カテゴリー「(020)小説No.476~500」の50件の記事

[No.500-2]待つ気持ち

No.500-2

「でも、そんなに長い時間、退屈だろ?」
「そうでもないで」

携帯をいじっている姿を一度も見たことがない。
改札を真っ直ぐに見つめている・・・そんな姿が印象的だ。

「・・・なら、いいけど」

聞きたいことが聞けずに話が終わった。

「そういうことや!ほな、早よ行こ!」

そう言うと、腕をグイグイと引っ張る。

(なにを考えてたんだろう・・・)

偶然、あの時と似たシチュエーションになっている。
ただ僕は、スマホで暇をつぶそうとしている。

「純粋に僕を待ってくれていたのかな?」

もともと微妙な関係の僕たちだった。
友達でも恋人でもない。
利害が一致する者同士・・・そんな言い方が似合う。

(単なる義務感もあったかもしれないな)

彼女がどんな想いで僕を待っていたのか、もう知る由はない。
今になって、胸にこみ上げてくるものを感じた。

『気にせんでええよ!』

あの元気な声が聞こえてきた。
S500
(No.500完)
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[No.500-1]待つ気持ち

No.500-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
(ちょっと、早すぎたかな?)

待ち合わせの時間になるまでには、あと30分もある。

(まっ、暇でもつぶすか・・・)

今の時代、スマホがあれば十分、暇をつぶせる。
つぶせるどころか、逆に足りなくなる場合もあるくらいだ。

「とりあえず、このあたりで」

スマホに熱中し過ぎて、相手に気付かれないと大変だ。
改札から、一目で見える位置を陣取る。
これなら、たとえ下を向いていても気付くはずだ。

(ん?なんだ・・・この変な感覚は・・・)

陣取ったのはいいけど、妙な気分になった。
体が何かを思い出したからだ。

「ごめん、待った?」
「待ったけど、待ち合わせの時間の30分前やで」

いつもこんな調子だった。
待ち合わせの時間よりも、お互い早く到着する。
それに彼女の方が僕よりも更に上を行く。

「それもそうだよな」
「だから、全然気にせんでええよ」

とは言うものの、いつも1時間前には到着しているらしい。
僕が到着するまでに、彼女は何を考えているのだろう?
ふっとそんな疑問を投げ掛けたくなった。

(No.500-2へ続く)

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[No.499-2]空き箱

No.499-2

「でも、色んな空き箱があるわね」

そう言うと、友人が箱を一箇所に集めだした。
確かに大きいものから小さいものまで様々な箱がある。

「何に使うわけ?」
「何に、って・・・」

意識していなかったわけだから目的や理由があるはずもない。
けど、何かあるはずだ。
無意識にそうしてしまう理由が・・・。

「別に小物を入れたりするわけでもないでしょ?」
「そうね・・・空き箱のままみたい」

自分のことなのに、なぜか他人行儀な口調になった。

「これだけあると、ベタなロボットくらいはできそうね」
「ほんと、これなんか胴体に丁度いいサイズ・・・」

思い出した・・・。

「無くて苦労した経験があるからなんだ!」
「な、なによ急に・・・結論!?」

小学生の時、夏休みの宿題で工作があった。
毎年、その時に限って空き箱がなかったことを覚えている。
空き箱を求めて、家中探し回ったこともある。

「空き箱が無くて、中身を出してもらったこともあった」

母に頼んで無理やり空き箱に仕立てた。

「もしかしたら、その時のトラウマなのかな?」

そう思いながら、石鹸の空き箱をひとつ手に取る。
想像力をかき立てる、何かがこみ上げてくる気がした。S499
(No.499完)
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[No.499-1]空き箱

No.499-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「ちょっと気になってること言っていい?」

もしかして・・・。

「ごめん、ごめん!やっぱり匂う?」

今朝、朝食に魚を焼いた。

「匂い?ちがう、ちがう!」

そう言うと、部屋の数箇所を指差した。

「気のせいか、箱、多くない?」
「箱?」
「ほら、お菓子の箱とか石鹸の箱とか」

自分の部屋なのに、改めて辺りを見渡す。

「・・・ほんとだ」
「けど、ちょっと違うけどね」

自分の部屋だけに内情は一番よく知っている。

「空き箱なの、ほとんど」

つまり、中身は入っていない。

「捨てられない主義?」
「そうでもないんだけどなぁ・・・」

どちらかと言えば、まだ使えるものだって、捨てる派だ。

「だよね、それ以外はキチンと片付いているし」
「・・・なんでだろう?」

今まで全く意識をしたことがなかった。

(No.499-2へ続く)

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[No.498-2]つなぐ

No.498-2

電車の音だけが、車内にこだましている。
タイミングが悪く、車内には僕らの他、数名しか居ない。

どれくらいの時間が経過した頃だろうか・・・。
マネージャーが再び口を開いた。

「・・・ねぇ、今日、練習どうする?」

(今日?試合が終わったばかりだろ?)

「試合の日は、いつも練習はしないだろ?」
「なに言ってんのよ!練習不足が招いた結果でしょ!」
「・・・ふ、ふざけん・・・」

言い終わる前に気付いた。
マネージャーが泣いている。

「・・・だよな・・・もっともっと練習が必要だよな!」

その涙には色々な理由があるのだろう。

「そうよ、練習しなくちゃ!みんなも」

その言葉に、ようやく皆の顔が上を向いた。

「ありがとう・・・さすがマネージャーだよな」
「なに言ってんのよ!特にあなたとあなた!・・・」

僕とあいつを指す。

「わ、わかったから!」
「わかってんなら・・・」
「たっちゃん、私を全国大会に連れてって」

どこかで聞いたことがあるセリフに、ようやく皆に笑顔が戻った。S498
(No.498完)
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[No.498-1]つなぐ

No.498-1

登場人物
男性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
帰りは、行きとは全く異なる空気になった。
原因は自分にある。

「・・・そんなに気にすることないよ」

さっきから口を開くのはマネージャーだけだった。

「達也のせいでも、誰もせいでもないよ」

そんなことはない。
少なくとも僕とあいつの責任だ。

「リレーだもん!そんなアクシデントもあるよ」

僕が二走目で、あいつは三走目だった。
この間で、バトンパスが途絶えた。
結果的に、僕らのチームは完走さえ出来なかった。

「他の人もそう思ってるよ」

果たしてそうだろうか?
他のふたりからは、そんな言葉が聞こえてこない。
ただ、怒ってはいない。
ショックで言葉が出ない・・・そんな雰囲気だ。

「僕らよりも・・・」
「・・・アンカー?」

そう・・・アンカーはただ呆然と立ちすくむだけに終わった。
ある意味、僕ら以上にショックだったと思う。

「あぁ、走れずに終わったんだぜ?」

この言葉を最後に、マネージャーさえも口を開かなくなった。

(No.498-2へ続く)

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[No.497-2]金木犀

No.497-2

「それに比べて、この匂いは・・・」
「ある日突然“来た!”って、感じだもんね」

その突然さが、印象に残る理由なのかもしれない。

「わたしもあるのよ、風物詩」
「何の花の匂い?」
「ううん・・・花じゃない」

(花じゃない?)

だったら、何の匂いなんだろうか?

「・・・匂いでもなくて」

(匂いじゃない?)

「たぶん、そろそろ分かるわよ」

一体、なにが分かるというのだろうか?
特に変わった雰囲気は感じられない。

「なにも、なさそうだけ・・・!?」

その時だった。

「わぁぁぁ!」

忘れていた。
この季節、あまり綺麗とは言えない小川沿いは危険地帯だった。
蚊のような虫が大群で舞うようになるからだ。S497
(No.497完)
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[No.497-1]金木犀

No.497-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「きんもくせい!!」

(あっ!しまった・・・)

思わず口に出てしまった。
初めて即答できたからだ。
いつもはしばらく悩んだあげく、別の花に行き着いてしまう。

「・・・だよね?」

友人も同時に匂いを察知したようだ。

「どうしたの急に!?」
「・・・ほら、もうそんな季節になったのかな?って」

自分にとっての風物詩だ。
通勤経路が変わっていないから、毎年、匂いをかぐことになる。

「言われてみればそうよね」

季節の移り変わりを感じることは他にもある。
けど、これほどまで印象的なものはない。

「嗅覚恐るべし!ってとこかな?」

確かにそうだ。
視覚や触覚を抑えて、私の中では嗅覚が一番ということになる。

「まぁ、暑さ寒さは、徐々に変化するからね」

時に緩やかな変化と言えない場合もある。
でも、知らず知らず寒くなっていることが多い。

(No.497-2へ続く)

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[No.496-2]EACH TIME

No.496-2

(あれ?まだ持ってたんだ・・・)

押入れの奥の小物入れから、カセットテープが数本出てきた。
その内の一本に“EACH TIME”と書かれていた。

「懐かしいな・・・」

その昔、友人から借りたレコードをカセットテ-プへダビングした。
聴いてみたいが、再生する装置が手元にない。

「世の中、進んでいるのやら遅れているのやら・・・」

(あっ!そうだ・・・)

今の時代、ネットを使えば何とでもなる。
案の定、検索すると無料で聞けるサイトがすぐ見付かった。

「でも、なんだろう・・・」

画面をクリックすれば、懐かしい音楽を聴くことができる。
それなのに、何だか躊躇している自分がいる。
できれば、カセットテープで聞いてみたい。

「ラジカセ・・・まだ、あったかな?」

実家に確認したが、さすがにもう捨ててしまったようだった。
それとは逆にあるものが見付かった。

「わぁ!返すの忘れてたぁ!」
S496_2
(No.496完)
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[No.496-1]EACH TIME

No.496-1

登場人物
女性=牽引役  女性=相手
-----------------------------
「これ聴いてみない?」

友人から一枚のレコードを手渡された。

「EACH TIME・・」
「洋楽なの?」

音楽に“うとい”わけじゃない。
けど、ジャケットからはそんな程度の情報しか伝わらない。

「ううん、邦楽だよ」
「大瀧詠一、知らない?」

とりあえず、名前は知っている。

「とにかく聴いてみなよ」

半ば強引に、レコードを押し付けられた。

「私に必要?」

恋愛関係なら 今の所、必要ない。

「まぁまぁ、それはそれで!」
「・・・分かったわよ」

たまには良いのかもしれない。
普段、聴かない音楽を聴いてみるのも。

(No.496-2へ続く)

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