カテゴリー「(019)小説No.451~475」の50件の記事

[No.475-2]食堂の匂い

No.475-2

私が今住んでいる家の最寄り駅は親戚の最寄駅と似ている。
改札を抜けた辺りから匂いがしてくることも同じだ。

「今のようにね」

それを子供心に“食堂の匂い”と表現した。
匂いの具体的な“手本”があったわけではない。
何となく、それに落ち着いた。

「だからと言って、何か具体的な想い出があるわけじゃないの」
「体が反応しているというか・・・」

大げさだが一瞬、タイムスリップした気分になる。

「こんな気分になるのは、ここだけと言うか、これだけ」

懐かしさがこみ上げてくる。
同時に、だんだんと足が遠のいて行ったことも想い出す。

「足が遠のいた原因は?」
「特別何もない」

別にこの親戚に限ったことではなかった。
成長と共にどこに対しても足が遠のいた。

「なんか、締まりのない話でごめん・・・」

結局、私は何が言いたかったんだろう。
昭和の雰囲気を残す商店街は今日も活気で溢れている。
S475
(No.475完)
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[No.475-1]食堂の匂い

No.475-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
匂いの元は、その時々で違うとは思う。
けど、それらをひとくくりにして“食堂の匂い”と表現している。

「匂いの想い出ってこと?」
「うんん・・・微妙に違う」

確かに視覚でも聴覚でもなく、臭覚には間違いない。
ただ、匂いそのものの想い出ではない。

「その匂いを嗅いだら想い出すの」

中学生になる前まで、よく訪れていた親戚がいた。

「その家の匂い?」
「・・・じゃなくて、最寄の駅に降り立った時の匂い」

最寄の駅に降り立つと、いつも油っぽいような匂いがした。
すぐそばに商店街があったからだと思う。

「決して嫌な匂いじゃないけど・・・なんていうか・・・」
「今、しているこの匂いのことでしょ?」
「そっ、そぉぅ!」

表現し難い匂いだけに、思わず声が裏返ってしまった。

「でも、なんで分かったの?」
「・・・と言うより、想い出したから口にしたんでしょ?」

見事に当たっている。

(No.475-2へ続く)

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[No.474-2]迷子のコリラックマ

No.474-2

「いいや、ちょっと待って!」
「100数えるかい?・・・それとも目をつぶる?」

言うなればかくれんぼだ。
菜緒(なお)なりの流儀があるのかもしれない。

「ちがうねん、なんてゆうたらええんかな・・・」

珍しく歯切れが悪い。

「探せばいいんだろ?」
「せやねんけど・・・」
「うちが声を掛けたら探して」

今まで以上に怪しい展開になってきた。
コリラックマを一体、どこに隠したのだろうか?

(けど、探しがいがあるってことかな?)

「ええよ!」
「ん?・・・探していいってこと?」
「それでは、改めて探すと・・・」

探し始めようと腰を上げた、その時だった。

「あぁー!」
「あぁー!って、なになに!?」
「お尻の下?ウソだろ!?」

今回はどうやら踏んづけてしまった設定らしい。
474
(No.474完)
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[No.474-1]迷子のコリラックマ

No.474-1   [No.07-1]せいじゅうろう

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
「どこにもおらへん!」

そのセリフとは裏腹に、菜緒(なお)の表情は穏やかだ。

「せいじゅうろうか?」

何度かこんなパターンは経験している。
こちらも当たり前のように対応した。

「ちがうねん!今回はコリラックマなんや」

あいにく、コリラックマには名前がない。
“せいじゅうろう”のように菜緒が名付けた名前が。

「め、めずらしいな」

ちょっと意表を突かれた気分だ。
今までは、ずっとせいじゅうろうだったからだ。

「心当たりは?」

聞かずとも本人は知っているはずだ。
なにせ自作自演だからだ。

(まぁ、いつもの通りつきあうか・・・)

呆れているわけではない。
逆に、最近では楽しみになってきたくらいだ。

「じゃぁ、探すとするか!」

(No.474-2へ続く)

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[No.473-2]私でした

No.473-2

(ん!?)

帰りの電車の中で、独特の匂いに気付いた。

(これ・・・)

間違いなく、551の豚まんの匂いだ。
何気なく車内を見回すと、答えはすぐに見付かった。
さっきまで、この話題をしていたばかりだ。
偶然とは言え、知らせるしかないだろう。

『何だか551の匂いが・・・斜め前の人でした!』

メールを送った。

別に悪い匂いじゃない。
むしろ、食欲がない自分でさえ、食欲を誘う匂いだ。
ただ、周りの数人もキョロキョロしている。

そうそうに返信があった。

『私の周りも何だか551の匂いが・・・』

(そっちも!?偶然ってほんとうに重なるもんだな・・・)

『・・・私でした!』
S473
(No.473完)
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[No.473-1]私でした

No.473-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
「えっ!夏場なのに!?」

ひょんなことから、今夜の夕食の話になった。

「うん!夏場だからこそ、ビール片手に・・・」
「551?」

大阪で551と言えば、あれしかない。
あまりにも有名過ぎる。

「そっ!豚まんが合うんだよね」

確かに汗をかいた時は、塩っけが欲しくなる。
いわゆる、海の家で言う“ラーメン”だ。

「急に食べたくなって」
「あるでしょ?そんなとき」
「まぁ・・・なくはないけど」

ただ、こう暑くては食欲自体、減退している。

「これから買って帰ろうかと思って」
「じゃあ、また今・・・」

言い終わる前に、目線の先にある551に向かって走り出した。
そこまでして食べたかったのだと思うと何だか笑える。

(No.473-2へ続く)

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[No.472-2]カモとハト

No.472-2

「羨ましい?」
「うん、ちょっと・・・な」

彼女はそこに何を重ね合わせているのだろう・・・。
僕が言った通り、恋人かもしれないし、違うかもしれない。

「ずっと、一緒に居れたらええな」
「そうだね」

その鳥のことのようでもあり、僕たちのことのようでもある。
そんなセリフとして聞こえた。
けど、僕は後者のつもりで答えた。

「ずっと、一緒に居られるさ!」
「せやな」

さっきと立場が逆転したような会話になった。
それでも本心は隠したままだった。
それは、彼女も同じかもしれない。

「うちは、ハトかもしれへんな」
「なんで?」
「群れてるようやけど、ひとりぼっちやから」

答えに困る。
言っている意味が分かるからだ。

「けど、その群れの中で心配そうに見つめているやつもいるよ」
「・・・それなら、嬉しいけどな」

どちらからともなく、手をつなぐ。
まるで、それが答えかのように。
S472
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[No.472-1]カモとハト

No.472-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
「あれ見てん!」

声の勢いに釣られて、思わずその方向を見てしまった。

「・・・って、どこ!?」

まるで漫才のボケとツッコミのタイミングだった。

「ほら、あそこに鳥がいるやん!」
「・・・鳥?」

(宇宙人じゃあるまいし、今さら鳥ごときで・・・)

「あのカモみたいなやつか?」
「せやで」

何の鳥か自信はない。
けど、雰囲気からして、そうだと考えた。

「別に珍しくもないだろ?」
「せやかて仲がええやん!」

確かに、2羽で行動しているのが数組いる。

(もしかして、おしどりかな?)

「夫婦かな?恋人同士かな?」

話を合わせて見た。
仲が良さそうなのは事実だからだ。
ただ、カモらしき鳥を見る彼女の目が何となく寂しそうに見えた。

(No.472-2へ続く)

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[No.471-2]どかん

No.471-2

でも、そんな“どかん”も、とうの昔に取り壊されていたようだ。
正確には、裏山そのものがなくなっていた。

「今となっては、いい想い出ね」

どかんは、いわゆる“立ちはだかる壁”だった。
幼い私たちにとっては。

「壁ならぬ“穴”ってとこだけど」

いつか大人になったら、どかんを通り抜けたい。
誰もがそんな想いに駆られていた。
だから、どかんに対して恐怖心はなかった。
むしろ、偉大な存在として君臨していた。

「子供心に敗北感があったのは確かね」

そんな偉大な“どかん”も、今は影も形もない。

「この窓から見えていたのにね」
「そうそう!この位置がベストなんだよね」

今は単なる住宅街が見えるだけだ。

「でも、こうしてこの窓から外を見るのも最後になるわね」
「・・・あのあたりだよね?どかん」

指さした先に、遠い記憶が蘇る。
偉大なる、どかん。
そして、その前で躊躇する私たち。
S471
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[No.471-1]どかん

No.471-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
通称“どかん(土管)”
少なくとも私たちはそう呼んでいた。

「結局、どこに続いてたんだろう・・・」

卒業以来、十数年ぶりで小学校の同窓会が開かれた。
再開を懐かしむ声も、すぐに“どかん”へ話が移った。

「そうね、分からずじまいだったね」

学校の近くに小川が流れていた。
小川は裏山のトンネルに吸い込まれるように繋がっていた。
そのトンネルを“どかん”と呼んでいた。
なぜそう呼んでいたかは定かではない。

「だって、真っ暗なんだもん・・・当たり前だけど」
「だよね・・・」

当時の私たちなら、立ったまま余裕で通れる大きさだった。
男子に混じって、私たちも何度か中に入った。
とは言え、数メートルも進めなかった。

「それに・・・覚えてる?」
「・・・今で言う、都市伝説ね」

中に滝つぼがあるとか、巨大な魚が居るとか居ないとか・・・。
今思えば、単なるうわさだったかもしれない。
私たちを中に入れないための・・・。

「確かに、そのうわさがあったから・・・」
「奥まで行く人は誰も居なかったよね」

(No.471-2へ続く)

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