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2009年2月

[No.004-2]パンドラの箱

No.004-2

「あっ・・・雨」
“天気予報”は当った。占い師ではなくても、私だって当てることはできる。
と、同時に携帯の着信音が鳴った。こんな時間に会社から電話だ。
「あ・・・はい、水島です」
「何やってんだ!吉田商事様からサンプルが届いていないと苦情が入っているぞ!」
夜の街に響かんばかりの佐々木部長の怒鳴り声だ。
(あっ!しまった)
「申し訳ございません。うっかり・・・」
「ばかやろう!言い訳する暇があったら、今すぐにサンプルを届けてこい!」

それからも、占いで告げられた“悪いこと”が2、3日続いた。
さすがに、占いの結果を信じずにはいられない。私はあの占い師が居た、商店街の片隅へ向かった。
そこに占い師の姿はなかった。
「そんなに都合よくいかないか」
期待していただけに、ショックも大きい。

「いぃ、い、居ないのか・・・?」
見知らぬ男性が息を切らせながら、つぶやいた。直感的に、占い師を探しているように見えた。
「占い師をお探しですか?」
私は声を掛けてみた。彼は多少、驚きの表情で小さくうなづいた。

(水に注意と出ています)
「え!」
「どうした・・・今日子?」
「うんん・・・聞き覚えのあるセリフが耳に入ったから、ちょっとね」
道の片隅で占い師が女性を相手にしている。

(No.004完)
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[No.004-1]パンドラの箱

No.004-1

「水に注意と出ています」
(天気予報で、夜、雨の確立80%って言ってたけど)
「仕事でトラブルが起きそうです」
(仕事してたら、多少のトラブルが無いことのほうが珍しいと思うけどなぁ)
「近々、悲しいことがありますよ」
(近々って、いつ?そりゃ、小さいことまで含めたら、一つや二つあるのが普通でしょ)

それからも当たり障りのない結果ばかり続いた。それも悪いことばかり。
(こんなの素人の私だって言えるわよ!それに何なの、暗い話ばかりじゃない!)
「恋愛・・・」
「わ、わかりましたから!もう結構です」
あまりにもベタな内容に、これ以上結果を聞く気にもならず、思わず話をさえぎった。それでも、構わず占い師は話しを続けた。
「恋愛のことですが・・・」
「“運命的な出逢いがある”と、出ましたか?」
私は少し嫌味っぽく応えた。
占い師は、顔色一つ変えずにこう言った。
「近い将来、運命的な出逢いがある」
(そら、きた。あのね、だから近い将来っていつなのよ!運命的な出逢い?どうやって判断するのよ!)

「だから占いって・・・こんなのばかり!!」
足早にその場を離れ、はき捨てるように、つい言葉が出てしまう。

(No.004-2に続く)

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[No.003-2]過去へのゴミ箱

No.003-2

(誰なの・・・!?)
会場内を目だけで追う。
試験会場に知り合いは居ないはずだ。
でも、その伝言は、頬の痛みとは裏腹に、私の心を刺激した。
(そうだ、私には夢があったんだ!)
『もし、タイムマシンがあったら、未来の自分にお疲れ様と言ってあげたい。きっと、イベントプランナーとして、成功していると想う。幼くして、母を亡くし、父の苦労も相当だった。
そんな父のためにも、一人前の社会人として頑張っている自分にエールを送りに行きたい・・・』
何とか、終了時間の11時までに、書き上げることができた。

皮肉なことに入社試験に落ちたことで、私の夢は叶った。
こうして、イベントプランナーとして活躍している。時々、あの時を思い出し、“夢は何?”と、同じ伝言を書いてしまう。

「陽子・・・陽子ったら!何、ボケッとしてるのよ!会議に遅れるよ」
「ごめん、亜紀。今、行くから」
私は、その紙の切れ端を丸めて、ごみ箱へ投げつけた。
「ん?入ったような、外れたような・・・まぁ、いっか」
(もうすぐ11時になっちゃう・・・急がないと)
私は足早に会議室へ向かった。

(No.003完)
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[No.003-1]過去へのゴミ箱

No.003-1

“タイムマシンがあったら何をしますか?”

あの日、私は入社試験の渦中にいた。
試験と言っても、問題はこれ一つだけしかなかった。
(タイムマシンがあったら・・・か・・・)
彼に別れを告げられたあの時、母を病気で亡くしたあの日、「ごめんなさい」と言えなかったあの瞬間・・・。

(やだぁ・・・過去のことばかり)

タイムマシンは未来にも行けるのに、どうして過去へ戻ることばかり考えるんだろう。
(やり直したいの?後悔してるの?そんなんじゃないけど・・・)
何もかも中途半端な今の私には、未来どころか今、ここに居る意味すら分かっていない。

「イタっ!」
私の右の頬に何かが当たった。
それはそのまま、試験用紙の上に転がり落ちた。
(もう、なによぉ!)
紙の切れ端を丸めたような、塊だ。学生時代によくやる例の伝言?のようだけど・・・。
一応、紙を開いてみる。そこにはこう書かれてあった。

“夢は何?”

(No.003-2に続く)

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[No.002-2]非常階段のシンデレラ

No.002-2

「僕らを見ていたんだ・・・」

うなだれるように、視線を足元に落とした。
(何か書いてある?)
階段に彫ったような跡がある。それを目で追う。
「・・・0・・・8・・・0・・・6・・・」
この後に7桁の数字が続いている。
「ケータイの番号!?」
なぜだか分からないが、この数字は彼女のケータイの番号だと決め付けた。
そう思い込むと、行動を起こさずにはいられない。

5度目のコールの後、電話がつながった。
「・・・。・・・」
言葉に詰まる。それ以前に彼女のケータイかどうかもわからない。
不安が強まり、ますます言葉がでない。
「あなたを見ていた」
先に向こうから、話かけてきた。
「えっ!・・・」
返事を返す間もなく、電話は切れてしまった。これ以降、2度と電話が繋がることはなかった。

卒業式の帰り、僕はもう一度この場所に座った。
「あの時・・・以来だな」
2年前と何も変わらない景色が広がる。
ただ・・・ただ一つ“卒業おめでとう”と彫られた文字が増えたのを除いて。

(No.002完)
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[No.002-1]非常階段のシンデレラ

No.002-1

彼女は教室の窓から見える非常階段にいた。
屋上から数えて2段下がった、いつもの場所に座っている。
その彼女が同じクラスだと言うことを、入学してから随分後になってから知った。
僕が知る限り、彼女は一度も教室に来たことはない。
登校すると、そのまま非常階段に直行し、いつも12時頃に消えてしまう。

“非常階段のシンデレラ”

いつしか彼女は、皮肉めいたあだ名で、そう呼ばれるようになった。

「退学した」

担任は、たった一言だけ告げた。一瞬、教室の時が止まる。だが、再び動き出すのにそう長い時間を必要としなかった。
(向こうからは何が見えていたんだろうか・・・)
担任の一言は僕を非常階段へと向かわせた。

彼女と同じ場所に座る。
僕の教室が見える。いや・・・正確には僕の教室しか見えない。
階段を一歩下がっても上がっても、周りが邪魔をして向こうがよく見えない。

(No.002-2に続く)

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[No.001-2]グリーティングカード

No.001-2

『達也、誕生日おめでとう!
去年は直接言えたけど、今年は言えなくてごめんね。このカードはね、24歳の誕生日に届くように書いたんだ。
達也と出逢って、しあわせだった。いっぱい話せた、話してくれた。勇気と元気をもらったよ。
でも、返せなくてごめん。本当なら、このカードは届かないで欲しい。
もし、このカードを達也が読んでるなら、私・・・もう、この世にはいないよ。
ずっと、ずっといっしょに、いたかったのに。
ううん、病気に負けたんじゃない。私、うんと頑張ったよ!』

「玲奈・・・!?」
思いがけないメッセージに、達也は崩れるように泣いた。
ケータイにボロボロと大粒の涙が、ひとつまたひとつこぼれ落ちた。
涙でローソクの炎がやけに幻想的に見える。

「玲奈・・・俺のケータイ防水じゃないよ・・・アハハ・・・」
達也は力なく、少しふざけたように笑った。
すると、まるでそれを見ていたかのようなタイミングで、次のメッセージが表示された。
『達也・・・それ、つまんないよ(笑)』

達也はケータイを、強く抱きしめた。

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[No.001-1]グリーティングカード

No.001-1

メールの受信音が鳴った。
「今頃、誰だろう?」
たった今、深夜0時を回ったところだ。

達也は手馴れた操作でケータイのメールを確認する。
どうやら、グリーティングカードが届いたことを知らせるメールのようだ。
差出人は、“天使”となっている。

「天使?迷惑メールか・・・」
多少、警戒しながらも配信先のアドレスをクリックした。
白いケーキ、ロ-ソク、おめでとうの文字・・・・が次々に表示されていく。

「誕生日のカード?」

今日は達也の24歳の誕生日だ。天使と名乗る誰かが送ったものらしい。
アニメーションが終わると天使からのメッセージが表示された。

(No.001-2に続く)

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