[No.010-2]二人の足跡
No.010-2
素直になれない私に、彼は最後までやさしかった。
「振向いてごらん」
彼はそう言って、波打ち際を歩く私の足を止めさせた。
(何があるというの?)
「ねぇ・・・何があるのよ」
少し口調が強くなる。
「自分の足跡・・・って残ってるかい?」
寄せては返す波打ち際には、足跡一つも残っていない。
(これって、私の生き方を否定してるのかな)
「違うよ」
私の心を見透かしたように彼は応えた。
足跡は確かに残っていない。でも、今立っているこの場所には、深く足跡が残っている。
ただ、歩き出せば途端に消えてしまう。
「そんな生き方もある」
彼は力強く言い放った。彼は私の過去を少なからず知っている。
だから、そう言ってくれたのかもしれない。
それから、二人で黙って歩いた。
いつしか波はおだやかになり、二人の足跡がいつまでも続いた。
やがて、それは二つに別れ、一つはそのまま真っ直ぐに、もう一つは見守るようにそこで途絶えた。
(うん・・・歩こう!)
もう一度、立ち上がる。あの日から続く足跡の先に、私が居る。
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