カテゴリー「(014)小説No.326~350」の50件の記事

[No.350-2]どしゃぶりの雨の中で

No.350-2

「女子とは思えない行動ね」

確かに小学生の男子並みの行動だ。

「その発言、小学生の男子を敵に回すよ!」

とは言え、わんぱく少年そのものだ。

「それで?」
「・・・それで?って言われても・・・話は以上だけど」
「嘘付いてない?」
「嘘?・・・全部、ほんとだよ!」

事実、どしゃぶりの雨に降られて、それはもう・・・大変だった。
多少の脚色はあったとしてもだ。

「さっき話の最後になんて言ったっけ?」
「最後?・・・“もういいや”だけど」

明らかに何か言いたそうな顔をしている。

「“もういい”のは、雨に濡れること?それとも恋?」
「・・・そ、それは」
「私もね、したことあるんだ、同じこと」

聞けば、あえてどしゃぶりの雨を選んだと言う。
失恋の痛手をもっと自分を惨めにさらすことで乗り越えようとした。

「雨と一緒に苦しみも」
「・・・流れてしまえ・・・か・・・」

前の恋を今でも引きずっているのは事実だ。
無意識にどしゃぶりの雨に降られることを選んだのかもしれない。

「いずれにせよ、雨は避けるだけじゃなくて」
「たまには降られるのも良いかもしれない」

ただ、少し心配になった。
雨に苦しみや悲しみが混じっていることを考えたら・・・。

「大丈夫よ!地球には浄化作用があるからね」No350
(No.350完)

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[No.350-1]どしゃぶりの雨の中で

No.350-1

登場人物
=牽引役(女性)=相手(女性)
-----------------------------
「演歌のタイトル?」
「・・・違うよ」

本題に入る前に、少しだけ勘違いさせたまま話を続けることにした。

「じゃあ何よ・・・洋楽の邦楽タイトル?」
「また、変化球で来たわね」
「もしかして、今流行のAK・・・」

面倒になる前に、本題に戻すことにした。

「ごめん、ごめん、曲のタイトルじゃなくて」

単なる自然現象の“雨”に他ならない。
ただ、どしゃぶりを“単なる”という言葉で片付けて良いかは別だが。

「要は激しい雨ってこと?」
「そう、それそれ!」

1週間ほど前、急な大雨に降られた。
最初は小降りだったことが、判断を誤らせた。
大丈夫と思い、自転車を漕ぎ出して、少ししたら・・・。

「どしゃぶりになってしまったわけね?」
「うん、それに傘、持ってなかったし」
「そんなのコンビニに行けば・・・」
「行けたら行ってたわよ」

鶏が先か、卵が先か・・・的な話になるだろうか?
どしゃぶりのせいで一瞬にして、ずぶ濡れになった。
だから、コンビニに立ち寄るのさえ恥ずかしい状態になっていた。

「行こうか行かまいか迷っていたら」
「ますます、ずぶ濡れ?」

結局、もっと悲惨な状態に陥った。
まるで服を着たまま靴を履いたまま、お風呂に入ったようだった。

「それで、“もういいや!”と思って」

どしゃぶりの雨の中、自転車を滑走させた。

(No.350-2へ続く)

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[No.349-2]眼鏡で背伸び

No.349-2

だから、僕は軽く嘘を付いたことになる。

那央(なお)は、“度”が合わなくなったと聞いたはずだ。
僕はそれを分かってた、だから・・・。
“自分に似合わなくなった”と答えるべきだった。
“度”ではなく、あくまでもファッション的な好みによる理由だと・・・。

『ちゃんと合う眼鏡、買うんやで』
『ちゃんと合う眼鏡、買うよ』

オウム返しに近い、返事をした。
軽い嘘を付いている状態でも、話は成立している。

『今度、見せてな』

普段は眼鏡を掛けていない。
だから、あえてお披露目する必要があった。

『分かった、見せるよ』

実はファッション的な好み・・・の先にも理由があった。
でも、買い替える本当の目的を話す必要はないだろう。
買い替えることには違いがないのだから。

「少しは格好よく見えるかな?」
No349
(No.349完)

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[No.349-1]眼鏡で背伸び

No.349-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
『今、眼鏡屋さんに居るんだ』

那央(なお)からのメールに返信した。

『そうなんや、合わなくなったん?』

少しだけ、返事に間を作った。
軽い嘘を付く必要があったからだ。

『うん、合わなくなって』

眼鏡屋を訪れた理由は簡単明白だ。
まぁ、そんなに大袈裟に言うものではないだろうが・・・。
理由なんてたかが知れている。
新しく作るか、買い替えるか・・・概ねそのどちらかだろう。

『やっぱりそうなんや』
『それで買い替えようと思って』

言葉の上では、嘘を付いていない。
確かに買い替え目的で眼鏡屋を訪れている。
それに“合わない”から買い替えようと思った。

ただ、“合わない”のは那央が思っているそれとは違う。

(No.349-2へ続く)

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[No.348-2]女友達

No.348-2

「分かってるなら、直さなきゃ」
「苦手なんだよ、女・・・」

言い掛けて、ハッと口を閉じた。
目の間に居るのも、紛れもなく女子だ。
ポジション的には単なる知り合いであっても矛盾が生じる。

「なによ?途中まで言い掛けて」
「・・・いや、まぁ、苦手なんだよ、会・・・」

言い掛けて、また口を閉じた。
苦手なはずの会話が活発に行われている今この瞬間。
これまた矛盾が生じてしまう。

「・・・さっきから言い掛けてばかりじゃない」

うかつに返答できなくなった。

「と、とにかく緊ちょ・・・」
「・・・緊張・・・するってこと・・・?」
「えっ!?」

“じゃあ、私なら緊張しないわけ?”と顔に書いてある。
裏を返せば、もちろん・・・。

「ふ~ん、私って“女子”とは見られてなかったんだ?」

どうやら最初から感づかれていたようだった。

「そんなことないよ」
「いいよ、別に・・・でもこれで良く分かったでしょ?」
「・・・なにがだよ?」

表情が怪しい・・・いや、俗に言う“したり顔”で俺を見つめる。

「紹介した女子、色んなタイプが居たと思わない?」
「あぁ、確かに性格はみんな個性的だったけど・・・!?」

この後、女友達から告白された。

(No.348完)

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[No.348-1]女友達

No.348-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
「結局、みんなダメにしちゃったんじゃない!」
「うぅ・・・」

当たっているだけに反論は小さなうめき声だけになってしまった。

「いつもアドバイスしてるでしょ?」

中学時代から知っている女子が居る。
自分の中では単なる“知り合い”程度のポジションだ。
友達と呼べるほどの関係でもない。
ただ、適当な言葉が見つからず、とりあえず“女友達”にしている。

「仕方ないだろ」

別の見方をすれば見合い写真を押し付ける親戚のおばさんだ。
テレビで似たようなシーンを何度も見かけた。

「全然、仕方なく思ってない!」

卒業を前に、高校3年間の集大成が“今”行われている。

「思ってるよ、でも・・・」

恋のキューピット役をかって出てくれたことには感謝している。
何度も彼女を紹介してくれたからだ。

「・・・でも、なによ?」
「いつも自然消滅するんだ」

原因は何となく分かっている。

「クールに惹かれて、本当にクールだから引かれる・・・でしょ?」

謎掛け風の言葉でも、漢字は目に浮かぶ。

「言っとくけど、クールって・・・」
「分かってるよ、本来の意味じゃないってことだろ?」

早い話、俺は無口だった。

(No.348-2へ続く)

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[No.347-2]遅いメール

No.347-2

『・・・私も好きです』

メールの内容がガラリと変わり、そんな言葉で締められていた。
もちろん、“何を私も好き”なのかは不明だ。

「何書いたっけ・・・」

改めてどんな内容のメールを送ったのか、記憶をたどる。
けど、昨日の夕食さえ思い出すのに苦労する人間だ。
相当前のメールなんて記憶の隅にも有りはしない。

(ま、まずいな・・・)

「・・・いいや、考えようによっては・・・」

そう、チャンスでもある。
ある意味、どさくさに紛れてと言うか、勢いと言うか・・・。
そう考える間もなく、指が勝手に動いた。

『・・・僕もやっぱり好きだ』

“も”が重要だ。
相手が“私も”ときたからには、僕が何かを好きだと言ったはずだ。
さながら名探偵のごとく、返事をした。

それに万一の時には勘違いで済まそうと考えた。
その“何か”を動物とか食べ物に置き換えればいい。
本当は僕が好きなのは“何か”ではなく、はっきりしているが・・・。

『じゃあ、付き合ってください』
『もちろんだよ!』

これからバラ色か修羅場が始まることになりそうだ。
でも人生で一度や二度、こんなことがあっても許されるだろう。

『ありがとう、重いから覚悟しといてね』

重いのは彼女の想いではなく、荷物の重さだったことを後日知った。

(No.347完)

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[No.347-1]遅いメール

No.347-1

登場人物
=牽引役(男性)=相手(女性)
-----------------------------
「う~ん・・・」

一通のメールを前に、しばらく腕組みが続いた。
別に難しいことが書いてあるわけではない。

「これ・・・いつのメールに対する返信だろうか?」

そうなる原因はいくつかある。
僕が送信メールをすぐに消してしまう習慣があること。
それにメールにタイトルを付けないこともそうだ。
そして何よりも・・・。

「相変わらず、智香(ちか)の返信は遅いな」

とは言え、明日の約束を求めるような内容ではない。
仮にそうなら、とっくに関係は破綻している。

送るメールは、主に僕の近況報告だ。
それに返信しなければならない内容はあえて含ませていない。
こうなることが分かっているからだ。

「でも返事がなきゃないで・・・」

正直、寂しい。

「とにかく」

今、目にしているメールは、送ったメールの返信には間違いない。

『確かにそれが大事なんだよね・・・』

その一言に続いて、色々と話が展開していた。
ただ、“それ”とか“あの”とか言われても、答えは前のメールにある。
・・・であれば送信メールを消さなければいい。

(それはそれで、まぁ・・・なんだ・・・)

とりあえず有らぬ波風を立てない男のマナーとでも言っておこう。

(No.347-2へ続く)

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[No.346-2]パッセージ

No.346-2

「気持ちいいぞ!」
「いやよ、焼けちゃうから」
「じゃあ、俺だけ・・・」

そう言うとひとり夏の砂浜へ駆け出して行った。

「ほんと、子供なんだから」

遠くからでも何となく分かる。
彼のハシャギっぷりが・・・。

いつもの仲間たちは今日は居ない。
出逢ってから、初めてふたりきりで海にやって来た。

「こっちに来いよー!」
「だから、行かないってばぁ!」

恥ずかしくなるくらい、ありったけの大声で返事をした。
それでも、夏の海には十分とは言えなかった。

「ほらっ、よ!」
「わっ!あ、危ないじゃ?・・・あっつい!!」

彼が缶コーヒーを私に向けて放り投げて来た。
そして、そのまま砂浜に向かって彼が駆け出して行った。

「まったく、もぉ」

あの時とシチュエーションが似ている。
缶コーヒーの熱さが当時の記憶を呼び戻した。 

遠くでハシャグ彼の姿をボンヤリ見ている。
その姿と元カレの姿が瞳の奥で重なった。
No346
(No.346完)

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[No.346-1]パッセージ

No.346-1 パッセージ 工藤静香 歌詞情報

登場人物
=牽引役(女性)=相手(男性)
-----------------------------
出逢いのきっかけは、笑ってしまうほどだった。

「なっ!そう思うだろ?」

(えっ!い、痛っ!)

誰かに左の肩を思い切り叩かれた。

「ちょ、ちょっと!」

反射的に叩かれた方に顔を向ける。
ひとりの男性がもうひとりの男性としゃべっている最中だった。
友人同士だろうか・・・。

(そんなことより!!)

人の肩を叩いておいて、一向にこちらを気にする気配がない。
相変わらず顔は向こうを向いたままだ。

「・・・」
「えっ!?」

声を出した理由はふたつある。
ひとつは私ではない誰かの名前を呼んだこと。
そして、呼びながらその男性が私の左手を握ってきたからだ。

「ところでさぁ・・・」

そう言うとようやく顔を私の方に向けた。
それと同時に・・・。

「・・・?わぁー!ごめん」

肩を叩かれてから、ほんの数秒間の出来事だった。

(No.346-2へ続く)

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