カテゴリー「(030)小説No.726~750」の49件の記事

[No.750-2]叶えてあげる

No.750-2

「実は・・・」

小学生の頃、夏休みの宿題に自由研究があった。

「俺もあったよ」
「でね・・・」

空き箱を利用して、何かを作ろうとした。

「何かって?」
「それが、いろいろ考えるけど、結局何も出来なくて」

そもそも思い立っても、肝心の空き箱がない。
だから、無理矢理に空き箱を作ることが多かった。

「母親に頼んでさぁ・・・中身を取り出したりしてた」

でも、そんなに都合よく箱が揃わない。
結局、何も作れずに終わる。

「それが毎年、続いて・・・」

たかが小学生のすることだ。
普段から空き箱を準備するほど、用意周到さはない。

「その反動が出てるんだよね、きっと」

気付けば、空き箱をとっておくことが習慣になった。

「けど、さすがに工作はしないだろ?」
「うん、多分・・・というより、絶対しない・・・でも・・・」

くどいようだけど、捨てられない。

「仕方ないなぁ・・・」
「昔の“何か”を叶えてあげるよ、時間はたっぷりあるんだし」

S750
(No.750完)
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[No.750-1]叶えてあげる

No.750-1

登場人物
女性=牽引役  男性=相手
-----------------------------
「・・・これって、空き箱だろ?」
「そうよ」

彼に引越しするための荷造りを手伝ってもらっていた。

「捨てても・・・いいよね?」

もともとそのつもりで彼を呼んだ・・・はずだった。

「ちょっと待って!」

捨てられない性格ではない。
その証拠に、目の前には捨てる物が仕分けられている。

「いるの!?」
「・・・う、うん」

私の反応に彼が不思議な表情を浮かべる。

「・・・珍しい箱じゃないよな?」

単なる石鹸の外箱だ。
ブランドものでも、お土産の品でもない。

「集めてるの?」

確かにこれだけの数になると、そう思われても仕方がない。

「集めているわけじゃないんだけど・・・」

いまだに捨てることをためらってしまう。

「・・・他にも色んな箱があるよね?」

その通りだ。
他にも何の変哲もない空き箱がたくさん転がっている。

(No.750-2へ続く)

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[No.749-2]ボロボロの本

No.749-2

極力、自然に話題を振ったつもりだった。
けど、感づかれているかもしれない。

「ほら、イマドキの子にしてはさぁ・・・」

お世辞にも、ボロボロの参考書は“カワイイ”とは言えない。
いくら勉強のためだとは言っても。

「多少、見栄えを気にするだろ?」
「まぁ・・・ね」

だから、その姿勢に感動すら覚えた。

「そうなんだ」
「好きになっちゃいそうだよ」

もちろん、本気で言ってるのではない。
けど、冗談でもない。

「これって新手の告白?」
「・・・」

やはり、感づかれているようだ。

「確か、同じ電車だったよね?」
「・・・高校の時」

学校は違えども、同じ電車だった。
毎朝、彼女と同じ車両に居た。

「だから“久しぶり”だったんだ」
S749
(No.749完)
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[No.749-1]ボロボロの本

No.749-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
(ええっ・・・)

イマドキの女子高生が持ってるだけにそのギャップに驚いた

「参考書?」
「うん・・・多分、英単語の本だと思う」

昨日、電車の中でひとりの女子高生に目が行った。

「それがさぁ・・・ものすごく使い込まれてて」

一言で言えば、ボロボロの状態だ。
本なのに、磨り減った感が半端ない。

「久しぶりに見たよ、あんなの」

もちろん、使い方が荒いわけではない。
彼女の勉強ぶりを見れば分かる。

「・・・熱心に勉強してた?」
「そりゃ、食い入るようにな」

ボロボロの程度は、努力の裏返しでもあるだろう。

「参考書も幸せね」
「だろうな」

参考書にしてみれば、本望だろう。
ここまで、使い込まれたのだから。

「・・・ところで、なんでこんな話をしたの?」

(No.749-2へ続く)

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[No.748-2]スーツの悲鳴

No.748-2

「ほら、最初に買ったスーツってさぁ・・・」

いわゆるリクルートスーツだ。
母と一緒に買いに行った。

「そうね・・・クローゼットに眠ったままね」
「私も同じよ」

無難と言えば無難なスーツだ。
ただ、色々な意味で似合わなくなっていった。

「半年も過ぎれば、もう新入社員じゃないからね」

着慣れないスーツが武器になるのも半年間だ。

「それもあって自分に似合うスーツに買い換えたからね」

聞こえは良いが事実は違う。

「何キロ?」
「私は5キロ・・・」

同僚は同僚で、指を4本立ててみせた。

「・・・だよね」

私たちの場合、新入社員時の心労はマイナスに働いた。

「だから逆にスーツが似合うようになったんだけどね」
「それは言えてるね」

良く言えば、貫禄が出てきた。

「でも、スーツは悲鳴を上げているだろうな・・・」
S748
(No.748完)
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[No.748-1]スーツの悲鳴

No.748-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「そんな季節だね」
「だよね!」

真新しいスーツに身を包んだ若者が増えてきた。
まだ、スーツに“着せられている”感じだ。

「・・・そう言えば、まだ持ってる?」
「えっ!?」

彼と別れたのも今の時期だ。
就職したことも、その引き金のひとつになった。

「うん・・・捨てられなくて」

彼との思い出の品を捨てられない。
もう、5年が過ぎようとしているのに・・・。

「そうなんだ・・・知らなかった」

だから、今でも次の恋に進めないでいる。

「・・・けど、今、そんな話してるんじゃないよ」
「えーーー!」

穴があったら入りたい気分だ。

「“入社した頃に着ていたスーツ持ってる?”って聞いたの」
「主語はちゃんと言おうよ・・・」

必要がないカミングアウトだった。

「ごめん、ごめん!」

言葉とは裏腹に、お詫びの姿勢は感じられない。
むしろ、顔は笑っている。

(No.748-2へ続く)

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[No.747-2]ショートヘア

No.747-2

「それより、よく気付いたね?」
「だって、あれだけバッサリだと・・・」

気づかない方が無理だと言ってもいい。

「朝、見かけた瞬間に“あっ!”と声が出たくらいだよ」
「ふ~ん・・・」

ただ、その場で、あれこれと聞くことは出来なかった。

「とにかく・・・ショートもいいかもね」

今まで、あまり気にしたことはなかった。
あらためて、その魅力に気付いた。

「“ショート”の魅力じゃなくて、“彼女”の間違いじゃない?」
「かもな!」

今朝は、そんな男性社員で溢れていた。

「ふ~ん・・・」
「・・・何だよ」

さっきから、気のない返事が返ってくる。

「もともとショートの人は、気付いてもらえないのよね」
「どういう意・・・!?」

言い終わる前にあることに気付いた。
S747
(No.747完)
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[No.747-1]ショートヘア

No.747-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「・・・ほんとバッサリでさぁ」

もともと髪が長かったこともあり、よりインパクトを感じた。

「そんなに?」
「あぁ・・・別人みたいだったよ」

もちろん、悪い意味ではない。
それはそれで似合っていた。

「ショートもロングも似合うなんて羨ましいね」

確かにそうだ。
ショートにするにはそれなりの覚悟が必要だろう。

「失恋でもしたのかな?」

とは言え、そんな雰囲気は微塵も感じなかった。

「男って、すぐそう考えちゃうよね・・・」
「単なるイメチェンよ、きっと」

多分、なんの根拠もないだろう。
ただ、同性の言葉だけに、妙な説得力がある。

「そうなの?」
「そろそろ春も近づいてきたからね」

まるでファッションの一部のような発言だった。

(No.747-2へ続く)

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[No.746-2]100円スリッパ

No.746-2

私ならプライベートとは言え、履きたくない。
色もデザインも、はっきり言ってダサイ。

「・・・こんな趣味だった?」
「ううん、全然」

その通りだと思う。
彼女の“ピンク色好き”は随分前から知っていた。
実際、今もピンク色で目が痛い状況だ。

「それならどうして?」

スリッパなら他にもたくさんあった。
それこそピンク色の物も。

「ほら、先月、ハワイにいったじゃん」

気ままな一人旅だと聞いていた。

「その時にね、ホテルの部屋で履いてたんだ」

その時、100均で買ったスリッパを持っていったらしい。
旅行なら懸命な選択だ。

「捨てて帰ってくるつもりだったんだけど・・・」
「なんだか、捨てられなくて」

ホテルとは言え“ハワイの地”には変わりない。
それを踏みしめたスリッパに、愛着を感じたらしい。

「う~ん、理解しがたい話ね」

私も同じ経験をすることを、この時は知らなかった。
S746
(No.746完)
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[No.746-1]100円スリッパ

No.746-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「気を遣わないでいいのに・・・」
「えっ!?なにが・・・」

友人の家に遊びにきた。

「なにがって、これよ」

足元を指差す。

「・・・スリッパ?」
「うん」

貸してくれたのが、もの凄い高級品とは言わない。

「これがなに?」

けど、少なくとも友人の履いている物よりは格段に良い。

「落差がありすぎない?」
「そう?」

なかなか会話が進まない。

「まぁ、別にいいならいいけど」

どこをどう見ても安物だとわかる
その薄さと、何ともやる気のない作りがそれを物語っている。

「気を遣っているわけじゃなくて」
「好きで履いてるの」

(No.746-2へ続く)

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