カテゴリー「(024)小説No.576~600」の50件の記事

[No.600-2]ふたりの行方

No.600-2

「だけど、今の状態を続けても・・・」

毎日、つらい日々の連続だろう。
何度もそんな話も聞かされたし、現場を目撃したこともある。

「・・・分かってる」
「分かってるけど・・・」

悩む理由は分かっている。
彼女はもともと行く場所も帰る場所もなかった。
それを“宿主”は知っている。
だからこそ、何事も強気だ。

「行動に移すなら早いほうがいいよ」
「・・・メールする」
「ありがとう・・・考えとく」

まれに見る彼女の笑顔だった。
・・・と、その時はそう見えた。
でも、ふたりの想いが交わることはなかった。

「離れ離れになるなよ」

彼らが再び会えるようにと、言葉だけのお節介をやいた。
別々の方向にハトが飛んで行ってしまったからだ。

あの日の僕らと同じように。
S600
(No.600完)
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[No.600-1]ふたりの行方

No.600-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
二羽のハトが仲良く地面をついばんでいる。
でも、目があってしまったせいか、空高く飛んで行った。

(わるいことしたな・・・)

そのハトを目で追う・・・ある想いを巡らせながら。

「部屋、借りようか?」

この言葉に一点の曇りがないわけじゃない。
けど、そう言わせるものを今の僕は持っている。

「・・・どうしよう」

彼女にとっても決して悪い話じゃないはずだ。
ただ、彼女も僕と同じだ。
白黒決められないものを持っている。

「マンスリーマンションなら・・・」

敷金や礼金は不要なはずだ。
賃貸より、煩わしさ感は少ない。

「うちも、そう考えてはいるんやけど」
「踏ん切りが付かない?」
「・・・せやね」

恐らく“その後”を心配しているのだろう。
確かに僕だって、いつまでも部屋を借り続けることはできない。

(No.600-2へ続く)

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[No.599-2]お手入れ

No.599-2

「でも、なんで急に?」
「パンクを修理したついでに、ちょっと拭いてみたの」
「・・・修理できるの!?」

友人の驚きはさておき、拭いた箇所が輝きを取り戻した。

「そりゃ、買った当初とまではいかないけど」
「それでも、きれいになったの」

単なる土埃ではなく、油汚れに近い。

「で、きれいにし始めたら・・・」
「なるほどね」

結果、5年分の垢を落とすことになった。

「そしたら、急に愛着がわいてきて」

それまでは、どちらかと言うと嫌いだった。
購入当初から、何となく調子が良くなかったからだ。

「今では、ほら・・・」

痛んでいたグリップやサドル、ブレーキまでも取り替えた。

「私はあなたに愛着がわいてきたわ」
S599
(No.599完)
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[No.599-1]お手入れ

No.599-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
よくよく考えなくても、購入以来始めてきれいにした。

「5年間も?」
「・・・うん」

別に、きれいにするのが嫌いなわけじゃない。
むしろ、きれい好きな方だ。

「相当、汚かったんじゃない?」
「まぁ・・・ね、それなりに」

ただ、想像していたよりはまだマシだった。

「だってさぁ、時々雨が降ったら汚れも落ちるじゃん」
「そりゃそうだけど」

確かに、それで全ての汚れが落ちるなんて思っていない。

「それに、外に置いてるわけだし」

駐輪場に屋根は付いているものの、基本、野ざらしだ。

「だから、きれいにしない?」
「そうね・・・そんなとこ」

きれいにした所で、すぐに雨風や埃にさらされる。

(No.599-2へ続く)

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[No.598-2]風化

No.598-2

「メールくらいくれてもいいだろ?」
「・・・ごめんね」

急にしおらしく、してしまった。

「とは言え、遠距離恋愛中の恋人同士じゃないわけだし」
「そうだけど、色気がないこというなよ」

彼とは、昔同じ職場で働いたことがある同僚だ。
特別な感情はない・・・つもりだ。

「ちょっと、しんどい時期があってね」
「そう・・・わかった」
「これ以上聞かないの?」

聞かれなければ聞かれないで、どこか寂しい面もあるが・・・。

「それで十分だよ」
「・・・ありがとう」

電話もメールもできないほどじゃなかった。
けど、到底、そんな気にはなれなかった。

「言わば、2年という時が解決してくれたわけだ?」
「そうね・・・風化とは良く言ったものよ」

いつの間にか、風に吹かれて傷も癒えた。

「傷が風に化けて消えて行った・・・そう考えるのも悪くないな」
S598
(No.598完)
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[No.598-1]風化

No.598-1

登場人物
女性=牽引役  男性=相手
-----------------------------
「久しぶり~!」

ここ数週間で、何度この言葉を口にしただろう。

(口だけでじゃないけど・・・)

「ほんと、久しぶりだよな」
「連絡くらい、してくれれば良かったのに」

皆、口々にそう言ってきた。

「ごめん、ごめん、色々あって・・・」
「・・・それ“聞いて”っていう前振り?」
「ち、ちがう!ちがう!」

全力で否定した。
意味深な発言をしてしまった自分にも責任がある。
けど、そう解釈してしまうのは大阪のノリなんだろうか?

「話したくなかったら、聞かないけど?」

そう畳み込んで来るのも彼らしい。

「まぁ、いいじゃん!・・・ところでさぁ・・・」

無理やり話を終わらせたつもりだった。

「ふ~ん・・・」

いや・・・終わらせてくれないらしい。

(No.598-2へ続く)

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[No.597-2]資格取得

No.597-2

「昨日試験どうだった?」

彼女と顔を合わせるなり、いきなり声を掛けられた。

「・・・ごめん、聞いちゃダメな結果だった?」
「ううん、多分大丈夫」

面食らう僕を見て、そう感じたらしい。

「な~んだ・・・心配したじゃん!」

自己採点の結果、余裕をもって合格圏内だった。

「とにかく、この半年頑張ったからな」

思い返せば、彼女の一言から勉強はスタートした。

1ヵ月後、試験の結果が公表された。
もちろん、合格していた。

「合格したよ!」
「おめでとう!頑張ったもんね」

本当は昇格なんて二の次だ。
目の前に居る人にほめてもらいたい・・・ただそれだけだった。
S597
(No.597完)
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[No.597-1]資格取得

No.597-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
別に自分の会社だけではないと思う。
昇格するには、それなりの資格の取得が必要だ。

「今度、経理関係の資格を取ろうと思ってる」

技術系の僕には、畑違いでハードルが高い。

「・・・昇格狙い?」
「あっ・・・うん・・・分かる?」
「だって人事部よ、私」

そろそろ本気で考えなくてはならない年齢になった。

「グズグズしてられないし」

そんな動きが同期の中にも見え隠れしてきた。

「取れそう?」
「とにかく、やるしかないだろ?」

試験日までは、まだ半年もある。

「ダメよ!半年なんて、あっと言う間よ」
「だから、今日からでも始めなきゃ!」

その言葉通り、購入したての参考書を片手に帰り道を急いだ。

(No.597-2へ続く)

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[No.596-2]人間のくず

No.596-2

「さすがに今は言えないわ」

確かに彼が100%悪い。
けど、だからと言って、何を言ってもいいわけじゃない。

「今でも後悔してる」
「仕方ないでしょ?その時はその時なんだし」
「でも・・・」

今でもたまに、その言葉を耳にすることがある。
やはり、何度聞いても心が痛む。

「まぁ・・・言葉の割には・・・ね」

しばらく沈黙が続いた。

「ごめん・・・私のせいで・・・」

楽しいはずのランチの時間だった。

「別に気にしてないわよ!」
「ところで・・・知ってる?」

同僚が身を乗り出してきた。

「“くず”ってね・・・経理上は資産と同じなのよ」
「・・・意味分かんない!?」

経理部の同僚と総務部の私の会話は、時々かみ合わない。S
(No.596完)
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[No.596-1]人間のくず

No.596-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
過去に一度だけ、その言葉を言い放ったことがある。

「へぇ~、今のあなたからは想像できないわね」

随分と昔の話だ。
当時、私も彼も若かった・・・と言うより、未熟だった。

「どうしても許せなくて、それで・・・」

それはごく日常的な言葉だ。
けど、それを“人間”に当てはめると途端に醜い言葉に替わる。

「その言葉で彼を傷付けてしまったわ」
「よほど、何かゴタゴタがあったわけ?」

彼が浮気をした。

「・・・よくあることよね?」
「私の友人と」

今、思えば、最初から友人を狙っていたのかもしれない。

「えっ!?」
「確かに、そんなに珍しくはないかもしれないけど」

少しイヤミな返事を返した。

「だから、言ってやったの!」
「人間のくず!!って」

だだ、想像以上に後味の悪い言葉だった。

(No.596-2へ続く)

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