カテゴリー「(027)小説No.651~675」の50件の記事

[No.675-2]忘れてたから思い出す

No.675-2

「“忘れてた”ってことよね?」
「あっ・・・」

友人も驚きを隠せないようだ。

「今まで考えたこともなかったよ」
「私もよ」

思い出すのは、忘れていた証拠でもある。
あえて“悪者”にしようとは思わないけど事実だ。

「だから、忘れちゃいけないこともあるよね・・・きっと」
「でも、忘れなきゃいけないこともあるよね?」

どれくらいの時間だろうか・・・しばらく沈黙が続いた。

「仕方ないよ・・・引き出しの数はたくさんあっても」
「常に開けていられるのは僅かしかないんだもん」

何かを開けたら、何かを引っ込めなきゃならない。
思い出はそんなものだと思ってる。

「そうね、忘れてたんじゃなくて、ただ閉まってるだけ」
「それを開ける鍵が、例えば“卒業証書”というわけね?」

いつになく真面目な会話をしている。

「そう!思い出の鍵はみんな持っている」

だから、決して忘れていたわけじゃない。

「けどさ、あえて捨てた鍵もあるでしょ?」

友人が何を言いたいのか想像は付いている。
S675
(No.675完)
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[No.675-1]忘れてたから思い出す

No.675-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
それは新聞の社説に書かれていた。

「思い出す?」
「うん・・・その行為に何か引っ掛かるものはない?」

すぐに結論を言ってしまうのはもったいない気がする。
それだけインパクトがあったからだ。

「特にないけど・・・思い出すことが何か?」
「“思い出す”ってことは?」

答えが出るまでもう少し引っ張りたい。

「・・・ってことは、思い出を持ってるから?」

思い出や思い出す行為に悪い印象を持つ人はいないだろう。
私も新聞記事を目にするまではそうだった。

「例えば今なら、卒業式のこと、思い出さない?」
「まぁ・・・そうかな」

もう少しすれば、卒業証書を抱えた学生を目にするだろう。

「4月になったらなったで・・・」

今度は着慣れない真新しい制服を着た学生で溢れ返るだろう。

「そろそろ答えを教えてくれてもいいんじゃない?」
「ごめん!ごめん!」

何かのきっかけで思い出す。
今までの話なら、卒業証書であり、真新しい制服だ。
つまり・・・。

(No.675-2へ続く)

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[No.674-2]きっかけはお風呂から

No.674-2

「とにかく・・・面倒になったってこと!」

けど、良い所もある。

「良い所?」
「うん、妙に落ち着くのよね・・・」

古いからと言って、ボロボロではない。
古いなりの手入れがキチンとされている。

「全然、今風じゃないから、逆にそれがいいのかもね」

格好よく言えば、ノスタルジックに浸れる。

「おばあちゃんの家を思い出す?」
「・・・それもあるね」

昔を思い出すこともあれば、この先を考えることもある。

「ひとり暮らしを始めてから」
「何だか色んなこと、考えるようになったなぁ・・・」

それが先か、お風呂が先かは分からない。
でも、そのきっかけはお風呂が作ってくれた。

「何だか、そのお風呂に興味が出てきたよ」
「そう?・・・なんなら家に入りにくる?」

この会話なら自然な流れだ。

「いいの?入って?」
「言っとくけど、い、いっしょじゃないからね!!」

とにかくこのお風呂は色々なきっかけを作ってくれる。
S674
(No.674完)
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[No.674-1]きっかけはお風呂から

No.674-1

登場人物
女性=牽引役  男性=相手
-----------------------------
(まっ、こんなものか・・・)

下見をしていたとは言え、いざ住んでみると・・・。

「お風呂?」
「一応、付いてはいるんだけど・・・」

大学への進学を期に、ひとり暮らしを始めた。

「古いアパートだから中身もそれなりなんだよね」

それでも今の私にはそれが精一杯な状況だ。
親の仕送りには頼らない・・・そう決めたこともあるからだ。

「そんなにひどいんだ?」
「“ひどい”と言うわけではないんだけど」

良く言えば昭和テイストだ。
小さい頃、祖母の家に泊まった時と同じ“匂い”がする。

「ほら、極端に言えば・・・」
「お湯なんて蛇口をひねれば出るじゃない?」

私たちの世代はそんな環境で育った。

「でも、今のアパート・・・ちょっと面倒で」

シャワーを使うには瞬間湯沸かし器を動かす必要がある。
お風呂は水を入れて、それを沸かすタイプだ。

「経験ないよ!」

私も最初はそうだった。

(No.674-2へ続く)

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[No.673-2]私たちの見出し

No.673-2

「それで、手前味噌なんだけど」

抜群のセンスを発揮した。
あまり褒めない先生が絶賛したほどだ。

「みんなは見出しの意味をよく理解してなくて」

単なるタイトルになっていた。

「ほら、見出しって、それだけで伝わるだろ?」
「うん・・・濃縮してるって感じよね」

多くの言いたいことをグッとおさえて、ギュと詰め込む。

「なんか、それも見出しっぽい!」
「・・・ところで、覚えてる?その見出し」

さすがにほんの一部しか覚えていない。

「確か・・・」

とにかく、最後は“青春”で終わる。
これだけは、ハッキリと覚えている。

「古き良き時代だったか・・・輝かしい時代だったか・・・」

こんな風なフレーズが先行したように記憶している。

「ふ~ん、なるほどね・・・」

「じゃあ・・・今の私たちに見出しを付けるとしたら?」
「えっ!?」

ある意味、試されている気がした。
センスをじゃない・・・僕たちの関係を・・・だ。
S673
(No.673完)
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[No.673-1]私たちの見出し

No.673-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「じゃぁ・・・今の私たちに見出しを付けるとしたら?」
「えっ!?」

ある意味、試されている気がした。

「なに見てるの?」
「ん?あぁ、アレだよ」

いつ見ても感心する。
週刊誌の見出しほど興味をそそる言葉はない。

「中吊り広告?」
「あぁ・・・」

買うかどうかは別にしても記事を読んで見たくなる。

「そうね、女性誌も同じよ」
「ううん・・・それ以上かな?」

彼女曰く、読むだけに留まらないと言う。

「ほら、ファッションとか化粧品とか」
「試したくなると言うか、ついには買っちゃうんだよね」

なるほど・・・そう言うことか。

「恐るべし、見出し!って感じね」
「・・・だよな・・・そう言えば・・・」

高校の授業でそんなことがあった。

「授業で?」
「うん、国語の時間にな・・・」

新聞の見出しのようなものを考える授業があった。

(No.673-2へ続く)

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[No.672-2]消えた帽子

No.672-2

「明日も暖かかったら手袋も卒業ね!」

これを“前向き”と言っていいのかは別にしても・・・
意味も無く、羨ましく思う。

「私は・・・どうかな・・・」

寒さに弱いせいなのか、単に優柔不断なのか・・・。

「明後日もなら、薄手の上着に変えてこようかな?」

まるで季節の変わり目を楽しんでいるかのようだ。

「そうだね・・・私もそうしようかな」

決められないのなら、友人と行動を共にしよう。

「大丈夫?」
「も、もちろん大丈夫よ!」

寒さに弱くても優柔不断でも、決めたことはやり抜くタイプだ。

「じゃ何でもいいから、今日からひとつずつ卒業ね」
「今日から?・・・今日は無理よ」

あいにくマフラーも手袋もしてきている。

「えっ?だって、今日はいつもの帽子・・・被ってないじゃん?」
S672
(No.672完)
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[No.672-1]消えた帽子

No.672-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「・・・どうしようか・・・」

季節の変わり目は服装を決めるのも一苦労だ。

「おはよう!」
「おはよう!あっ・・・」

いつもと変わらない朝だ。
けど、友人の服装がいつもと違う。

「マフラーやめたんだ?」
「うん、悩んだけど、暖かくなるみたいだから」

ここ数日、昼間は春の陽気だ。
かといって、朝晩はまだまだ寒さが残る。

「まずはマフラーから卒業かな・・・って」

それだけでも随分と印象が変わる。
毎日、見慣れていただけに。

「私もまずはそれからかな・・・って思ったんだけど」

まだ手放す決心が付かなかった。

「・・・寒さに弱いし、それに今日も風が強いみたいだったから」

夏になったらなったで、今度は暑さに弱い。

(No.672-2へ続く)

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[No.671-2]おもければおもいほど

No.671-2

「重力よ、重い力の・・・その波ってこと」
「あぁ・・・なるほど」

何がなるほどなのか、自分でも良く分からない。

「まぁ、いいわ・・・説明してあげるから」

それから、苦痛でしかない1時間が過ぎた。

「・・・で、分かった?」
「うん、いやと言うほど・・・」

聞き終わってみれば、理解している自分が居る。

「特に質量が大きいと時空が歪む話なんて・・・」
「そう!その歪が公転をもたらしてるんだよね」

さっきまで、必殺技と言っていたとは思えない理解度だ。
友人の説明が上手いのか私の理解が早いのか・・・。

「それが引力というか重力なんだね」

時空なんて、目の前にいくらでも存在している。
けど、その存在を感じることはできない。

「うん!さっきあなたが言ったように重ければ重いほど・・・ね」
「重ければ、重いほど・・・か・・・」

何か引っ掛かるものがある。

「人間もだよね?」
「そうね・・・軽いけど一応、質量があるからね」

おもければおもいほど・・・か。
S671
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[No.671-1]おもければおもいほど

No.671-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「ねぇねぇ、アレ見た?」

いつものごとく、私を試すような聞き方だ。

「言っておくけど、アレじゃわかんないからね」

クイズ的なやりとりは面倒だ。
さっさと結論を導こう。

「もぉ!これからが良いところなのにぃ!」

ひとつ言える事は、かなり変化球を投げてくることだ。
アレは少なくともファッションやスイーツなどではない。

「で、なに?」
「重力波、ついに観測されたんだって!」
「・・・ジュウロクハ?」

もう一度、聞き直した方がよさそうだ。

「一応、ジュウロクハって聞こえたけど?」
「そうよ、それ」

合ってるらしい。
けど、何のことだが私にはさっぱり分からない。

「もしかして、アニメかなんかの必殺技?」

何となく聞き覚えがある言葉だからだ。

「それ・・・カメハメ波のこと、言ってる?」
「えっ!?・・・その親戚じゃないの?」

大いに違うらしい・・・友人の顔にそう書いている。

(No.671-2へ続く)

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