[No.035-2]ルナの涙
No.035-2
「そろそろ帰ろう」
(お客様・・・お客様・・・)
「え・・・」
「ご注文のアイスコーヒーをお持ちしましたが」
店員は、困惑顔で私を見ている。
「すみません・・・ついウトウトしちゃって」
状況は飲み込めていないが、多分そうだろう。
(ユメ・・・か)
どうってことない夢だ。
あの店員がこれから出逢う運命の人・・・なんてこともないだろう。
すでに、アイスコーヒーがそれを証明した。
正夢など、ドラマや小説だけの話だ。
ただ、何となく海を見つめていた。
赤く染まった海は、穏やかな波のうねりの質感が妙にマッチする。
それから、どれだけ時間が経過しただろう。
「もう、こんな時間か・・・」
やがて月は海を照らし始めた。
少し温まってから帰ろう。
メニューを広げると、妙な名前の飲み物が目に飛び込んできた。
「ルナの涙・・・?」
運ばれて来たそれは、普通のホットコーヒーだった。
「すみません、どうして“ルナの涙”なんですか?」
(本当は頼む前に聞くべきね)
「月が出る頃、ホットコーヒーを頼まれる女性の方に多いんですよ」
答えになっていない。
「お客様は、その理由をご存知ですよ」
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