カテゴリー「(031)小説No.751~775」の50件の記事

[No.775-2]私は代表者

No.775-2

「午後から練習だって」

私としては、現場に申し訳ない気持ちがある。
毎日遅くまで仕事している人のことを考えると・・・。

「だから、冷めてるの?」

当然、現場も私と同じ気持ちだと思っていた。
ところが・・・。

「・・・みんな、応援モードでさ」
「冷めていたのは、私を含めて、わずかな人だけ」

私としては“現場の代表”のつもりでいた。
現場に代わって物申す、ちょっとしたヒーローを気取っていた。

「その時、気付いたんだ」
「なんて私は心が貧しい人間かと・・・」

その自己嫌悪たるもの・・・最悪だった。

「それに、みんなも“きっとそうだ”なんて・・・」

勝手に他人を巻き込み、その代表者のようなつもりでいた。

「私だって、決して“ゼロ”じゃない」
「ただ、同じ会社の仲間じゃん!」

それにサボっているどころか、会社に貢献している。
会社の知名度も信じられないくらい上がってきた。

「だから、一緒に応援しようよ」
「うん・・・そのつもり」

勝っても負けても、精一杯応援したい。
S775
(No.775完)
読み終えたら、クリックして頂けると、励みになります。
ブログランキングへ
 ブログランキングへ にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ web拍手 by FC2

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

[No.775-1]私は代表者

No.775-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「ハァ・・・・」

自己嫌悪に陥ったことは何度もある。
けど、今回ほどは酷くはなかった。

「どうしたの?さえないため息ね」

普通、ため息は“さえない”時に出る。
そう言い返したいけど、そんな気にすらならない。

「まぁ・・・ね」
「今日は特に重傷じゃない?」

それは当たっている。

「彼が居ないから、ふられたわけでもなさそうだし・・・」

いちいち気にさわることを言う。
早めに理由を話したほうがよさそうだ。

「・・・さん、知ってる?」
「もちろん!今、旬の人じゃない!?」

会社に、サークル程度のテニス部がある。
そのテニス部の人が、全国大会に出場することになった。

「凄いよね!」

創立以来の出来事に、会社をあげて応援することになった。
でも、個人的にはどうしても応援する気にはならなかった。

「どうして?」

現場は、一年で一番忙しい時期に突入している。
猫の手どころか、“何の手”でも借りたいほどに。

「それはそうだけど・・・」

会社も前面的に、バックアップすることになった。

(No.775-2へ続く)

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

[No.774-2]ひまわりとセミ

No.774-2

「ほら、見てん・・・」
「・・・セミだよね?」

多分、死んでいる。
ひっくり返ったような体勢で、ピクリとも動かないからだ。

「まだ、夏が始まったばかりやのに」

対照的だった。
どちらも、夏の代表的な風物詩だ。

「ひまわりはいきいきしてるのにな」

一方、セミはその短い生涯を終えた。

「悲しいね」

そう言うと、拝むかのように手を合わせた。
つい、僕もそれにつられる。

「これでよし!」

そう言うとその場から立ち上がり、ひまわりを見つめる。

「セミの分も生きなあかんで!」

ひまわりの茎を小突いた。

「・・・だよな!」

彼女は、かつてそのセミだった。
けど、今はひまわりとして生きようとしている。
S774
(No.774完)
読み終えたら、クリックして頂けると、励みになります。
ブログランキングへ
 ブログランキングへ にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ web拍手 by FC2

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

[No.774-1]ひまわりとセミ

No.774-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「いきいきしてるやん!」

通りすがりの道端に、ひまわりが植えられていた。
皆、太陽を見つめるかのように咲いている。

「黄色がまぶしいな」
「せやね」

まるで黄色のお手本のような色鮮やかさだ。
虫じゃなくても、つい近寄りたくなる。

「これなんか、うちより背が高いやん・・・」

そういうと、その場で軽くジャンプをした。

「それでも、負けてるし!」
「・・・だな」

よほど悔しかったのか、そのひまわりに“ガン”を飛ばす。

「まぁ、ゆるしてあげたら?」
「せやね・・・」

そう言うと、葉っぱに手をかけた。

「なにしてるの?」
「仲直りの握手!」

この際、手ではないことは気にしないでおこう。

「・・・あれ?」
「どうした?」

急にその場にしゃがみこんだ。

(No.774-2へ続く)

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

[No.773-2]思い出の品

No.773-2

「小さい頃に遊んだボールなの?」
「多分な・・・」

遊んだ記憶はあっても、そのボールだったかは覚えてない。
ただ、わずかながらその痕跡が残っていた。

「痕跡?」
「あぁ、とっても分かりやすい痕跡が・・・ね」

マジックで書かれたであろう文字がうっすらと残っていた。
たった一文字だけ。

「それって・・・」
「思ってる通りだよ」

そこには僕の名前が書かれていたのだろう。
最初の一文字だけが何とか読み取れた。

「昔はそんな習慣があったよね」

そのお陰で、捨てられずに済んだのかもしれない。

「両親に感謝ね!」
「で・・・そのボールは?」

持ってこようかとも考えた。
けど、そのまま物置に置いてきた。

「せっかくの思い出の品じゃん?」
「だからこそ、置いてきたんだよ」

もちろん、僕にとっての思い出の品だ。
でも、それは同時に両親の思い出の品でもある。
S773
(No.773完)
読み終えたら、クリックして頂けると、励みになります。
ブログランキングへ
 ブログランキングへ にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ web拍手 by FC2

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

[No.773-1]思い出の品

No.773-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
壁に、いい感じの段差があった。

「それって、今で言う“おひとり様”?」
「まぁ・・・そうだね」

向かいの壁にボールを投げる。
その跳ね返ってきたボールをキャッチする。
ひとり遊びの定番だった。

「壁に段差があって」
「そこに当たると、色んな角度で戻ってくるんだよね」

“フライ”もあれば、“ゴロ”もある。
変化に富んだ動きが、子供心を刺激した。

「へぇ~なんだか面白そうね!」
「例えば・・・ほら!あんな壁とか」

理想的な壁だ・・・1cm程度の段差がある。

「確かにこれなら、どんな動きをするか読めないわね」
「だろ?」

日が暮れるまで夢中で遊んだ。

「何で今頃、思い出したの?」
「先日、実家に帰った時・・・」

物置を片付けている時に、ボールを見つけた。
見るからに古いものだった。

(No.773-2へ続く)

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

[No.772-2]仕事終わりの・・・

No.772-2

「・・・楽しみ?」

札幌からだと空路を使うしかない。

「まさか、飛行機に乗るのが楽し・・・」
「子供じゃあるまいし・・・違うわよ」

その楽しみは、最後の最後に訪れる。

「最後に・・・?」
「そう!東京を離れる最後にね」

商談が上手くいったとしても、いかなかったとしても・・・だ。
それは東京出張における一種のルーティンとも言える。

「・・・ということは空港だよね」
「そういうこと!」

緊張の糸が切れ、良くも悪くも身軽になる。
半面、いろいろな意味で喉の渇きもある。

「それって、もしかして・・・」

同僚が右手を“グー”の形にして、“クイッ”とそれを上に動かした。

「あったりぃ~!」

普段は付き合い程度しか飲まない。
飲めないわけではなく、飲みたい気分にならないからだ。

「でも、その時だけは無性に飲みたくなるのよね」

自分を自分で労っている・・・そんな感じだ。
仕事終わりのビールとシュウマイで。
S772
(No.772完)
読み終えたら、クリックして頂けると、励みになります。
ブログランキングへ
 ブログランキングへ にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ web拍手 by FC2

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

[No.772-1]仕事終わりの・・・

No.772-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「クゥ~きくねぇ・・・」

思わず声が漏れた瞬間、周りの男性の視線が集中した。

「昨日はお疲れ~!」

同僚が開口一番、労いの言葉をかけてくれた。

「うまくいった?」
「もちろん!」

商談のために、昨日、東京に出張していた。

「けど、いいわよね~」
「またその話・・・」

いつも東京への出張を羨ましがる。

「遊びに行ってるわけじゃないんだから・・・」
「でも、話題の店とかには行ったんでしょ?」
「あのね・・・」

全くその気がないわけじゃない。
けど、時間があるようでないのが現実だ。

「えっ!?そうなの・・・つまんない」

話題の店どころか、食事さえままならない。
大切な商談の前は、いつもそんな感じだ。

「あら・・・案外大変なのね」

そんな中でも、密かな楽しみを持っている。

(No.772-2へ続く)

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

[No.771-2]エチケットブラシ

No.771-2

「特に男子なんてさぁ」

女子以上に気にしていた。

「分かる分かる!」
「ほんと色気づいちゃって」

もちろん、女子だって色気づいてはいた。
けど、女子はもっと前からだ。

「暇さえあれば、ブラシでゴシゴシ・・・」

一体、何を期待しているのかと思うくらいだ。

「あれで、もてるとでも思ってたのかしら・・・」
「当時はそれがオシャレのひとつだったんじゃない?」

今、振り返れば可愛いと言うか・・・。

「けどさぁ、それはそれで懐かしいよね」

丁度、異性を意識し始めた時期でもある。
男子の行動は、良くも悪くも刺激にはなった。

「中学生の時、彼氏は?」
「居るわけないでしょ!?」

居るほうが珍しかった時代だ。

「まぁ、私もだけど・・・」

そんな男子達を冷ややかな目で見ていた。
けど、その中の一人だけは違っていた。
S771
(No.771完)
読み終えたら、クリックして頂けると、励みになります。
ブログランキングへ
 ブログランキングへ にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ web拍手 by FC2

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

[No.771-1]エチケットブラシ

No.771-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
懐かしいものを目にした。
もしかしたら、中学生以来かもしれない。

「エチケットブラシ!?」
「そう!久しぶりに見たよ」

ぼんやりとネットを見ていた時、それが目に入ってきた。

「懐かしいね~」

今でも現役で売られている。
だから、レトロな商品というわけではない。
むしろ、進化しているようだった。

「よく使ってたよ」
「私も」

学生服の素材の影響もあるだろう。
とにかく、小さなホコリが付着する。

「気になるよね~」
「そうそう!一度、気になり始めたら・・・」

とことん取らないと気が済まなくなる。

「でも・・・」
「思うほど取れないでしょ?」

効果がないわけじゃない。
けど、すっきりするほど綺麗には取れない。

(No.771-2へ続く)

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧

その他のカテゴリー

(000)お知らせ (001)小説No.001~050 (004)小説No.050~100 (004)小説No.76~100 (005)小説No.101~125 (006)小説No.126~150 (007)小説No.151~175 (008)小説No.176~200 (009)小説No.201~225 (010)小説No.226~250 (011)小説No.251~275 (012)小説No.276~300 (013)小説No.301~325 (014)小説No.326~350 (015)小説No.351~375 (016)小説No.376~400 (017)小説No.401~425 (018)小説No.426~450 (019)小説No.451~475 (020)小説No.476~500 (021)小説No.501~525 (022)小説No.526~550 (023)小説No.551~575 (024)小説No.576~600 (025)小説No.601~625 (026)小説No.626~650 (027)小説No.651~675 (028)小説No.676~700 (029)小説No.701~725 (030)小説No.726~750 (031)小説No.751~775 (032)小説No.776~800 (033)小説No.801~825 (034)小説No.826~850 (035)小説No.851~875 (036)小説No.876~900 (037)小説No.901~925 (038)小説No.926~950 (039)小説No.951~975 (040)小説No.976~1000 (041)小説No.1001~1025 (042)小説No.1026~1050 (043)小説No.1051~1075 (044)小説No.1076~1100 (045)小説No.1101~1125 (046)小説No.1126~1150 (047)小説No.1151~1175 (048)小説No.1176~1200 (049)小説No.1201~1225 (100)通信No.001~100 (101)通信No.101~200 (102)通信No.201~300 (103)通信No.301~400 (104)通信No.401~500 (105)通信No.501~600 (S01)せいじゅうろう