No.031-1
『もしも、あの時』
週刊誌の見出しに興味をそそる文字が並ぶ。
これが主題のドラマや小説は少なくない。
誰にでも戻りたいと思う、瞬間があるだろう。
それも、一つや二つではないはずだ。
もしも、あの時・・・。
考え始めたらきりがない。
それに、自分に都合良く考えてしまう。
(きっと・・・こうなんだ、こうなったんだ!)
現実が辛ければ辛いほど、妄想は美化されて行く。
「由紀子はどうなの?」
「なによ!唐突に・・・主語がないわよ」
(いけない・・・)
「ごめん、ごめん。主語は頭の中だったわ」
「もう、早苗らしいけど・・・考えごと?」
由紀子に“もしも”を話した。
「そうね・・・」
「私だって、戻りたい瞬間はいくらでもあるわ。でも・・・・」
由紀子はしばらく黙ったままになった。
「なにか・・・思い出させてしまった?」
「ううん、そうじゃないけど」
否定とも肯定とも言えない返事が帰ってきた。
(No.031-2へ続く)
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No.030-2
「へぇ~、意外ね」
「それで、ブログ始めたんだ」
今の想いを言葉にしたかった。
書くことで、色んなことが冷静に見えてきた。
色々な体験を、小説風に仕立てた。
「聞いていいかな?」
久美が遠慮がちに、こちらを見る。
「どこまでが事実なの?」
(事実か・・・)
「ほとんど事実ならどうする?」
私の言葉に久美は目を丸くした。
「そ、そうなの!じゃ、あの話もそうなのね?」
(あの話?あっ・・・!)
「ちょ、ちょっと!それ誘導尋問よ、ズルい!」
訂正はもうできない。
「でも・・・ほっとしたよ」
久美の雰囲気が急に変わった。
「う、うん・・・あの時はごめんね」
「話は変わるけど、その上司との関係は?」
久美の目が光る。
「単なる上司よ、か・つ・て・の!」
「好きなの?」
「そうね・・・嫌いじゃない」
(悟られないかしら・・・)
「ブログで伝えたら?今の想いを」
(No.030完)
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No.030-1
今でも、かつての上司と交流がある。
社内メール程度の関係でも、随分と私を助けてくれた。
人の心は折れやすい。
折れるきっかけは、人により違う・・・。
どんなに大変な仕事でも耐えてきた。
男性社員が舌を巻くほどに。
人の心は折れやすい。
自分がそうなってから、初めて気付いた。
(いつまで、この苦しみが続くのだろう・・・)
出口の見えない苛立ちは、もっと私を苦しめる。
『近況報告です』
今の心の内を、メールに託した。
しばらくしてから返信があった。
『言葉には意味がある。君が僕に教えてくれたことです』
(私が教えた・・・?)
『書くことによって、見えてくるものがある』
上司の言葉は、私の中の“私”を一瞬にして変えた。
(No.030-2へ続く)
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No.029-2
「懐かしいな」
娘の写真がアルバムからスルリと落ちてきた。
娘は人形を持つと、ご機嫌になった。
そのせいだろうか、娘が成長しても記念写真には内緒でその人形を忍ばせている。
「ねぇ、お母さん・・・ちょっと聞きたいんだけど?」
ある日、娘から電話があった。
「一人暮らし始めた時、写真撮ってくれたよね?」
(懐かしいな)
あの時を思い出す。
(こうやって、母も私と同じことをしたんだよね?)
「人形・・・?さぁ、覚えていないけど」
それからも、時々、電話がある。
あの人形が親子の絆をつないでいるのかもしれない。
目線の先の人形は、いつも微笑んでいる。
たくさんの想い出を抱えながら。
(No.029完)
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No.029-1
「懐かしいな」
部屋の模様替えや片付けを始めると、よくある光景だ。
ついつい手に取るものを、懐かしんだり・・・。
そうなると作業が停滞して、一日が終わることもある。
幼稚園に通っていた頃だと思う。
満面の笑みで写る私の写真が、アルバムからスルリと落ちてきた。
そのせいで、アルバムに見入ってしまった。
「デジカメが良いんだか、悪いんだか」
手軽に写真を写せても、それがほとんど残っていない。
将来、親になり、子供達が懐かしむことができる宝物を残せるだろうか。
(それよりも・・・)
その写真に写る私の手に、人形が握られている。
他の写真にも数枚、隅のほうに写っている。
「覚えてないんだけど・・・それに・・・」
半年前に一人暮らしを始めた頃の写真にも写っている。
それが居たはずの本棚に目を向ける。
「持ってきたことは絶対にないのに・・・」
(No.029-2へ続く)
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No.028-2
「また、メールでも入るんとちがう?」
こうも、あっさり言われると、そう思ってくる。
「それは、あきの意見?それとも女子代表の意見?」
あきは答えなかった。
自信がないと言うより、逆に自信ありげだ。
「ま、連絡が来たら来たで、少し戸惑うかもね」
多少余裕を見せたが、
「うそばっか、嬉しいくせに」
あきには見透かされているようだ。
『元気にしていますか?』
あきの考えが証明された。
数ヶ月ぶりだろうか、紗江からメールが届いた。
まるで何もなかったかのように、何度かメールが行き来した。
「女の子はそんな時があるんよ」
あきの言葉を思い出した。
彼女は何を予感していたんだろう。
(No.028完)
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No.028-1
「それ、私も同じかも」
あきは、あっさり同意した。
紗江と別れた原因には心当たりがある。
でも、実際に別れるほどのインパクトもない。
「あのね、女の子はそんな時があるんよ」
「そうなのかなぁ・・・」
紗江とは1年付き合った。
彼女の全てを知っているとは言えない。
けど、誰にも話したことがないことを、僕にだけ話してくれた。
(自分は特別なんだ)
その自負があったからこそ、絆はそう簡単に切れることはないと思った。
『もう、電話もメールもしません。さようなら』
彼女に何度か連絡を取った最後に送られて来たメールだった。
初めて“後悔”の意味を意識した。
(No.028-2へ続く)
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No.027-2
親しい友達にさえ、
「私、ひまわりが好きなの」
と、言ったこともないし、それらしい物を集めたり、素振りも見せたことはない。
夏も終わりが近い。
今年はまだ、ひまわりは届いていない。
ホッとする反面、気にもなる。
恋愛の駆け引きなら、かなり大掛かりな仕掛けだ。
「私、そんなに想われるほど、魅力ないし」
結局、今年はひまわりは届かなかった。
それは、次の年もまた次の年も・・・。
でも、最後に届いたひまわりは何かを予感するかのように種として残った。
その種は、次の年もまた次の年も色鮮やかなひまわりを届けてくれた。
(No.027完)
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No.027-1
いつからだろう。
夏になると、ひまわりが送られてくるようになった。
送り主は分からない。
新手の詐欺やストーカーまがいの行為とも考えた。
でも、そうでもないらしい。
スッキリしないまま、もう5年が経過した。
「心当たりは?変わったことない?」
最初は心配してた友人も最近では、
「モテるわね~」
と、冗談判断、ひがみ半分と言った態度に変わってきた。
「まぁ、特に何にもないんだし。貰っとけば?」
関心はもうない。
(とは言え・・・)
送り主は?どうして送ってくるの?
解決につながるような手掛かりはまるで無い。
でも、送り主は私がひまわりを好きなことを知っている。
(No.027-2へ続く)
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No.026-2
「これ?エッチだね~」
(いきなり、来たか!もうダメかも・・・)
「違うわよ!」
「じょ、冗談だよ・・・!」
彼が慌てて否定した。
「アルファベットのYとか、道にも見えるね」
(これもいきなり、確信を突くわね)
「道なら、どんな道?」
「それなら、今から行こう」
彼は強引に私を引っ張り出した。
「ど、どこ行くのよ!」
「だから、その答えの場所さ」
確かに“Y”字型の道だ。
でも、これ自体が答えではない。
「この道を見ていると想うんだ・・・」
彼が話し出した。
「別の道を歩いていた二人が、いつか出逢う道・・・」
「それが、僕が出した“Y”の答えだよ」
(No.026完)
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No.026-1
「これ、なんに見える?」
今まで付き合った男性に、必ず質問することがある。
「アルファベットのYだよね?」
(ここまではセーフよ)
「そうだけど、ほら、何かに見えない?この形・・・」
「え!もしかして、アレ?」
彼がニヤリと笑う。
「ち、違うわよ!」
(まぁ、これも予想の内よ)
「ほら、何と言うか・・・“道”に見えない?」
「道・・・?あぁ、分かれ道ね」
これが原因で、別れる訳ではない。
ただ、何となくテンションが下がるのは事実だ。
そうなると、自分でも止めようがない位に、急に熱が冷めていく。
自分が望むべき答え・・・。
その答えを求めて、決断の時をむかえた。
「これ、なんに見える?」
(No.026-2へ続く)
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No.025-2
振り分けられるメール・・・。
それに、一喜一憂したことが懐かしくさえ思える。
誰から届いたか、分かるからだ。
今でも設定は昔のままにしてある。
孝子には、
「もとに戻す方法を知らないんでしょ?」
と、言われたこともあった。
でも、あえてそのままにしている。
届くはずのないメールを待つために。
「ん?」
ケータイのランプがゆっくり点滅している。
(入浴中にメールがあったのね)
メールが2件届いていた。
「また、孝子でしょ。どうせ」
1件はメインフォルダに、そしてもう1件は・・・。
「うそ・・・」
“受信フォルダ8”に、メールが届いている。
(No.025完)
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No.025-1
「機械オンチのあんたにしたら、すごいじゃん」
「それ、ほめてるの、けなしてるの?」
孝子の言葉に、つい反論してしまう。
メールをアドレスごとにフォルダに振り分ける機能。
この機能を使ったことに対する孝子の反応だ。
「そもそも原因は孝子にあるんだよ」
孝子のメールは、ほとんどがグチだ。
(どうせ、いつものグチでしょ)
以前、孝子のメールを見ずに消したことがあった。
それも、フォルダごと。
あの時、誤って彼からのメールも消してしまい・・・。
「だから、自己防衛したのよ」
「それとも、あんたのアドレス、迷惑メールに設定する?」
今の私の精一杯の攻撃だ。
「でも、別れた原因はメールのせいじゃないじゃん」
(No.025-2へ続く)
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No.024-2
(確か・・・この駅だったよな)
ネット上の地図から、あの駅を特定する。
「がっこう・・・学校・・・あった!」
駅の近くに、“音大”と書かれた大学が見つかった。
(多分、これだろうな)
『明日、22時に音大前で待つ』
美紀にメールを送った。
桜並木の見事なキャンパスが、僕らを出迎える、でも・・・。
「ちょっと、遅すぎたな」
そこに、花びらはほとんど残っていない。
花びらが並木道をピンク色に染めている。
「わたしね、この大学に入りたかったの」
それから、その夢が叶わなかった理由も話してくれた。
「だから、今日、本当にありがとう」
「うん・・・桜はちょっと残念だったけど」
「そんなことないよ、ほら」
桜の木の下に、小さな水たまりがある。
そこに、花びらがユラユラただよっている。
水たまりに映る桜は、まるで風にそよぐかのようだった。
(No.024完)
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No.024-1
「今から、駅に向かうよ」
「分かった、僕もすぐに向かう」
「私ね、つらいことがあると、ここに来るの」
美紀の目は赤く、腫れている。
明らかに泣いた跡だ。
つらいことを聞くべきか、ここに来る理由を聞くべきか迷う。
(でも、“ここ”とは何処なんだろうか?)
駅は単なる待ち合わせ場所に過ぎない。
「この周辺に何か想い出でも?」
美紀に聞いてみた。
「小さい頃、住んでいたことがあるの」
でも、その言葉になぜかノスタルジーを感じない。
「この近くにね・・・音大があるの」
美紀はそう言って、寂しそうな表情を浮かべた。
でも、そもそも、夜の学校で何をしていたんだろう。
その涙に、さまざまな想いが駆け巡る。
(No.024-2へ続く)
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No.023-2
いじめ、両親の度重なる離婚と虐待・・・。
他にも彼女が話す内容は、どれも衝撃的な内容だったことを覚えている。
初めて話を聞いた時、同情する自分に嫌悪感を覚えた。
(彼女はそんなつもりで話したんじゃない)
だから、彼女と向き合おうと思った。
「逃げずに、私を見てほしい」
菜緒の瞳の奥から、そんな叫び声が聞こえた気がした。
「ほんま、暑い日やね~。カエルさんは大丈夫かいな?」
『カエルだけに、暑いの苦手やし』
カエルはそう言って、テーブルの陰に隠れた。
ある日、偶然にカエルの名前を知ることになった。
「ご隠居さんは、うちで寝てるねん」
(あのカエルは“ご隠居”と言う名前だったんだ)
手のひらサイズの畳の上に、ご隠居が布団をかぶって寝ている写メが送られてきた。
かたわらには“当時のカエル”にプレゼントした、おもちゃのお菓子が置いてある。
そこには、幸せがいっぱい詰まっていた。
(No.023完)
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No.023-1 [No.007-1]せいじゅうろう
(もしかして・・・)
やはり菜緒が、カエルのぬいぐるみをカバンから取り出した。
見ない振りをすべきか、突っ込みを入れるべきか。
菜緒が初めて、カエルのぬいぐるみを出してきた時は、正直驚いた。
ぬいぐるみ自体ではない。
それを使って、“一人芝居を始める菜緒に”だ。
手作りのようにも見えるそれは、多少色あせた感じだ。
まん丸の体に、服が着せられている。
「カエルさんやで」
彼女の口から、そう聞くまでは未確認生物だった。
『今日、わても暑かったわ』
カエルはそう言って、菜緒が汗を拭くまねをする。
この時点で、だめな人も居るだろう。
単に変わった奴・・・それだけで片付ける人が多いはずだ。
ただ、私には微笑ましくもあり、寂しさも感じる。
(彼女の過去がそうさせているのかな?)
彼女の傷跡をそっと、辿ってみた。
(No.023-2へ続く)
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No.022-2
「おー、見事なもんだね~」
男性社員達が、歓声をあげた。
「さぁ、今日は吐いてもらいますからね!」
(あんた、刑事じゃないんだから)
お酒の勢いもあり、いつになく葵の追求が厳しい。
「みなすゎ~ん、社内一美人の涼子くわぁら、お知らせでぇ~すぅ~」
(ちょっと!涼子、あんた酔いすぎよ)
そのまま、葵は酔いつぶれた。
地上の荒れ具合をよそに、桜は変わらず美しい。
綺麗、お見事・・・桜を称える声が絶えない。
そう・・・でも、見た目じゃない。
「いい香りがするな」
行き交う人ごみの中から、男性の声が聞こえた。
(これだわ!)
その感性に触れた。
(No.022完)
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No.022-1
「で、涼子の好きなタイプは?」
(やっぱり、きたか・・・)
話の流れから、私に振られるのは分かっていた。
「べ、べつに・・・タイプはないわよ」
「あ~!なにか、怪しいぃー!」
(やれやれ、めんどうな展開に・・・)
「好きになった人が、タ・イ・プって、優等生みたいなこと言わないよね?」
葵がこちらをジロリとにらむ。
「もぅー、この手の話題は逃げ場なしよね」
葵が言うようなことはない。
好きなタイプはあるけど、なかなか説明しづらいのも事実だ。
それでも、いざ説明を始めると、
「よくわかなんないよ、芸能人だと誰?」
と、いつしか顔のタイプに話が変わる。
特別、個性的な人が好きなわけじゃない。
けど、自分が想い描く“感性”は言葉にならない。
「ま、いいわ。今度のお花見で徹底追求するわよ」
(No.022-2へ続く)
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No.021-2
「知ってた?」
彼に聞いてみた。
「ああ、結構有名だよ」
あっさり、答える彼にいじわるな質問を続けた。
「じゃ、六分儀座は?」
「ろ・く・分儀座?ろ・くは六?」
(あの時の私と似てるわね・・・ウフフ)
四分儀座を検索すると他に六分儀座、八分儀座があることが分かった。
ちょっと、嘘っぽい気がする。
でも、何となく笑える。
「他に、ないかな?」
更に検索を続けたのを覚えている。
「ほら、町の名前みたいでしょ!」
「一戸とか八戸とか、だね」
彼がすかさず答えてくれた。
毎年、1月が近づくとこの話題になる。
そして、また来年も、この話が出来ればいいな。
(No.021完)
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No.021-1
「し・ぶ・ん・ぎ・ざ・り・ゅ・う・せ・い・ぐ・ん?」
かたことの外人のようなしゃべり方になった。
「り・ゅ・う・せ・い・ぐ・ん、は普通に流星群でしょ!」
康子から、突込みが入った。
しし座流星群は聞いたことがあるし、つられて夜空を見上げたこともある。
(し・ぶ・ん・ぎ・・・ってナニ?)
初めて耳にする、流星群だ。
それとも、知らないのは私だけだろうか。
「やっぱり、流星群って夜空をいろどるスターよね!」
康子の目が、何かを求めている。
「星だけに、“スター”とでも言いたいわけ?」
あえて、その期待に応えてみた。
「そっ!座布団1枚ぃ~!」
(「座布団1枚~」って・・・あんた、ベタにもほどがあるわよ)
康子の話は別にして、少し気になる。
「そうだ、後でネットで調べてみよう」
(No.021-2へ続く)
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No.020-2
「ペンネーム、シリウス奈央さんからのお便りです」
私は、もう一度しゃべりだす前に、一呼吸置いた。
胸に、グッと来るものがある。
本気で人を好きになったと言う事実・・・これが伝わってくる。
「奈央さん・・・」
言葉に詰まる。
「奈央さん・・・聞いてほしい」
私は、自分の想いをマイクを通じて奈央さんに語りかけた。
「どう思う、ナオ?」
「そうね・・・どうかしら」
視線を窓の外にはずした。
行き交う車の光が涙で尾を引くように見える。
「俺は、終わった方?始まった方?」
「え・・・!」
「・・・それでも、人は恋愛を繰り返すものよ」
私は彼に応えた。
(No.020完)
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No.020-1
一つの恋愛が終わった。
そして、気付いたことがある。
恋愛は終わったつらさよりも、付き合っている時の方が何十倍もつらい。
本気で人を好きになること。
目が覚めた瞬間にあなたを想い、眠りに付くとようやく解放される。
(こんなことが、ずっと続くのかな・・・)
ダメになって行く自分との戦いの先は見えない。
一つの恋愛が終わった。
なんだか、ホッとする。
でも、そんな自分が嫌になる。
(No.020-2へ続く)
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No.019-2
「うぅーん、終わったー!」
眼鏡で仕事も悪くない。目の疲れが少ない。
「わぁ、雨降ってるよ。天気予報大当たり!」
恵子が窓の外を見ながら、大急ぎで帰り支度をしている。
(いけない。朝、急いでいたから・・・)
おまけに置き傘もしていない。
でも、外に出てみると、思った以上に雨は降っていない。
「仕方ないなぁ・・・これくらいなら」
とりあえず、歩き出すことにした。
雨が眼鏡に当たり、少しずつ目の前が曇り始めた。
(これならどっちもどっちね)
「少し、急ごう」
でも、そんな時に限って信号に引っ掛かる。
(ここ長いのに!)
赤の信号機をにらみつけるように見た。
「あれ・・・?」
曇った眼鏡越しに、信号機の赤い光がぼんやり見える。
そして、その赤い光を取り囲むように、光の輪が見える。
(幻想的ね)
「眼鏡もたまには・・・悪くないかも」
その光は赤から緑へ変わり、黄色に変わった。
(No.019完)
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No.019-1
(痛っ!)
コンタクトレンズが、たまに合わないことがある。
「どうしよう・・・」
痛みよりも、眼鏡を掛けることの方がつらい。
以前、同じようなことで眼鏡を掛けたら、大笑いされたことがあった。
「えー、なになに?イメチェン?」
それから、自宅でしか眼鏡を掛けないことにした。
(でも、掛けないと見えないし・・・)
極度の近眼で仕事どころか、大袈裟だが歩くこともままならない。
「うぅ・・・もぅ。仕方ないか」
考えていても、仕事は待ってくれない。
嫌々ながらも、眼鏡を掛けて家を出た。
「おやおや?またまたイメチェンかな?」
同僚の恵子がまた、からんでくる。
「ちょっと、気にしてるんだから、言わないでよ」
少し強い口調で恵子に反論する。
「ごめん、ごめん。つい言いたくなっちゃうのよね」
「ハァ・・・憂鬱な一日の始まりにね・・・」
試しに眼鏡を外して、パソコンの画面を見た。明るさだけ感じる。
(No.019-2へ続く)
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No.018-2
「これ、ちくわ・・・だよね?」
「そやで」
その夜、麻奈からメールが来た。
『いつもありがとう』
不思議なことにメールは、標準語の時と大阪弁の時がある。
(今回は標準語みたいだな)
『あのお土産は無難に選びましたが・・・』
(無難・・・って、思いっきり冒険やん!)
俺の方が大阪弁になる。
『次は好みのを探せたらと思います』
(次・・・って、最初が肝心やん!)
大阪弁が止まらない。
涙が出た。どんな想いでお土産を選んでくれたか分かる。
彼女の純粋さが胸に染みる。
「ただ、これ要冷蔵なんだよな」
真夏、しかもしばらく持ち歩いていたことが気になる。
それに、お土産らしく包装するでもない。
でも、そんなところが、彼女らしい。
一口食べてみた。
(大丈夫みたいだし、おいしいぞ!)
「でも、何で知ってたんだろう?」
ちくわが大好物だと言うことを。
(No.018完)
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