[No.006-2]4つのシリウス
No.006-2
「あの星座は何だか分かるかい?」
雅宏は、唐突に夜空に一際輝く一つの星を指差した。
「もう!冗談言わないでよ。あんなの科学館に来る子供なら誰でも分かるわよ」
綾は、あまりにも簡単な質問に、半分怒ったような口調で答えた。
「おおいぬ座・・・シリウスだよ。私があなたに最初に教えたの、忘れた?」
「ちょっと・・・違うかな」
「違う・・・?」
「あの星座は“涙でぼやけた2つのシリウス”だよ」
雅宏はまじめに答えた。
「シリウスを教えてくれた時、綾は泣いていたよね?その時、僕は夜空じゃなくて綾の瞳に映るシリウスを見ていたんだ」
雅宏は思い出すように、ゆっくり話した。
「ちょっと・・・違うかな」
今度は綾が答えた。
「え!・・・違う・・・?」
さっきとは逆のパターンの会話が続く。
「あの星座は“未来に続く4つのシリウス”だよ」
綾もまじめに答えた。
「あの時、世界で二人だけが夜空を見上げていたような気がしてた。雅宏と私の4つの瞳だけが、シリウスを見ていたよ」
「あの時のシリウスは未来に続いたかい、綾?」
「うん。こうしてまたシリウスを見ている。これが答えだよ」
あの時と同じように、もう一度、4つの瞳にシリウスが輝いている。
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