No.044-1
(私の場合、アウトドア派と言えるのかな?)
外出は好き。
でも、カフェの店内から、外を眺めるのが好きなだけ。
外へ出て、中に入る。
「分かりにくいわね」
友人にもよく言われる。
人間観察するとか、ましてや出逢いを求めてはいない。
大勢の中の一人・・・。
ちょっと、都会的でクールな気持ちになれる。
行き交う人並みは、限りなく他人行儀だ。
だからこそ、私をもっと突き放してくれる。
「もうすぐ本格的な夏ね・・・」
差し込む日差しは、もう“陽気”ではすまないレベルだ。
夏は他の季節よりも、外へ出掛けたくなる。
とは言え、結局、中に入ってしまうのだけど・・・。
「季節に関係ないじゃん!」
「そうなんだけど・・・」
外を眺めるために、窓辺に座る。
何かを求めて。
(No.044-2へ続く)
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No.043-2
「奇抜さを狙ったのかしら?」
その女性が続ける。
「僕にはそう見えませんが、あなたは? 」
「どうかしら」
問いかけた本人が、答えを濁している。
単なるギャラリーではない、そう直感した。
この絵に何か想いを持っている・・・瞳の奥がそう物語っている。
僕の考えを察したのか、
「私がこの絵の作者だとお考えですか?」
と、女性が聞いてきた。
「どうでしょうか」
いたずらっぽく答えた後に、僕はこう続けた。
「作者は男性だと思いますよ」
「それに・・・その方は、もう・・・」
「・・・」
僕はあえて、その先を答えなかった。
女性の沈黙は、僕の答えが正しいことを証明したのかもしれない。
雲のない空と穏やかな海。
作者はそれを色褪せることなく、永遠に絵に残そうとした。
だから、あえて黒一色で描いたのだ。
見る者が、見る度に色鮮やかな青を重ねることを願って。
「お二人で見た、空と海はどうでしたか?」
「そうね、今でも胸に焼き付いているわ」
どうやら、僕の考えは正しいようだ。
「そして、彼はこの絵を送った・・・」
「えぇ、そうよ。この絵を見る度に思い出すわ」
女性の瞳には空が、溢れる涙には海が見えた気がした。
そう、真っ青な空と海が。
(No.043完)
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No.043-1
その絵画は、モノクロで描かれていた。
それも黒一色でだ。
上側は薄く、下側は濃く塗られている。
それぞれに若干の濃淡が付けられているが、一見すると何が描かれているのか、分からない。
『雲のない空と穏やかな海』
絵画のタイトルを見て、ようやくそう見えてくる。
雲のない空・・・。
青く澄み切った空には、雲の欠片さえ見当たらない。
だから、薄い青一色なのだろうか。
穏やかな海・・・。
風がやんだ海には、波の鼓動が聞こえない。
だから、濃い青一色なのだろうか。
作者の心には、その景色がどのように届いたのだろう。
そして何を感じたのか・・・。
この絵には、静寂を感じる。
とても長い一秒を刻みながら、ゆっくり時が流れているかのようだ。
(それにしても・・・なぜ、モノクロなんだろう?)
「そんなに気になりますか?」
突然、一人の女性が話しかけてきた。
(No.043-2へ続く)
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No.042-2
わたしは、自分でも変わり者だと分かっている。
同世代の女の子と比べると、興味の先がまるで違う。
それを彼は理解している。
それも、ごく自然に・・・。
「こんなクセがあるなんて・・・知らなかった」
説明書には、わたし以上にわたしのことが書いてある。
手作り感がいっぱいの、わたしの説明書。
今の気持ちを、おさえられない。
“ありがとう”
この一言を伝えたくて、最後まで読み終わる前に、彼へ電話した。
「ありがとう」
「わたし、特別なイベントなんていらないから」
言葉に詰まる。
「うん、分かっているよ」
いつになく彼の声は穏やかだ。
電話を終えて、続きを読んだ。
最後のページには、こう書かれてあった。
イベントより、日常
だから、そばにいて
だから、そばいにいるよ。
(No.042完)
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No.042-1
スイーツより、おでん
それも、こんにゃく
浜崎あゆみより、エンヤ
時々、ELT
夢より、現実
と言うより、夢がない
浪費より、貯金
でも、ケチとはちがう
芸能人は、詳しくない
だって、テレビを見ないから
もっとも、興味もないし
洋服は、ゆったりしたのが好き
流行のレギンスは嫌い
パンストはもっと嫌い
彼から誕生日プレゼントを貰った。
その中に、
“さと美の説明書”と書かれた一冊の本が同梱されていた。
「わたしの説明書?」
そこには、私の好き嫌いなどが、書かれていた。
彼に、これらをまとめて話した記憶はない。
(今までの会話から・・・)
改めて文字にされると、本当だけに恥ずかしさが倍増する。
でも、素直に嬉しい。
会話の一つ一つでさえ、彼は覚えててくれたんだ。
(No.042-2へ続く)
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No.041-2
今日も雨だ。
通り雨なの?
それとも梅雨のように、しばらく降り続くのかしら・・・。
ただ、黙って過ごすしかない。
焦っても、仕方がない。
友人が心配して、次々に声を掛けてくれる。
その度に、あの日見た虹の話をした。
色鮮やかな七色が、青い空に吸い込まれるように伸びていた。
「一人じゃない」
なぜか、そう感じる。
「明日は晴れるかな」
あの虹の先に、何かを感じずにはいられなかった。
みんなが手を差し伸べてくれる。
赤の手、橙の手・・・それからも黄、緑、青、藍、紫と続き、いつしか七色を越えた。
あの虹を越えて行こう。
みんなと共に。
(No.041完)
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No.041-1
虹に出逢うチャンスはそう多くない。
「前に見たのはいつだったかな」
目の前でアーチを描く七色の虹を、私は冷静に見ている。
雨上がり・・・。
そう、雨上がりに見ることができるから価値がある。
「早く、止めばいいのに」
「えっ、なに?雨でも降ってきたの」
独り言で、友人を慌てさせたこともある。
私にとっての雨は、目には見えない。
悲しみの雨に濡れて、途方に暮れることもある。
だから現実の虹に、どこか嫉妬さえ覚える。
私にとっての虹。
心に掛かるアーチ。
いつになったら、雨は上がるのだろう。
(消えていくのね)
いつしか虹は、青い空に同化するように消えていった。
少し、日差しが強くなった気がする。
まだ、私の心は晴れていないのに。
(No.041-2へ続く)
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No.040-2
放課後、部活が終了し、なにげなく立ち寄った教室に矢島が居た。
(こんな時間に何しているんだろう?)
いつもは、授業が終われば、さっさと帰ってしまう。
当然、クラブ活動はしていない。
茜色の空が、教室いっぱいに広がっている。
彼女は、それに包まれるかのように、自分の席から外を見ている。
「なぁ、矢島・・・」
つい口に出てしまった。
これから何を話せばよいのか、考えもしていないのに。
「なぁに?」
「えっ!」
彼女が返事をした。それも、やさしい笑顔で。
「あ・・・うん、綺麗な夕焼けだね」
「そうね」
会話は途絶えた。
でも、何とも言えない幸せな時間が、僕だけに流れた。
それから、先に彼女が教室を後にした。
校庭を歩く彼女の影は、僕に届きそうな位、長く伸びている。
(そう言えば、矢島は何してたんだろう?)
結局、肝心なことは分からずじまいだった。
クラスに一人とは言わないけど、学年に一人は居ると想う。
彼女のように、浮いた存在の女の子。
そして、そんな彼女を好きになる男子が。
(No.040完)
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No.040-1
転校生が来る。
学校生活における、転校生は僕らにとっては一大イベントだ。
それが異性ともなれば、なおさらだ。
事前に知らされた情報は一人歩きし、それぞれが想う理想像が作られる。
「なぁ、あいつどう想う?」
友人が一番後ろの席に、視線を向けた。
「あいつって、矢島のことか?」
矢島さやか。
1ヶ月前に、僕のクラスに転校してきた。
僕の・・いや多分、皆の想像以上の美人で、大人びた魅力がある。
僕らが、ガキだと言うことはさておき。
それから、1ヶ月たった。
彼女の周りに、人の輪も、会話もない。
心を閉ざしたかのように無口で、社交性を感じることが出来ない。
無口どころか、最初のあいさつで名前を聞いて以来、声を聞いていない。
(緊張しているんだろう・・・)
初めはそう思った。
でも、皆の気遣いは、長くは続かなかった。
今は、彼女が来る前のいつもの日常に戻っている。
いじめこそ無いものの、彼女の居る空間は皆にとって、単なる障害物でしかないようだ。
クラスに一人とは言わないけど、学年に一人は居ると想う。
彼女のように、浮いた存在の女の子。
(No.040-2へ続く)
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No.039-2
「そんな・・・今日のために休みをとったのよ!」
「すまない」
彼はそれ以上、弁明しなかった。
分かっている・・・前と同じパターンだ。
きっと、うまく行く。
「分かったよ。残念だけど、また今度にしよう」
それから、同じようなことが何度も続いた。
「もう・・・いやだよ」
新しい彼とは長くは続かなかった。
結局、終わりはどこにでもあるパターンだった。
(わたし、今まで何を想ってたんだろう?)
「それはね、相手との距離感だよ」
「距離感?」
友人がまた意味ありげな言葉を発した。
「想いは届いていた?彼に」
友人の問に応えることが出来なかった。
理解ある女性を演じていた。コントロールとはそう言うことだと信じて。
でも、それが距離を生んだ。
そして、その距離はどんどん離れていった。
「あーぁ、もうやめたやめた!」
「わたしには、無理みたい」
考えれば考えるほど、上手く行きそうな気がしない。
むしろ、逆だ。
「それが恋愛なんだよ」
友人は冷静だ。
「ふん!男のくせに言うわね」
この距離・・・そう、男女にはこの距離感が必要なのかもしれない。
(No.039完)
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No.039-1
一つの恋愛が終わると、いつも想うことがある。
“次にはそれをコントロールできるのに”
恋愛中は、自分自身を見失う。
『だから恋愛なんだよ』
と、どこからともなく声が聞こえる。
どうして、あの時、あんなことを・・・。
恋愛モードが“冷めた”から、冷静に考えられるのではない。
“覚めた”から、今更気付く。
「どうして?約束したのに」
「ごめん、急な仕事が入ったんだ」
普段なら、何もなく終わったことなのに、どうしてあの時は、逢うことに固執したんだろう。
結局、彼を怒らせてしまい、連絡が途絶えてしまった。
「何も、別れるほどのことでもないよね」
友人の一人が相談に乗ってくれた。
でも、その時はそれで精一杯だった。
どうしても逢いたい・・・その気持ちを抑えられなかった。
「で、教訓と言うか・・・想うんだ?」
「そうね。次はそれをコントロールできる、と」
いつもの友人と、恋愛を語り合った。
「ただ・・・」
友人の表情が冴えない。
「何よ・・・ハッキリ言えば」
「次の恋には、別の“それ”が生まれるよ」
(No.039-2へ続く)
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No.038-2
純愛-卒業-
あなたへ 告白した時は
あかね色の空だったね
照れながら渡したラブレター
赤く染まる私の頬を
夕日はやさしく 隠してくれた
あなたの 返事を待つ時は
激しい雨の日だったね
「ごめん」で終わった幼い恋
溢れ出す私の涙を
雨はやさしく 隠してくれた
ねぇ 知っていた?
偶然だった帰り道 初めて芽生えた恋心
あなたの横顔さえ見れなくて
ねぇ 覚えてる?
ふたりだけの教室で 話したあったね文化祭
あなたの瞳だけ見ていたの
さようなら 私の恋 さようなら 今の私
通り過ぎるあなたを まだ振り返らない
通り過ぎたあなたを もう振り返らない
レベッカが、この歌を初めて発表したライブに、智史は居た。
「ふ~ん、そうだったんだ」
智史がニヤニヤ私を見る。
「い、いいじゃないよ、もう!」
レベッカはもう一度この歌を、私の結婚記念日に歌ってくれた。
(No.038完)
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No.038-1
「えっ!私が?」
友人のレベッカからのお願いに唖然とした。
レベッカは、そこそこ有名なバンドのボーカルを担当している。
もちろん、彼女は純粋な日本人だ。
唖然とした理由には、2つある。
素人の私に、作詞を依頼してきたこと。
そして、何より驚いたのは、その依頼した歌詞の内容だ。
「純愛物で、おねがい」
「純愛?」
「そうよ。誰もが、恥ずかしくなるほどの歌詞で頼むわよ!」
レベッカのバンドはヘヴィメタルのまさに王道のバンドだ。
そんなバンドが、純愛だなんて。
「その恥ずかしさ、その羞恥心が魂ぃを・・・」
(あぁ・・・始まった)
「わ、わかったから!でも、どうして私なのよ?」
「あんた、得意でしょ?恥ずかしい歌詞が」
「もぅ・・・アレ、まだ覚えてるの?」
好きだった曲をイメージして、そこに歌詞を付けた。
高校の卒業文集に載せた淡い恋心・・・。
憧れの先輩の卒業を目前に控えて、勇気を出して告白したこと。
そして、それが叶わなかったこと。
その歌詞にみんなが共感してくれた。
「本当に私でいいの?」
「当時をもう一度、リメイクしてよ」
(No.038-2へ続く)
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No.037-2
綾乃は感情の浮き沈みが激しい。
それは単にわがままではなく、心の傷が・・・そう、彼女を傷付けて来たのは、僕ら大人達だ。
だからこそ、彼女のその一言には、意味がある。
「今度、お茶しに行こうよ」
何気ない会話や予定が、明日をつないでくれる。
彼女の力になりたい。
そして、最後にその一言を待っている。
「なぁ、今度いつ逢えるん?」
「来週なら、大丈夫だと思うけど・・・あとでメールで連絡するよ」
「そやね、待ってるわ」
「えっと・・・来週、来週・・・」
最近、仕事の都合で先のスケジュールがいっぱいだ。
だから、綾乃に即答しなかった訳ではない。
メールをすれば、僕にとっての最大のイベントが待ち構えているからだ。
『来週の木曜日の夜、大丈夫だよ』
綾乃にメールした。
何度かメールのやり取りが続いた。
(そろそろかな・・・)
『じゃ、来週』
僕の期待は最高潮に達した。
『ラジ・・・』
(来た!)
『ラジャりました!』
彼女の楽しい裏切りに、人生最大の笑いを経験した。
(No.037完)
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No.037-1
初めて見た時、思わず笑ってしまった。
綾乃のメールの返事に、よく使われている。
『ラジャー!』
記憶は定かではないが、昔々のヒーロー番組などで使われていた印象がある。
どうしてだろう・・・?
“了解“や“うん”でも“はい”でも構わないのに。
でも、ラジャーと言われると、なぜか笑顔になれる。
別に、それを狙って使っているとは思えない。
「ラジャーって、初めて見た時、思わず笑ったよ」
綾乃に話したことがある。
「そう?笑わせるつもりはないんやけどな」
「軍隊で使われているんやろ?」
(軍隊?)
「そうだっけ?」
僕は、ここまで出掛かっている答えを飲み込んだ。
「ん・・・まぁ、いいや」
「そやそや」
(そやそや・・・って、綾乃が言い出したことなのに)
結局、どうして綾乃がラジャーを使うようになったのか不明のままだ。
(でも、そんなことどうでもいいか)
『ラジャー!』
この一言で、一日元気になれる。
(No.037-2へ続く)
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No.036-2
時々、あのチャットに顔を出すことがある。
名前は替えた。
でも、遠回しに、あやを待っている。
反面、彼女に逢わす顔もない。
「逢ったこともないのに、“逢わす顔”なんて」
自分自身を鼻で笑った。
(あ、誰か来た)
あや『はじめまして』
(まさか・・・)
しんや『はじめまして、よろしく』
“あや”なんて名前はネット上でよく使われる名前だ、単なる偶然だろう。
あや『何でも話していいですか?』
しんや『いいですよ』
あやと名乗る女性は、自分の身近に起こった出来事を話してきた。
文字からその楽しさが伝わってくる。
(前の“あや”とは違うようだ)
しんや『良かったですね』
あや『うん。誰かに話したかったんだ、ありがとう聞いてくれて』
しんや『こちらこそ』
あや『また、来ますので、お話ししてください』
しんや『喜んで!』
あや『それと、メッセージ素敵ですね』
しんや『恥ずかしいけど、伝わるかな?』
あや『伝わっていると思うよ。今日もありがとう』
(No.036完)
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No.036-1
あや『ずっと辛い想いをしてきたのに、今も辛いことばかり』
しょう『前向きに、頑張ろうよ』
あや『あなたは、何もわかっていないよ』
しょう『仕方ないだろ・・・僕は君じゃない』
あや『だれもわかってない。わかってくれない』
しょう『そう自分を追い込まないで』
あや『何も感じない・・・ただ毎日過ごしているだけ』
あや『落ちますね。今日はありがとう』
しょう『待って!』
チャットで知り合ったばかりの女性から、辛い胸の内を聞いた。
全くの他人だからこそ、話せるのかもしれない。
逆に、嘘や妄想なのかもしれない。
ネット上では、そんなことは日常だろう。
真剣に答える僕を、向こうの人間が笑っているのかもしれない。
『ずっと辛い想いをしてきたのに、今も辛いことばかり』
真実はどうであれ、僕の心に突き刺さる話だった。
前向きとか、頑張れとか、どうしてそんなこと言ってしまったんだろう。
彼女の心の傷を、ただ広げたに過ぎないのに。
(でも、もう関係ない)
別世界のあやに少し驚いただけだ。
二度と逢うこともないだろう。
ただ、なんとなく後味が悪い。
(No.036-2へ続く)
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No.035-2
「そろそろ帰ろう」
(お客様・・・お客様・・・)
「え・・・」
「ご注文のアイスコーヒーをお持ちしましたが」
店員は、困惑顔で私を見ている。
「すみません・・・ついウトウトしちゃって」
状況は飲み込めていないが、多分そうだろう。
(ユメ・・・か)
どうってことない夢だ。
あの店員がこれから出逢う運命の人・・・なんてこともないだろう。
すでに、アイスコーヒーがそれを証明した。
正夢など、ドラマや小説だけの話だ。
ただ、何となく海を見つめていた。
赤く染まった海は、穏やかな波のうねりの質感が妙にマッチする。
それから、どれだけ時間が経過しただろう。
「もう、こんな時間か・・・」
やがて月は海を照らし始めた。
少し温まってから帰ろう。
メニューを広げると、妙な名前の飲み物が目に飛び込んできた。
「ルナの涙・・・?」
運ばれて来たそれは、普通のホットコーヒーだった。
「すみません、どうして“ルナの涙”なんですか?」
(本当は頼む前に聞くべきね)
「月が出る頃、ホットコーヒーを頼まれる女性の方に多いんですよ」
答えになっていない。
「お客様は、その理由をご存知ですよ」
(No.035完)
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No.035-1
休日の午後、海辺のカフェテリアへむかった。
潮の香りが私を向かえてくれる。
海風が私の中を、何度も通り過ぎていく。
遠くに聞こえる人のざわめきに、フォーカスは合わない。
でも、今の私には何もかも心地よい。
(お客様・・・お客様・・・)
「お客様・・・そろそろ閉店になりますが?」
「うぅん?あぁ・・・す、すみません!」
急に現実に引き戻された。
風は止み、海はいつの間にか、オレンジ色の穏やかな表情を見せていた。
「あまりにも、気持ちよく眠られていましたので」
店員の男性はそう言うと、温かいコーヒーを運んで来てくれた。
「これ・・・?」
「初夏とは言え、これからの時間帯は肌寒いですから」
彼は、そう告げると店の奥へ消えていった。
見渡すと、もう他にはお客さんは居ないようだ。
(ヤダ・・・悪いことしちゃったかなぁ)
それでも、コーヒーの香りが私をここに引き止める。
「あったかい・・・」
押さえていた気持ちが、涙となってあふれでた。
(No.035-2へ続く)
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No.034-2
歌詞がその時の心境と重なることがある。
ただ、全てそうとも言えない。
それに、歌が鍵の形を決めるんじゃない。
その時の心境に形がある。
(あの時の鍵はまだ見つからない)
彼とのエピソードはある。
でも、今は想い出す心境でもない。
「やっぱり、まどかには鍵が必要ね」
今日のドライブも、恵が私を気遣って誘ってくれた。
短大で初めて男性と付き合い、初めて別れた。
恵もそれを知っている。
だから、恵のおせっかいは、彼女なりのやさしさだ。
カーラジオからは、懐かしい歌が次々聞こえている。
「この歌・・・」
(あ・・・)
無意識に声が出てしまった。
「鍵穴に、ピタリきたようね?」
恵は私の一言を聞き逃していなかった。
「見つかったようね、彼との想い出の鍵が」
恵の勘は怖いほど鋭い。
(No.034完)
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No.034-1
「わぁ!懐かしいな」
カーラジオから、学生の頃に聞いた歌が聞こえてきた。
写真や今ならビデオカメラで撮影した映像もそうだろう。
とにかく“視覚”に訴えるものは情報量が多い。
でも、意外に、想い出すものは少ない。
「この歌に何か想い出でも?」
恵がすかさず聞いてきた。
「ううん。これと言ったエピソードはないんだけど・・・」
丁度、この歌が流行している時に、初めて男性と付き合った。
短大に入学して、すぐの頃だった。
「歌ってね・・・鍵なのよね」
「カギ・・・って、キーの鍵のこと?」
恵が確認してきた。
「そうよ、想い出の鍵ね」
「で、この歌がその鍵で・・・」
恵の顔が少し、ニヤケてくるのが分かる。
(スイッチ入れちゃったかな)
「その鍵で開けたら・・・」
「ど・ん・な、想い出が入ってるのかな・・・まどかさん?」
(言うんじゃなかった)
「だから!これと言ったエピソードはないのよ」
でも、不思議だ。
同じ頃に聞いた歌でも、そこから想い出される内容は異なる。
「鍵には、形がある・・・とでも、言いたいの?」
恵の勘は相変わらず鋭い。
(No.034-2へ続く)
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No.033-2
朝から降り続く雨は、午後になってもその勢いを増すばかりだった。
夕焼けを裏切るかのような激しい雨が続く。
(美沙はどう思うだろうか)
少し、心配になる。
今まで夕焼けになると、次の日、必ず晴れていた。
それは、単なる偶然だけだと思う。
明日の天気は彼女だけではなく、僕にとっての一喜一憂でもあった。
それだけに、彼女と顔を合わせるのをためらう。
(どうしよう・・・・)
今更ながら、確立の話を持ち出そうか・・・迷う。
「美沙・・・今日も晴れだよ」
僕は初めて、美沙に嘘をついた。
「やっぱり、夕焼けは晴れだったよ」
それからも僕は、やさしく笑う美沙の写真に何度も声を掛けた。
『だって、明日、絶対晴れるんだもん!』
かつての美沙の声が聞こえたような気がした。
(これで良かったのかもしれない・・・)
彼女の中では永遠に、“夕焼けは晴れ”のままだ。
(No.033完)
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No.033-1
夕焼けは晴れ、朝焼けは雨・・・。
いつからだろうか。
夕焼けを見ると、最初に頭の中に浮かぶ言葉だ。
「あした、晴れるね」
美沙も同じことをよく口にする。
ある日、美沙に聞いた。
「どうして晴れるのか、知ってる?」
「ううん、知らないけど」
美沙の目が、その答えを求めているように見えた。
「実は、僕も知らないだ」
「な~んだ、頼りにならないわね」
言葉とは裏腹に、笑顔で応えてくれた。
気象的に、確立はそんなに高くないらしい。
本当は、晴れる理由も、雨になる理由も知っている。
「夕焼けを見るとね、元気になるんだ」
「どうして?」
「だって、明日、絶対晴れるんだもん!」
美沙が以前、話してくれた。
彼女にとって、“明日”はそんなに簡単に訪れるものではない。
明日を予感させる、今日の終わりに一喜一憂する。
「ごめん、ごめん。理由は調べておくよ」
「約束ね!」
「分かった。じゃ、また明日来るね」
僕は病室を後にした。
(No.033-2へ続く)
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No.032-2
『これから旅立ちます』
再びメールが入った。
(いよいよか)
『分かった、気をつけて』
『ほな、風呂敷抱えて行ってきます』
(風呂敷ぃ!?また、随分と古風だな・・・)
個性的でもある彼女なら、風呂敷でも“有り”かもしれない。
『貴重品、落とすなよ』
風呂敷のイメージだけで、つい返信してしまった。
『小銭が27円ばかしやから』
(えっ!27円・・・)
『それじゃ、電車にも乗れないよ。どうするの?』
慌ててメールを返信する。
『わて、こんなんやから電車に乗られへんよ』
(もしかして・・・)
違和感が確信に変わってくる。
『そやったね。せいじゅうろうやし』
大阪弁で返してみた。
『そうですな』
(あはは、やっぱりそうか)
『なぁ、菜緒・・・もしかして、最初のメールでなんか忘れてない?』
何となく予想できる。
『わぁー、ごめん』
謝りのメールに、写メが一つ添付されていた。
それには、唐草模様の風呂敷を大事そうに抱えながら、せいじゅうろうが写っていた。
(No.032完)
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No.032-1 [No.007-1]せいじゅうろう
『旅に出ます』
菜緒からメールが入った。
(ん?旅行にでも行くのかな)
『荷物は最小限に』
たった一言の本文に、荷物の絵文字が添えられていた。
(まさか・・・)
心当たりがあった。
今の生活を変えたい・・・そんな想いから、新天地での生活を望んでいた。
“旅”と言うのは、彼女の表現だ。
実際は、引越しを意味している。
『で、どこに、行くの?』
『そうやね、今は何も考えてへんわ』
彼女らしい・・・でも、大丈夫だろう。
そうやって今まで生きて来たのだから。
彼女にしてみれば、生きて行くすべなど、いくらでもあるはずだろう。
辛く険しい道は、彼女にとっては日常だったに違いない。
新しい一歩踏み出す彼女を応援しよう。
今は、ただそれだけだ。
『そっか・・・落ち着いたら連絡して』
『わて、頑張りはるよってに』
一旦、メールのやり取りが途絶えた。
(何だろう・・・?)
何だか、違和感を感じる。
(No.032-2へ続く)
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No.031-2
「気になるわね」
由紀子は何が言いたかったのだろう。
でも、その答えを意外に早く知ることになった。
「私ね、結婚するの」
ただ、由紀子の表情は冴えない。
「彼との結婚が、その“戻りたい瞬間”になるとしたら」
由紀子はあの時の胸の内を話してくれた。
「単なるマリッジブルーよ」
「そうかな」
「そうよ、自信を持って!」
でも、由紀子はまだ迷っている。
これから私が選ぶ道が正しいかなんて、私にも分からない。
それに・・・。
誤った道でもいい。
私も、彼も道を誤りながら、こうやって出逢った。
「私も彼のプロポーズを受け入れようかな」
今なら、なぜか素直になれる。
「もしも、あの時・・・か」
考え始めたらきりがない。
今が幸せなら、それでいい。
(No.031完)
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