めずらしく強風が吹いていた。
主を失った巣が、飛ばされても不思議ではない。

『プルップゥゥ・・・』

次の日、ハトの鳴き声が聞こえた。
急いでベランダに出てみると、一輪の花が落ちていた。

「カスミソウ・・・だよね?」

(No.47完)

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[No.47-1]若葉の頃

No.47-1

やけに近くに聞こえる。

この独特でリズミカルな、そして、ちょっとイラッとする感じ・・・。
もちろん、聞き覚えはある。
どうやら、ベランダからのようだ。
(確認してみよう)
ベランダへ続く扉を開けて、何気なく横を向いた。

「わっ!」

多分、驚いたのは私より、向こうの方だろう。
明らかに目が合った。
そいつは、大急ぎで飛んで逃げた。
(脅かさないでよ、もう!)
存在は分かっていても、いきなりは驚く。
あの慌てようからすると、向こうも相当驚いただろう。

「冗談じゃないわよ、あのハト!」
ここで何をしていたんだろう。
それから毎日のように、そいつはやってきた。
(一体何してるんだろう?)

「あれ?これ・・・」

雑然としているベランダの隅に、ハトが巣を作り、卵まで産んでいた。
(人のベランダに、ずうずうしいわね)
とは言うものの、とりあえず見守ることにした。

(No.47-2へ続く)

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[No.46-2]誰にも染まらずに

No.46-2

一人の男性と知り合った。

こんな私を隠し通すことができないのは分かっていた。
だから、正直に全てを話した。
彼は結婚しているので、さすがに一緒には住めない。
ましてやそんな関係も望んでいない。

私は、何でも相談した。

その度に、温かく応えてくれた。
彼は決して、自分の意見を私に押し付けようとはしなかった。
弱気だからじゃない。

「答えは自分の中にあるんだよ」

以前、彼が話してくれた。
自分を見つめ直すこと・・・。
自分を捨てることよりも、辛くて苦しい・・・。

「一緒に答えを見つけよう」

私の中の私を、彼も探してくれている。
でも、随分と彼を苦しめた。
定期的に襲ってくる感情の起伏を、時として抑えることができない。
それを彼にぶつけた。
その度に、私と一緒に泣いてくれた。

仕事の都合で離れてしまった彼から月に一度、はがきが届くようになった。
いつも、裏面は白紙のままで、何も書かれていない。
そこに、私は“今の自分”を書き込むことにした。
なんとなく、そうしたい気持ちに駆られる。

そして、年に一度、そのはがきを読みに来てくれる人がいる。

(No.46完)

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[No.46-1]誰にも染まらずに

No.46-1

男性と付き合う時、彼が望む“私”を演じてきた。

強制されてはいない、自分で自分を捨てた。
辛くはないし、そうやって今まで生きてきた。

男性への依存が高いことは、自覚している。
昔から男性の間を、転々としてきた事実は、変えようがない。

(追い出されるくらいなら、我慢しよう)

ただ、それを感じ取られると、男性の態度が変わる。
掃除、洗濯、食事の用意・・・。
それを当然のように、要求してくる。

(出て行きたければ、出て行けよ)

言葉にしなくても、態度と表情でそれが伝わってくる。
明らかに余裕がある。
だから、それが腹立たしい。

「出て行けばいいじゃん!」

友人から何度もそう言われた。
一人暮らしができないほど、稼ぎがない訳でもないし、寂しいこともない。
男性への依存、将来に対する不安・・・。
考えれば考えるほど、パニックに陥る。
様々な心の痛みは、私を簡単に解放してはくれない。
だから、出て行きたくても出て行けない。

「助けてくれるなら、誰でもいい」

素直な心の叫びのつもりだった。
でも、男性は下心だけで近寄り、女性は「誰でもいいの?」と軽蔑の眼差しを向けてくる。

「私は誰なの?」
その答えは今も見つからない 。

(No.46-2へ続く)

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[No.45-2]ブリキのロボット

No.45-2

「はい、プレゼント」

彼が何かのカギをくれた。
「何のカギなの?」
彼は笑顔で、本棚の隅を指差す。
「え!ロボットの?」
「手に入れるの、苦労したんだよ」
随分、探し回って手に入れたらしい。

「それより、ほら・・・」
彼が催促する。

早速、カギを差し込んで、回してみる。
ガリ・・・ガリ・・・と、サビ付いたような音が聞こえる。
手に伝わる感触からも、これがゼンマイだと言うことが分かる。

カタカタ・・・カタカタ・・・。

意外に小さな音を立てながら、ブルキのロボットは歩き出した。
すると、それに合わせて胸が徐々に開いて行った。

「開くみたいだよ!」

私は思わず声に出した。
彼も興味津々と言った目をしている。
ロボットの胸が開いた。
そこには、ガラス細工のような赤いハートが入っていた。

それから何度もゼンマイを巻いたが、再びハートを見ることはできなかった。
でも、二人の彼が見せてくれたもの。
なぜだろう・・・胸が熱くなる。

(No.45完)

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[No.45-1]ブリキのロボット

No.45-1

目が合った。

何となく立ち寄った雑貨店で、古ぼけたブリキのロボットに出逢った。
塗装は所々ハゲ落ち、サビもひどい。

『\200』

申し訳なさそうに値札が貼られている。
アンティークのレア物では無い限り、この値段でも微妙だ。
そう思いながらも、手にとって見る。
はげた塗装と、ひどいサビが逆に独特の表情を作り出している。

「前はイケメンだったんじゃない?」

つい話し掛けずにはいられない、愛嬌のある顔だ。
(ま、200円だし、買っていくか)
ペットショップで子犬の誘惑に負けた・・・そんな心境に近い。

家に着いてから、ロボットをまじまじと眺めた。
頭のてっぺんには、何か差し込むような穴が開いている。
胸は真ん中から左右に開きそうな雰囲気がある。

「か、かたいわね・・・」

無理にこじ開けて、壊れでもしたら大変だ。
ガラクタとは言え、気が引ける。

「仕方ないなぁ。はい、あなたはここ」

本棚の隅に彼を置いた。
それから、その彼に真っ先に興味を抱いたのは、人間の“彼”だった。

(No.45-2へ続く)

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[No.44-2]窓辺から

No.44-2

店内に流れる軽やかな音楽。
やや、遠くに聞こえる人の雑踏。
壁一枚を挟んで、対照的とも言える空間が広がる。

何も考えない。
何も考えていない。
そんな時こそ、逆に考えられる。
あえて“大勢の中の一人”を自分自身で演出する。

「お待たせしました」

店員が、アイスティーを運んできた。
微かな紅茶の香りは、小さな私の空間を更に演出する。

(しばらく、外を眺めていよう)

通り過ぎる人波みは、いつしか視界から消えていた。
本当は、大勢の人が歩いているのに。

『カラン・・・』

「あ・・・」
アイスティーの氷が音をたてて溶けた。
全てがまた始まった気がした。

(No.44完)

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