[No.006-1]4つのシリウス
No.006-1
夜空には星が輝いていることを覚えているだろうか?
雅宏もそれを忘れていた。前を向いて生きることは、むしろポジィティブ志向として歓迎される。
ただ、前を向きすぎて見えなくなるものも多い。
「今日も綺麗ね」
綾は、夜空を見上げてつぶやいた。
雅宏と綾は市営の青少年科学館で知り合った。
姉の息子を科学館に連れて行った時、同じように綾も女の子の手を引いていた。知り合うきっかけは、その子供達が作った。
「そうだね。目線を少し上げるだけで星の輝きを見ることができるのに、人はそれを忘れてしまうよね」
雅宏も夜空を見上げる。
「そうね」
綾は短く答えた。
「綾はどうして、星が好きになったんだい?」
(そう言えば、聞いたことがなかったよな・・・)
雅宏は思い付きで頭に浮かんだセリフを口にして、綾の答えを待った。
「寂しかったのかな・・・?」
どれ位待っただろうか。綾は誰かに問いかけるように口を開いた。
「寂しかった?」
雅宏は思わず聞き返してしまった。意外な答えと言うより、彼女の知らない過去に触れたような気がしたからだ。
「う・そ・よ!もう、まじめな顔しないでよ」
綾はおもいっきりの笑顔で答えた。ただ、雅宏はそう思えない理由があった。
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