[No.010-1]二人の足跡
No.010-1
辛いことがあると、いつもこの海を訪れる。
特に何かをするわけでもなく、ただ、波打ち際を素足で歩く。
足に伝わる独特の感触が心地よい。
だからこそ、前に向かって歩き出す・・・そんな勇気を与えてくれる気がする。
幼い頃の個性は成長するにつれ、単に“気の強い女”と片付けられるようになった。
仕事では男性的な仕事振りが評価されても、女子社員の間では浮いた存在だ。
「静かね・・・」
風のささやきは、潮の香りを感じることで聞こえる。
映画のワンシーンのような水平線は、夕日がなごり惜しそうに私を照らしている。
めまぐるしく変わる波打ち際の表情は、どことなく私に似ている。
「イタッ!」
急いで、足の裏を確認した。何かを踏んだようだ。少し血が滲んでいる。
(なによ!もう・・・あはは)
苛立ちがすぐに、笑いに変わった。
「ちょっとしたトラブルも私らしい・・・のかな」
足に少し痛みが走る。
(少し休もう)
風のささやきは、いつしか肌に感じる冷たさで聞こえる。
半年前に別れた彼と一度だけ、ここに来たことがある。
別れはこの場所でもあった。
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